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俺に構うな

 最近、面倒な奴に絡まれている。王都を脱出して、国境沿いの町に滞在するようになったが、なぜか自称姫様が俺のことを追いかけてきた。かなり邪魔だ。さっきから食事している横で喚いてやがる。


「こんなところになんでいる?逃げんなよ、腰抜け!」


 俺はこの町を治める貴族様が私兵を募集しているので、ここに滞在している。先の大戦で多くの命も失われたが、だからといって平和になるわけではない。今度は人間同士の争いとなる。そのためにも、武力は必要不可欠なのだ。国は大戦時に武功をあげた屈強な兵士を欲しており、軍拡競争が世界各国で起こっている。そして、貴族も同様に私兵を集めて次の戦いに備えている。


 まだ王都が浮かれている中、ここを治めるアーバイン伯爵は既に先を見据えており、いち早く募集をかけた。


 アーバイン伯爵は勇猛果敢で知られており、先の大戦では四天王の一人を討ち取った英雄である。アーバイン伯爵は実力主義者であり、平民であっても結果を出せば評価されるはずだ。だから、ここに来た。


 せっかく魔王を倒したのに、他人の下につくのは情けないと思われるかもしれない。そして、事情を知るものが見たら復讐をする度胸もない腰抜けに見えるだろう。


「てめえに玉はついてんのか?」


 だが、俺には勇気がない。ペイル卿は憎たらしいが、復讐をすれば多くの民が巻き込まれてしまうし、そもそもペイル卿本人がどこまで故郷の襲撃に関わっているのか分からない。ペイル卿は俺が好きだった女を手に入れ、彼女を忘れて姫様と結婚し、今や世界に名を轟かせる英雄である。コンプレックスまである。俺はクレアを取られたときから負け犬なのだ。


「おい童貞野郎、何か言ったらどうだ!」


 それよりも、こいつはいつまで俺に着いてくるんだ?


「おい、自称姫。お家に帰りな。それといままで俺がお前の代わりに支払った食事代と宿代を払え。金がないなら体で払いな。」 


「あら、その時は叫ぶわよ。」


 いままでの旅の費用を全部俺に捻出させやがって。こいつは俺がもし支払わなかったら人拐いとか痴漢とか叫んでやると脅してきやがった。俺の見た目が身長2メートル以上でガチムチなのに対して、自称姫は美少女である。どちらを信じるか、そんなのは一目瞭然である。


「俺に構うな。」


「そうはいかないわ。私のことを殴ったことを忘れてもらっちゃ困るわね。絶対に許してあげないから。」


「はあ~。」


「こっちがため息をつきたいわ!」


 自称姫が俺の脛を蹴りあげてきた。だが、俺の足は鋼鉄のように硬い。逆に彼女の足が骨折した。ポキッて折れる音がしたから分かった。


「痛い痛い痛い痛い!」


 まずい。周囲がこっちを見ている。なので、即座に彼女を抱えて店を脱出した。そして、町のお医者さんに診察してもらった。


 全治三ヶ月くらいと診断された。彼女の足首が骨折しており、松葉杖が必要になった。なぜか罪悪感を感じた。


「すまない」


 俺は謝罪するしかなかった。


  ◇


「慰謝料100億ゴールド。利子は十日で五割」


 耳元で何か言ってくるが無視である。


 彼女を骨折させて以来、なぜか彼女をおんぶして移動することになった。でも、松葉杖もあるのだし、一人で歩いた方が良いと思う。それにあまり動かないと筋肉も衰えてしまう。


 だから、時折彼女を引きずり下ろして歩かせる。俺が離れると必死に追いかけて来る。それが面白くて一回だけ彼女を置き去りにしたこともある。その後、建物の陰に隠れて様子を見たら彼女が泣きそうになっていたので、すぐ走って戻った。


 自分でも気づかない間に大分絆されていたようだ。口が悪くても、美少女に追いかけられるのは悪くない。俺はかなりチョロいのだと思う。イケメンのペイル卿に一目惚れしたクレアのことは言えない。


