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プロローグ2

亡き祖父の家にたどり着いた利剣を待ち受けていた試練とは…!?

3月26日 14:15。



雑草を踏み分けて玄関前のひさしにたどり着いた俺は、


鉄製の格子に曇りガラスがはめ込まれた玄関扉に鍵を差し込む。


カチャリと軽快な音が鳴り鍵自体は難なく開いたが、


建て付けが悪いせいか、開けると同時にギィィ…と不快な音を立てる。


玄関に入ると長年線香を焚いて染み付いた香りと、


カビ臭と埃っぽさが入り混じった匂いが鼻を刺す。


線香の匂いは嫌いじゃないが、カビと埃っぽさが混じった匂いはキツい。


玄関周りは日の光が入っている為、埃の積もり具合や


建物の古さが伺えるが、奥の方は雨戸が閉められている為暗くてよく見えない。


ひとまず玄関すぐの廊下にスーツケースとボストンバッグを置いた俺は


次の行動に移る事にした。


そう…、掃除だ。


まずは一室でもいいから寝れる場所は作りたい。


風呂はスマホでスーパー銭湯を検索済み!


飯はコンビニ弁当!


そう、ネットで何でも調べられる俺に抜かりはなかった。


「くくく……こんな事だろうと思っていたぜ!」


そう言ってスーツケースからホームセンターであらかじめ


購入しておいた掃除用具一式を取り出す。


フローリングワイパーにウェットクロスをセットして


埃の積もった廊下に押し当てる。


クロスが通った場所の埃が取り除かれて、瞬く間に艶やかな光沢を取り戻す。


開始から十分足らずで長さ8メートル程の廊下を綺麗にする事が出来た。


たかが廊下、されど廊下。


この最初の一歩の達成感が憂鬱だった気持ちを吹き飛ばし


俺の気持ちを激しく高揚させた。


これなら今日中に一室どころか、一階全部くらいは綺麗に出来るんじゃね?


どうせ掃除するなら楽しく掃除しないと、だよな。


その考えに至った俺は「設定」に考えを巡らせた。


今の俺は……そうだな、敵陣を突破する侍だ。


よし、スタート。




「拙者の道を阻むと…死ぬぞ?」


声は渋い目に、感情を押し殺して淡々と言い放ち


存在しない敵を睨み付けてフローリングワイパー…


いや愛刀を前に出して身構えた。


なんちゃって寸劇。


人がいない時とか暇な時に発声練習がてらついやっちゃう俺の悪癖だ。


その時々に決めた役柄や設定に応じて一人で台詞を考えて


喋ってストーリーを進めていく訳だが…まぁ端から見たら怪しい人だよな。


「恨むなら、己が腕の未熟を恨めい!」


廊下を勢い良く駆け、跳躍と同時に愛刀不老輪愚歪波


(ふろうりんぐわいぱ)を振り上げ


そして眼前に迫る敵の頭に振り下ろす――――


その時、突如辺りが真っ白い光に包まれた。







????年 ?月 ?日 ?時 ?分





「ん……」


ぼやけた視界に入る赤色。


左手の感触でそれは絨毯なんだろうと推測させる。


右手には硬い筒…フローリングワイパーを握っている。


俺、いつの間に地面に横たわっていたんだろう。


ってか廊下に絨毯?


誰が?いつの間に?


ムクリと身体を起こして辺りを見回した俺は自分の目を疑った。


一面に敷かれた赤い絨毯。


奧には両開きの大きな木の扉があり、その扉の左右には上へ……


ここが一階だとすれば二階へと続く階段。


壁や天井の造りに赤い絨毯から察するに建物は洋館なんだと思う。


広さは…うーん。


ひー…ふー…みー……うん。


二人一組のペアが10組位は余裕でダンスを踊れそうな広さだ。


左右には長い廊下、俺の背後にも大きな扉があった。


扉の横の窓から光が射し込んでると言うことは恐らく


このドアが外に出る為の扉なんだろう。


つまり俺は今、日本建築の廊下から洋風建築の玄関ホールに


何故か移動したって事なんだろうな。


はい、現状把握完了。


俺が異世界転生もののラノベを読んでなかったら


今頃パニックでこんな冷静に考えられなかっただろう。


ありがとうラノベ。


俺の聖書。


ところで俺は何分、いや何時間意識を失っていたんだろう。


ズボンに入れていたスマホを取り出して時間を確認する。



2019年 3月 26日 14時 45分



どうやらあの白い光から五分くらいしか経っていないようだ。

時計として動いているがやはり異世界なのか


電波は「圏外」と表示されていた。


まぁ止まっていないというだけでこの世界が同じ年号と


時間単位でない可能性が大なのであまりアテにしないでおこう。


時間と現状を理解してからフローリングワイパーを杖がわりに立ち上がる。


痛みはないし、服の破れもない。


持ち物はスマホとフローリングワイパーだけ。


初期装備としては心もとない。


スーツケースとボストンバッグは転移範囲外だったのか、クソッ。


財布とか替えの服とか充電器とか色々入ってたのに。


「ってかさー、やっぱり神様がーとかチート能力をーとか

そういうの一切なかったわ…ハハッ…」


と、俺は誰に言うでもなく呟く。


呟きたくなるくらい洋館は静かで不気味だ。


よくよく注意して見ればこの館も長い間放置されているらしく


クモの巣や埃が至るところに見られる。


とはいえいつまでもここでじっとしている訳にもいかない。


目の前の扉か、恐らく外に出られる背後の扉か。


もしくは左右に伸びている廊下か、階段か…。


どれかを選択して進まなければならない。


ただし現段階の状況から、俺がいた世界ではない可能性が非常に高い。


モンスターがいたり罠があったりしてそれが原因で死んで終わり、


なんていう結末も十分にあり得る。


「………決めた」


しばらく考えた俺は、外に出られるであろう背後の扉を開ける事を選択した。


館に何かあった時に外に脱出が可能なのか。


何より外の世界がどうなっているか興味があるからだ。


きびすを返して扉に近づく。



と。



「………ぁ?」


何だ?


急に足の感覚がなくなった。


フワッと、宙に浮いたような。


いや、手の感覚も……呼吸も…できない。


体全体の感覚がなくなった?


体の自由がきかない。


と、目の前に赤い絨毯が迫ってきた。


いや。


これは、俺が床に倒れこんでいるのか。


手を…だめだ、動かない。


受け身も取れない。


頭から倒れる。


これは……痛いだろうなぁ……


そう思った直後、俺の意識は途切れた。



やっと物語が動き始めました。

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