八話 風車
「あった………そろそろ始まる………天使さま」
梨子ちゃんは小さな物置小屋から結構古そうな年季の入ったラジカセを持ってくる。
うわぁなんだこれ、ステレオタイプじゃないか………よくこんなのが聞けるな。
「もうすぐ…………日が暮れた瞬間………始まるの………」
ま、まさか…………本当に………
志熊さんの放送の事なのか………?
《ザザ………ザ…………ザザ……ジ………ろうど………ねむ………ひめ》
今、微かだが眠り姫と聞こえた。
間違いなく志熊さん達の放送だろう。
《なたは………何処に………すか……………げん………すか? …………もし………のほうそ………ますか…》
電波が悪いみたいで、掠れ掠れにしか聞こえないが志熊さんの声だ。
夕暮れ時の時間の朗読。
だが、何故だ?
なんで東京の市民ラジオが群馬県まで届くんだ!?
《ザザ………また………致し……しょう…………ザザ………》
「あ、終わっちゃった………」
隣を見ると、ラジオを真剣に聞く梨子ちゃん。
放送が終わったと言うのに、まだ聞いているようだ。
「い、今の………今のが眠り姫………たくや聞いたでしょ」
「あぁ、うん………だけどね、あれは朗読劇って言って喋ってる人は志熊さんって言う女の子なんだ」
「え………? そうなの……天使さまじゃないの………」
どうやら、梨子ちゃんは志熊さんを天使さまだと思っていたらしい。
何故志熊さんが天使になるのかは分からないが………
「皆が、ずっと寝てたから、私はすること無かった。だけど、この箱から流れてくる声は…………なんていうか………きれいだったの」
梨子ちゃんはラジカセを持ち、独り言の様に呟き始めた。
「なんか………ずばばーん………ずどーんって…………すごかったの」
そうか………彼女も、考える事はちゃんとしっかりしてるんだ。
だが、先ずは東京に戻らないと………って言っても、通行手段なんて無いしな。
ど、どうする!?
「たくや、迷子なの?」
「ま、迷子って………いや、あながち間違ってないか、迷子になっちゃったみたい」
「おとなのくせに迷子なの、たくや、ばか」
ちょ、バカって…………何でここに来たのかは知らないけど、マジで迷子だしな………
目の前に置いてある軽トラックに目が止まる。
…………やるか……?
「たくや、何みてるの…………くるま?」
い、いや、でも……この子をここに置いてきぼりなんて持っての他、またアイツらみたいなのが出てきたら………。
想像したくもねぇよ。
「梨子ちゃん、僕と一緒にお家に帰ろうか」
「やっぱりたくや、ロリコン。お持ち帰りは駄目」
お持ち帰りって………この子、どこでそんな事覚えたんだ?
何故ここまでラジオが届くのか、ずっと起きてた事とか、まだ色々分からない事ばかりだけど。
先ずは、東京に戻らなきゃ。
「車なんて運転した事はないけど………方向感覚は昔から良い方だし、東に向かって走ってればなんとかなる!!」
だが、返ってきた答えは。
「やだ、お父さんとお母さんを置いて行きたくない………」