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プロローグ

東京の西端。重い荷物を持ちながら目的地に向かう二十歳の青年。

その正体は……

―――2019年 春―――


3月26日 13:50。



……ポーン。


「オヨソ1キロメートル先、目的地デス」


胸ポケットに入れたスマホからナビアプリの


無機質な女の声が聞こえる。


「後1キロもあんのか…」


左右に築30年ぐらいの家が立ち並び、


対向車同士がなんとか一台ずつすれ違える道路の脇。


ゴロゴロとスーツケースを転がしながら、


荷物がパンパンに詰まった重たいボストンバッグを肩に掛けた俺は


額の汗を拭いながら、まだまだ続くゆるやかな坂道を睨み付けた。




俺の名前は逢沢利剣(おうさわりけん)


この春に専門学校を卒業したばかりの二十歳。


身長160センチ、体重は秘密――のB型だ。



…なんて、ファンタジーもののラノベだったら


そんな感じの自己紹介で始まって、


いきなり異世界なんかに行っちゃうんだろうが。


残念ながら異世界に連れて行ってくれそうな暴走トラックは


走っていないし、通り魔なんてのも見当たらない。


「剣と魔法のファンタジー世界かぁ。そんな世界だったらきっと


楽しい事が一杯……あるとは思えないな、うん」



ああいう異世界やファンタジーモノは神様が主人公に対して


大なり小なりチート能力を与えてくれてこそ


楽しい人生が歩める訳で。


仮に異世界にポイと放り込まれたとしても


神様とやらにチートな力をもらえない可能性がある訳だ。


そうなると戸籍も職もない自分がその世界の住人として


生きていけるのか?


冒険者ギルドなんてものがあったとして、


無能力の日本国民が冒険者としてモンスターとかと戦えるか?


いや、無理。


すぐに死ねる自信がある!


ふっ、俺も二十歳になったからね。異世界でチート生活したら最高!


なんて夢を見ずちゃんと現実を見据えているんだぜ!


――夢を見ず現実を見た方がいい――


あ、自分でそう思っておいて苛立ちを感じた担任の言葉が蘇ったわ。




あれはもう3年ぐらい前になるのか?


高校時代の進路相談の時に担任に「俺、声優になりたい」


って言ったらそう言われたんだったな。


「逢沢、お前の夢は悪いとは言わんがもっとしっかり


現実を考えた方がいい」


結局担任の助言を無視した俺は自分の意志を貫いて高校卒業後に


二年制の専門学校に入学した。


親には賛成も反対もされなかった代わりに、


専門学校の学費は卒業後に分割で返していけという条件は出された。


もちろん俺はそれを承諾して二年間勉学に励んだ後、


関東と関西に事務所がある声優プロダクションに


「準」所属として何とか拾われた訳だ。


まぁ、「準」というのはプロダクション名簿に登録されつつも、


週3回行われるレッスンに学費を払って参加するという


なんちゃってプロなんだけど。


そして関西と関東なら関東の方が激戦区で仕事も多いって事で


関東の事務所登録を希望した。


という訳で俺は今、東京西端ののどかな住宅街を目的地に向かって


…いや、夢に向かって歩いているという訳だ。キリッ。





3月26日 14:10。


「目的地周辺デス。音声案内ヲ終了シマス」



「ここか」


戸建が並ぶ住宅街の一角。


築60年は経っているであろう、木造二階建の日本家屋。


どうやらここが俺の目的地みたいだ。


みたいだ、と言うのは実際ここに来たのが


初めてだったから。


この家は俺の爺ちゃんが住んでた家で、爺ちゃんは三年前に亡くなった。


住み手もなく賃貸として貸し出すのも無理な程ボロボロだったので今まで放置


されていたが、このたび俺が東京を拠点に生活するという事で「それならば」


とこの家に無期限で住む許可をもらえたのだった。


とはいってもここから東京都心まで電車で一時間半はかかるんだけどさ。


「しっかしなぁ…」


言って俺はこれから住む家をまじまじと見る。


敷地を囲む柵は所々折れてなくなってるし。


庭も雑草が生い茂り、軒下にはクモの巣がびっしり。


道中見てきた築30年の家がとても綺麗に思えてきた。


築60年が放つ人を受け付けないオーラ感が凄い。


しかし家が汚いからと言って実家に帰る訳にはいかないし、


何より都心で賃貸を借りる元手も余裕もない。


「とりあえず中だけでも綺麗にして、寝る場所くらいは確保しないとな…」


挫けかけた心を奮い立たせた俺は、


字が薄くなっているが何とか『逢沢』と読み取れる


表札がかかった木製の格子扉をスライドさせ、


敷地内へと足を踏み入れた。




始まりました。

しかし、こういうの書き出しって、なかなか読まれませんよね…。

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