二話 月灯り
「あ、貴女は…………誰ですか……?」
いきなりだったから少し声がどもってしまった。
その少女は………見る限り俺と同い年に見えるが、どこか幼さを感じる。
「あ、ええっと…………志熊 芽亜と申します………です」
おどおどしながら喋り出す………ええっと、俺も自己紹介しなきゃだよな。
「あの………俺は北谷 拓也って言います………?」
「ええと、拓也さんは此処で何を?」
彼女の質問で我に帰る。
そうだ、まずはこの現状を知らないと!
「ね、ねぇ……アンタさ、今ここで何が起きてるんだ?」
「な、なにが起きてるんだと言われましても………」
「あぁいや…………なんでこの人達は眠ってるんだ? そして何でアンタはここに一人で?」
俺がそう言うと、彼女が何かを思い出した様に喋り出す。
「あ、そうでした! 何時もの様に朗読をしてたら、皆眠ってて………皆眠ってるから怖くなって外に出たんです」
成る程、それで俺に出逢ったと。
「本当に皆眠っちゃってるんです…………声掛けても起きなくて………もう何が何だか………」
「その、朗読って何処でやってたの?」
彼女の言う朗読が少し分からない。
普通の小説の朗読だったら分かるが、本格的にやるものじゃないし………
「市民ラジオを通して朗読してます。何時も、この時間に………」
辺りが急に暗くなる。
もう既に太陽の半分以上がビル群に埋まっていた。
「えと、暗くなって来ましたし私の家に行きましょう」
「ま、待ってくれ!! 流石に初対面の人を自分の家に連れていくのはどうかと」
彼女が強引手を引っ張るので、体が仰け反る。
それを察してくれた様で、彼女は動きを止めた。
「あ、すいません……………優しそうな人だからいいかなって思っちゃって……」
色々とルーズな人だった。
着いた先は市民館、やはり中は暗い。
「キミの家って……ココなの?」
「そうです、市民館が私の家です」
とは言っているが、外も暗いし中も暗い。電気が通ってない様だ。
彼女はずかずか入り込む。
「暗いから危ないよ?」
「きゃっ」(ドテッ)
放送室らしき部屋に入ると、一冊の本とマイクが立て掛けて置かれていた。
《眠りの国》
見たことも聞いたこともない本の名前だ。
作者も良く分からない。
「私はいつもここで朗読しています」
窓から映るのは月光の灯りだけ、それが異様に恐ろしく見えた。
「あの…………志熊さんって、お家は無いの?」
「………はい、昔から親は居なくてずっとお婆ちゃんに育てられてました。お婆ちゃんも死んじゃって、仲が良かった市長の計らいでここに済ませて貰ってるだけ………です」
不味い事聞いちゃたかな。
彼女の表情はどんどん曇る。
「そ、そうだ。良かったら、志熊さんの朗読を聞かせてくれないかな………?」
「わ、私で良ければ!!」
「眠りの国」
「貴方は、幸せですか?」
「貴方は、何処に居ますか?」
「貴方は、元気ですか?」
「もし、この声を聞いて居ますか?」
「この声を聞いていたら、返事を下さい」
「眠りが覚める前に、夢の中でお会い致しましょう」
彼女の澄んだ声。
俺は再び眠りに落ちた。