 だんだん自称姫に話しかけることが出来なくなった。嫌われたくないと思う気持ちが強くなる。一方、彼女も悪口のレパートリーが減ったのか最近はあまり話さなくなった。


 そして一月ほど経過し、ついに私兵を選抜するための武道大会が町で開催された。


 屈強な男たちが数多く集まっている。中には見知った顔もいる。だが、関係ない。


 ちなみに自称姫は宿に置いてきた。俺が出場するのには最後まで反対していた。お前はもっとビッグな男になるのだと彼女は力説していたが、そんな者になれるとは思わない。俺は所詮、辺境の少数民族に過ぎないのだから。


「それでは出場者の皆さんはコロシアムに集まってください。」


 これから武道大会が始まるので、コロシアムの真ん中に俺達選手は集められた。強そうな奴も何人かいそうだ。ついつい品定めをしてしまう。


 すると、たまたま目があった知り合いから声がかけられた。


「あれ?お前は……」


「俺に構うな。」


 ちょっぴり動揺しつつ、視線を大会のルールブックに落とした。もう周りを見回すのはやめだ。


 じっくりとルールは熟読しておかないと、後で困るので最終チェックだ。回りの喧騒は遮断である。偉そうな声がするがこれも無視。


「強者どもよ、存分に暴れると良い!」


 気づいたら伯爵の開幕のスピーチが終わっていて、顔を上げるとなぜか伯爵が俺のことを見ている。ニコッと愛想笑いをしておいた。伯爵も笑顔で返してくれた。だが、その笑顔は好敵手を見つけたかのような笑みであった。


 ◇


「よお、久しぶりだな。」


 予選は八つのブロックに分かれて、バトルロイヤルで最後まで生き残った一人が本選に進める。俺は初日Aブロック。全員倒したら帰っていいらしい。だから、とっとと終わらせなくてはならない。


「おい、聞いてんのか?」


「お前、誰だよ。」


 たまに知らない人から俺は話しかけられるが、大抵は男ばっかりだ。しかも、俺を勝手にライバル視してくるが、面倒である。


 目の前にいる男は黒装束の細身の男であり、いかにも雑魚キャラである。全く記憶にない。


「オーク並みの記憶力の貴様では覚えてなくとも仕方がない。だが、俺のスピードを目の当たりにすれば否が応でも知ることになるだろう。誰が最速の男であるかをな!」


「それでは、開始!」


「ははははは!俺のスピードに着いてこられるかな?」


 ◇


「遅い。」


「すまない。」


 初戦Aブロックは開始1分で12人が戦闘不能となり、その日でもっとも話題の試合となった。


 だが、当人は自分の試合が終わると即座に会場を離れたので、自分が話題になっているとは知らない。


 そんなことよりも、彼は目の前の自称姫が汗だくだくで息を切らせていることが気になっていた。


「ん?一分とはいえ、運動した俺よりも汗をかいているじゃないか。」


「あんたが暑苦しくてその熱気のせいで汗をかいているの。」


(俺がいるだけで室温がそこまで上がるとは思えないが、まあ良いか。)


 彼は彼女と目があっているのに気づき、反射的に下を向いてしまった。


 すると、彼女の足に包帯は巻かれておらず、腫れも引いていて綺麗に治っているように見えた。


「足は治ったのか?」


「あ!これは包帯を巻き直そうと思って包帯を解いただけよ!まだ治ってないわ!」


 それもそうだ。三ヶ月はかかるのだから、早すぎる。


「俺の予選は終わったから、どっか連れていってあげようか?」


「私に構わないで。」


 断られると思っていなかったから、少しショックを受けた。


「一人で汗臭い試合でも観に行けば?」


「ああ、そうするよ。」


 その後、彼女が自分の昼食用に作り過ぎたらしいサンドイッチを俺は食べた後、会場に戻って選手席から他人の試合を見て、その後は帰って自称姫と食事を取って、すぐに寝た。

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