十二話 夢を見る月兎
「分かったって…………まさか襲われたのか!?」
「せ、先輩………心配し過ぎっすよ」
まさか、あんな事になるなんてな………
思ってもないっすよ。
《少し前》
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「ひぃ!?」
ちょ、まってまって!! 聞いてないですよ………エンカウント判定えげつない!!
相手はよろよろとした足取りでこちらに近づいて来る。
だが、こんな鈍い化け物に負ける程、私はヤワじゃない。
「そ、そっちがその気なら………やってあげますよ~!!」
近くにあった棒切れを掴み、脳天に向かって大きく振りかぶる。
《バコッ》
綺麗に当たった様だ。
相手の動きは止まり、呻き声も止む。
「………あれ? やったのかな………」
その瞬間。
「う゛あ゛あ゛あ゛…………く゛あ゛……」
「うわぁ動くんなら動くって言って下さいよオラァ!!」
もう一度右腹に向かって棒を振り切った。
《バキシッ》
吹っ飛ぶのは化け物ではなく、脆い棒切れが吹っ飛んだ。
ちょ、ヤバくない………コレ?
化け物はさっきと同じく鈍い足取りで近付いてくる。
避けるのは容易だが、ここはコンビニ、動ける範囲ってのがある。
「外、逃げた方が良いよね………」
ここは逃げを選択する。
が、逃げられなかった。
「あ゛あ゛あ゛……」
化け者の手が私の肩を掴む。
ちょ、それ反則!!
「はな、離してっ!! ちょ、おま離せェッ!!」
掴まれた方の腕を自分の方に引っ張り、体制を崩した相手の腹に渾身の蹴りをお見舞いする。
こりゃ入った。
「あ゛………う゛ぁ………」
《ドサッ》
ようやく化け物が地面に突っ伏す。
さ、最悪だ…………動き回ったせいで服があちこち破け、この空間にホコリが充満している。
「うげぇ…………次合ったら消し炭にしますから~!!」
と、捨て文句を動かなくなった屍に言い放ち、食料と水を持ってコンビニから出る。
災難だった…………
「ん? ………なにこの臭い………くっせぇ!?」
後ろを振り向くと、そこには本当に消し炭になろうとしている焼け焦げた屍。
次会ったらって言ったじゃん………!!!!
私はとっととコンビニを後にした。
《現在》
「とまぁこんな感じ…………疲れたぁ………ほれ水~」
「あ、ありがとうございます………そ、それで、その正体って言うのは………?」
「あーそうそう、ここから肝心」
まぁ肝心つっても、まだ仮説の仮説にしか過ぎないんだけど、まだ確証すら持てない。
音無先輩と志熊ちゃんが見てるから、もう言い逃れ出来ないしね~
「あの化け物達は、ただ純粋に夢を見ているだけだと思うの」