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不滅の勇者の剣

        ◇


 険しい山の中にその聖地はあった。

 剣の聖女一統という、古くから続く一族の土地だ。人里から離れた場所にあったが、その土地には毎日のように観光客や巡礼者が訪れていた。


 訪問者たちの目的は、その地にある〈剣の博物館〉だ。


 剣の博物館には、数多の聖剣が保管・展示されていた。それらを見るために、多くの人たちが険しい山道を登ってくるのだ。その剣たちと、その剣たちにまつわる勇者たちの物語を聞くために。


 その日も旅の老人が剣の聖女一統の地を訪れていた。


 老人は矍鑠(かくしゃく)とした足取りで聖地の土を踏むと、真っすぐに剣の博物館に向かった。老人が博物館に着くと、小さな少女が彼のガイドを買って出た。

 辞書乙女(じしょおとめ)を名乗る、利発そうな少女だ。辞書乙女というのは、数多の聖剣に精通し、その伝説を後世に伝える巫女の名前だった。


 少女に連れられて、老人は荘厳な博物館の中に入る。


 剣の博物館には、惚れ惚れするような美しい聖剣たちが、大切に展示されていた。見習いらしき幼い辞書乙女は、拙いながらも懸命に剣の解説をして回った。


「これは魔女退治の聖剣〈オウラソード〉です。選ばれしものだけがその刃を輝かせることができるという、第一級の聖剣です。その輝きは使い手を守護し、あらゆる災いを跳ね除けると言われています。一度は悪者たちの手に渡っていましたが、心清らかな青年に回収されてこの聖地に戻ってきました。そして、こちらが――」


 少女の手が示す先には、ボロボロの剣が展示されていた。

 他に展示されているどの剣と比べても、明らかに見すぼらしい剣だった。けれど、他に展示されている剣と比べても、特別大切に展示されていた。


「この剣はとても有名です。おじいさんもきっとご存知かと――おじいさん?」


 幼い辞書乙女は途惑った。その老人が涙を流していたからだ。

 わずかに火薬の匂いを纏う老人は「ええ、もちろんよく知っています」と答えた。

 その老人の瞳は、年老いてなお透き通り、後悔と歓喜の涙を湛えていた。彼の若かりしころは、さぞ美しい少年であったろうと思われた。

 老人は膝から崩れて、懐かしい笑みを浮かべて、遠い冬の日を思い出して言った。


「これは、僕の〈勇者〉の剣ですから――」


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