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シード

 翌日、本選の対戦表が発表された。


「俺はシード枠か。」


 8人の試合になると思っていたが、シードが四人もいた。それに加えて、なんと伯爵本人も出場している。


「俺と決勝で当たるように配置されてやがる。」


 これは難しい。もし、倒してしまったら難癖をつけられるかもしれない。部下になるのなら主人の顔を立てるのが筋である。だからといって、手を抜いた場合には伯爵は激昂することは間違いない。


「どうしようか。」


 まあ、決勝まで進出した時にまた考えるとするか。


 俺は俺個人に与えられた選手控室の中で対戦表と睨めっこしつつ、考えに耽っていた。すると、目の前に伯爵本人がやってきた。


「やあ、久しぶりだね。」


「お久しぶりです。アーバイン伯爵。4か月振りでしょうか。」


「普通に話してくれて良いよ。君と私の仲じゃないか。」


 伯爵と俺は4か月前の最後の四天王を討伐する際に共に戦った戦友でもある。アーバイン卿はペイルと異なり、最前線に出て戦う勇猛な戦士であり、多くの魔族を恐怖で震え上がらせたこの国の中で最強の戦士の一人でもある。


「お許しください。私は何分平民ですから。それよりもこの大会で伯爵本人も戦うことになるとは聞いてませんでしたよ。」


「ああ、君が出てくるのなら話は違うよ。君は強い。思う存分君と戦いたいと思ってね。」


「いえ、私はアーバイン卿に仕えようと思ってここにまかり越しました。」


「嘘だね。君は私に仕えようとは思っていない。君は僕の部下になって満足するような男ではないだろう?戦闘民族アバシュラ族最後の生き残りである君が自分の正義に従ってのみ戦うことは知っている。」


「しかし、俺の一族は既に滅びました。」


「ああ、ペイル卿に近しい者か本人かは知らないけど、何者かに滅ぼされたようだね。まあ、あの一族は強すぎた。国に属さない最強の戦闘民族であり、女子供も全員一級品の戦士だからね。あれを奴隷にしようにも四肢でも切断しないと安心できないし、そこまでやったら使い物にならないからね。あれを滅ぼすのに誰も反対しなかったよ。」


「反対?どういうことだ。」


「察しが悪いな。事前に軍勢があの村に攻め入ることは連合軍も把握していたさ。あの一族を滅ぼすのに大量の人員が必要なのは君なら分かるだろう?連合軍が把握していないわけがないじゃないか。」


「つまり、見捨てたってことか。」


 気づいたら剣を抜き、俺はアーバイン卿に突き付けていた。


「見捨てた?違うね。そもそもあの村は危険因子として世界中から危惧されてきた。犯罪者は死んで当然だ。所詮、戦闘民族とはいえ彼らは圧倒的な数の暴力を前に蹂躙された敗北者に過ぎない。」


 こいつは俺の神経を逆撫してきてまで何がしたいのだ?


「俺を怒らせて何がしたい?」


 すると、伯爵は笑みを浮かべた。


「それは殺し合いさ。魔王を倒した君を私が屠ることで最強であることを世界に証明する。」


「は、世間では魔王を倒した功績はペイル卿の手柄になってるぜ。」


「あくまでも自己満足よ。それにそうでもない。」


「俺に勝てると思ってんのか?貴族らしく椅子にふんぞり返ってブヒブヒ言っていれば良かったものを、愚かだな。」


 今度は伯爵が青筋を浮かべて、今にも俺に飛びかかりそうだった。


 だが、奴は深呼吸をして、落ち着かせた後に俺を正面から見据えた。


「試合を楽しみにしている。」


 そう言って、踵を返した。


「ああ、その時になったら俺の真の力を貴様に見せてやる。」


  ◇


 一回戦が終わり、ちゃんと二回戦が始まった。


 シード枠の俺の出番となった。


「久しいな、狂戦士(バーサーカー)。」


「初戦からお前か。悪意を感じるな。」


 最初(といっても相手は2回戦)の相手はかつての戦友の一人だ。出場していた奴等の中で最も強い気配がこいつからはした。本大会の優勝候補の一角であった。


 おととい目が合った時は人見知りをしてしまったが、試合で戦うことになったので全力で応対させてもらう。


「シード枠の力を見せてくれ。」


「ふん、いいのか?」


「ああ、全力の貴様を俺は倒したいだけだ。」


「分かった、なら本気を出す。」


 俺を倒すつもりでいるとは、面白い。殺し合いならともかく、試合なら負ける可能性はあるだろう。


「それでは試合前にルールを説明します。両者にはこの中央の武舞台の上で戦ってもらいます。相手を舞台から叩き出せば勝ちです。相手を殺しても勝ちです。要は、存分に戦ってください。」


 俺達二人は定位置に立って、戦いに備えた。


「両者、位置について、よーい、どん!」


「先手必勝!」


 俺は魔力を爆発させて目の前の空間を歪ませた。


「え?」


 相手は立ち止まった。敵は後の先を取ったらしい。


「出でよ、我が血と契約せし悪魔ども!敵を食い尽くせ!」


 目の前に異界を顕現させ、血肉を求める悪魔が多数出現する。


 異形の姿の悪魔は見るものに悪寒を与え、震え上がらせる。


「ほんの小手調べだ。まずはこいつらを倒すんだな。」


「待て!反則だ!こんなの一対一じゃない!」


「ん、それもそうか。なら一人ならいいんだな?」


「当然だ!」


 俺は手を上空に掲げて悪魔どもを呼び寄せた。多数の異形の姿をした怪物は体が混ざり合い、そして、球体となって俺を包み込んだ。


「ちょっと待ってろ。変身まで時間がかかる。」


 この悪魔合体は四天王の一人であったグレゴリオスが使っていた技だ。奴の技を俺は修練の果てに模倣することに成功し、自分の技にすることができた。魔をもって魔を制す、聖剣を持たない俺が魔王を倒せたのは敵の技を盗み取り、最後には敵を凌駕したからだ。


「待たせたな。攻撃しなくて良かったのか?」


 変身中は隙だらけなのが弱点だ。逆に言えば、それくらいしか弱点はない。


 複数の悪魔と合体した俺は身長が5メートルを超えて、恐ろしいカギ爪と牙が生え揃い、爬虫類のような肌に翼が生えている。この変身中は周囲から生気を断続的に奪い取るので、観客の多くが気を失った。


「あ、あ、うわああああ」


(馬鹿め。)


 何を焦ったのか、突如俺に斬りかかってきた。かつて戦場では冷静沈着な戦士だと認識していたが、肩透かしである。


 全力の俺を倒したいと言った癖に、この程度か。


 俺は筋肉を収縮させて、敵の攻撃を受け止めた。刃は俺の肌に触れた瞬間からドロドロに溶かされて、消えてなくなる。


 複数の悪魔の力を扱えるこの変身を前に小細工など通用しない。なぜなら、弱点がないからだ。


「く、来るな!フレア・デストラクション!」


 魔法で攻撃してきても、この体は魔法を吸収するので全く意味がない。極太な炎柱は俺の体に当たると消えてなくなった。


「ひいいいい、来るな!」


 尻餅をついて必死に後退り、舞台から落っこちてブルブルと震えていた。


「変身を解除、現状復帰せよ。」


 俺は変身を解除し、悪魔を異界に返した。生気を吸われて気絶していた者は悪魔について何も覚えていない。だからこそ、悪魔はその存在が伝説であり、強者のみがその存在を認識している。


 次々と観客は目を覚まして、目の当たりにしたのはぶるぶると震えている男とそれを見下ろす俺の姿であった。


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