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眠ったセカイと眠り姫  作者: 杠 音韻
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十七話 再帰

「おっきい…………たくや、たてものおっきい………!!」

窓を全開にして空を覗きこむ梨子ちゃんがそう言った。

こういうビルは田舎の人にはそんなに感動的なのか? と思いつつ。

「あんまり顔出してると危ないよ~? あ、案外方向は合ってるみたいだ…………」

道路の標識が東京を示している。

ポツンポツンとオモチャの様に置かれた車達は無機質に動かない。

動くハズもない。

「たくや、ノロノロ運転おわった?」

「いいや、もうちょっとかかりそう………こっちだって慎重に進んでるんだから」

俺は残りの体力を振り絞って車のシートを力強く締めた。



ゆらゆらと揺れてのろのろと進む軽トラックは不満の声を出さずに元気に働いてくれている。

まだガソリンもありそうだ………いや、幾らなんでもおかしくないか? 俺達は群馬県から走らせているのにガソリン減りが少なすぎる。

まぁ、そんなことも気にするだけ無駄だ。


「たくや、お腹減った~」

と隣から聳えるビル群を見るのに飽きた梨子ちゃんが呟く。

どうやらもうお菓子もパンも尽きた様だ。Uターンして近くコンビニに車を駐車する。


「ねぇたくや、車なんか眺めて………おかしくなった?」

「………へ?! あぁ、いやなんでもない」

梨子ちゃんの心配そうな縮れた声で目を覚ます。危ない危ない、駐車が綺麗だった物ですこしうっとりしてしまった。

どうしちまったんだ俺。

駆け足でコンビニに駆け寄り、ある程度の食材を取り出して一万円をレジに叩き付けるまで約三十秒。

強盗に向いてそうだ。


「このパン、ちょっとまずい」

「あ、ほんとだ………うげぇ、湿気ってる………」

流石廃棄物利用疑惑があるコンビニ、やはり味気無い。

早々にお菓子だけしか無くなった。しかもお菓子は梨子ちゃん独占。

貧民かよ!?

なんかだんだん自分のポテンシャルが底辺に落ちぶれてきているが、それを無視する様にエンジンをかける。


…………。

……………………。

うん?


……………あれぇ!?

ガソリンメーターは満タンの反対を振り切っていた。


「たくや、お顔真っ白」

「梨子ちゃん、ガソリンが無いんですけど…………」

「田舎の軽トラックはトラブってなんぼだから」

「何その絶妙な最悪のライン」

ピクリとも動かなくなったクソオンボロ軽トラックの鍵を締め、勢いよくドアを蹴り飛ばす。

もう、どうしたらいいんだ………!?

俺の目の前で立ち止まってる梨子ちゃんは無表情でお菓子を喰らっている。


いや、もう市内に入ってるから歩いて行くことは可能………なのか?

梨子ちゃんは子供だし、無理させる訳にはいかない。

「たくや、なにか算段はおもいついた?」


これで行くしか……無い!!!




「志熊ちゃんはカレーライスが食べたいんだもんね~♪ オラとっととコンビニ向かって下さいよ先輩」

「わ、分かってるって…………シートベルトよし、バックミラーよし、サイドミ」

「もう点検は済みましたよね?」

「あのなぁ、こういうのは初歩が大事であって」

「行け」

「え? 今なんて………」

「行け」


半ば強引に買い出しに出掛ける事になった。何せ志熊ちゃんがカレーライスを食べたいと言うものだから食べさせるしかない。

先輩が何か「別に俺は食いたくは無いんだけどなぁ……」とかなんとか抜かしてるが、ただのゴミの戯れ言に耳を貸す程私の高貴なるお耳は便利じゃない。

「あの、別に今すぐ食べたいとは言ってないんですけど………」

「え? ………先輩、全速力で引き返して下さい」

「はぁ!? 美香、お前さぁ……………」

「志熊ちゃんはカレーライスを今食べたくないと言ってるんです買わないで下さい」

「お、お前この角を曲がったらコンビニなんだぞ!? もうやってらんねぇ!!」

遂に先輩がキレた。

それに怯える志熊ちゃん。可愛い。

「何がやってらんないんですか? 所詮先輩が動けと言われて動かないビチクソ野郎なんですねキッモ」

「この野郎…………」


「あ、あれっ!?」


ふと、ここで黙っていた志熊ちゃんが助手席から窓を開けて驚愕の目で向こう側を見ている。

私と先輩もそちらを見やる、するとそこには。



「たくやー、スピードだせー」

「おんぶの方が遅いの分かってるでしょうが!! くぅ………重い」



少女と連れ歩く青年が居た。

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