回り始めた運命の歯車は羞恥と共に。3
その3。後1回だけ続きます。
内容が少なくなり過ぎないように頑張ります…。
俺は次の可能性を俺は尋ねてみる事にした。
(女神様に呼ばれたという事は、俺は元の世界に戻してもらえるんですか?)
その問いかけに、女神様は目を伏せて考え込む素振りを見せた。
やがて視線を戻し、俺をじっと見つめてこう答えた。
―――どうしても戻りたい、というのであれば戻す事自体はおそらく可能です。―――
(自体は?おそらく?)
何だか歯切れが悪い。
俺を元の世界に戻したくない?
もしかして俺って偶然飛び込んだものの、並行世界を救う勇者とか
救世主的な役割を果たすんだろうか。
淡い期待が生まれる。
―――いえ、そうではありませんが。―――
(そうですか)
分かっていたけどな。改めて言われて肩を落とす。
―――並行世界に来てしまった時は狭間を通った事で特に大きな変化がなかったのです。
力を使い、元の世界に強制的に戻す事は出来ますが、狭間のない場所を通る事に
なりますので何らかの変化はあるでしょう。―――
(変化、ですか)
―――肉体の欠損あるいは変化、脳へのダメージによる精神異常等です―――
(あ、無理です)
そうだよなー。門の無い壁に力技で押し込まれて入るようなもんだもんな。
そりゃあそういう事になるよな。
(ということは、俺は並行世界で生きていくという事になるんですよね?)
―――結論から言うとそうなります。次の狭間が開けば戻る事も可能ですが
私たちから故意に起こす事は出来ませんし、開く場所も分かりません。
宇宙かもしれませんし、海の底深くかもしれません。
通った瞬間命を失う事も有り得ます。―――
(女神様でも分からないってことは、帰るのはどうやら無理そうですね)
―――はい。―――
女神様のハッキリとした肯定に、改めて俺は自分の置かれた立場を認識し、
スッ…と熱が冷めていくのを感じた。
もう元の世界には戻れない。
今までは転移だ女神様だと全てが初めての体験で
気持ちが高揚し、どこか他人事のような気で話をしてきた。
しかし誰の話でもない。
自分の話なのだ。
親にも親友にも、二度と会うことは出来ない。
戻りたい!戻してくれ!なんてお願いしたとしても今までの話が全て本当なら…
いや、そこに疑念を持っても解決にならない。
実際に説明がつかない、ドッキリでも無理そうな出来事を
この身をもって立て続けに体験しているんだ。
これは疑いようの無い事実。
現実なんだ。
並行世界、か。
(あ……声優……)
理解、否定、諦め、受け入れ、不安、興味、希望。
様々な感情でぐちゃぐちゃになっていた頭の中にふと、自分の「夢」が浮かんだ。
(あの……これから住む世界に、声優はいますか?)
何を聞いてるんだ、俺は。
―――分かりません。職業の一つというのは伝わりましたが。―――
そうですか……。
あるのか無いのか分からない…。
その返答にまたもやもやしていた時、ふと一つ気になる事が生まれた。
ここで俺はまた、女神様にその生まれた疑問をぶつけてみる。
(神様って全知全能というか、その世界の生命体の文明や動向を把握している、とかじゃないんですか?)
―――把握、と言う表現で正しいかは分かりませんが、常に観測は続けています。
その世界に生きる存在全ての知識・文化・技術等の量を大海原と例えるならば
それに近しい量の知識を、神々は保持しています。
しかし、貴方の知識量と器を例えるとすれば片手で握れるコップ程度です。
もし我々の持つ知識量のまま貴方と思念対話を行えば思念を通して知識の奔流が
貴方に流れ込み、たちどころに貴方の知識・概念を破壊して思念を押し流してしまうでしょう。
今はその大海の水を大きな堤で防ぎ、少量ずつ放出する事で対話が出来ていると理解下さい。―――
(納得しました)
つまり今の女神様は俺の知能に合わせて対話を試みてくれている、と。
全知全能状態の女神様の思念を受けたら、俺という人格は跡形もなく消えてしまうって事ね。
(声優は分からないという事でしたが、並行世界の文明や世界観はどうなっているんですか?)
次の俺の問いに、女神様は瞳をそっと閉じる。
数秒が過ぎ、十数秒が経つ。
この無音・無言の時間が非常に怖い。
怖いが、早く結果を知りたいという好奇心もある。
好奇心?
さっきまでもう元の世界に戻れないって悲しんでいたのに?
(ははっ。)
本当に人間ってのは、好奇心や知識の探求の塊だよな。
自身の心境を自嘲気味に鼻で笑った時、女神様は瞳をゆっくりと開けた。
―――お待たせしました。―――
(いえ、大丈夫です)
―――まず、文明や世界観ですが貴方が元居た世界と概ね同じのようです。―――
(おお…!という事は何ら変わりない生活が送れそうっていう事ですか?)
―――ええ。世界の地形もほぼ同じで、貴方の所属していた「国家」も存在しているようです。―――
(日本、あるんですね)
―――言語も概ね同じに感じます。―――
(良かった)
―――ただ、貴方に縁のある血族や知人はいません。―――
(そう、ですか…)
家族、知り合いのいない日本で新生活が始まる。
元いた世界もある意味そういう状態のスタートラインに立った所ではあったが、
帰る場所があった。
ただ、帰る場所がなくなっただけと思うしかないか。
声優という職業があるかどうかは自分で調べるしかなさそうだ。
(あと、その……)
―――なんでしょうか。―――
(新世界で生きていかなければいけないんですが、能力とか技術ってもらえませんか?)
どうせ思うだけで伝わってしまって隠し事が出来ないんだ。
ストレートに聞いてやろうじゃないか。
その質問に対して女神様はこう答えた。
果たして女神様の返答やいかに!?