十一話 眠りの女王
「暇だねぇ……………ふー」
「暇………ふー」
空には無数のシャボン玉が飛んでいる。
もうかれこれ3時間、シャボン玉やら水遊びやら、休む間もなく遊びまくった。
やべ、シャボン玉で酸欠しそう。
「たくや、なんか面白いこと、して」
相変わらずの梨子ちゃんの無茶ぶりは支離滅裂を極めている。
面白いこと………か………
「一発芸行きます!!」
「おー、たくや、がんばれ」
冴えない顔で拍手されても………大きな門構えの一軒家の縁側で、ちいさな声援が響く。
よぉし、俺の伝家の宝刀、喰らえぇ!!
「鯛焼きの真似~」
「……………たくや、恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいわドチキショウ!!」
「うわー、たくやがキレたー」
ぷかぷか浮かぶシャボン玉が、俺の間抜けな顔を映す。
が、それはすぐにパチンと割れる。
儚ねぇ………
「たくや、シャボン玉、好き?」
「うん。最初はめちゃくちゃ綺麗に浮かぶのに、割れる時は一瞬。なんか儚いから好きだな」
梨子ちゃんはそれを聞いて一瞬顔を曇らせたかと思うと、少しの間黙った。
沈黙が続く。
「たくや、お父さんと同じこと言う………それ、お父さんくちぐせ………」
「そ、そうだったんだ………ごめん」
俺がそう言うと、顔を上げて笑い出す。
「ううん、私はそのくちぐせきらい、別にいい。一生懸命飛んだシャボン玉がかわいそう」
中々、カッコいい事言うなぁ………
「そうだ、たくや、眠り姫の本ってしってる?」
眠り姫の本…………あの本か。
そう言えば、表紙を見ただけで実際には内容を見てなかった。
何か、関係性があるかもしれないな………
「その本、梨子ちゃんは持ってるの?」
「うん、持ってる。たくや、みてみる?」
この本だ、間違いない。
だが、読みごたえはありそうだが自棄に分厚い本だ。
「この本、お母さんに買って貰ったの………まだよくよんでない、たくや、よもう」
「う、うん………」
『眠り姫』《著:杠 音韻》
『とある王国のとあるところに、一人の女王さまがいました』
『その女王さまは、一人でずっと王宮からでられないのです』
『そんなある日、舞踏会で何処かの国の王子と出逢いました』
『その青年は、女王さまに一目惚れし、女王さまも同じく一目惚れしました』
『ですが、行く日も行く日も女王さまは王宮からでられません』
『女王さまは、日々の思いを詞に綴り、歌を歌いました』
『その歌声は甘美な物で、国民を魅了する歌声でした』
『女王さまは歌を歌うだけで、王宮から出る事は出来ませんでした』
『女王さまは出られない王宮を恨み、恨みを歌に変えました』
『その結果、歌声を聞いた全ての人間は深い眠りにつきました』
『やがて、王宮では《人を殺す歌声》として恐れられ、国では《人を殺す女王》として嫌われました』
『女王さまは自分の歌声を嫌いました』
『女王さまは自分で自分の喉を潰し、毒を飲んで自害しようとしました』
『もう、二度と歌が歌えないように』
『女王さまは、長い長い眠りにつきました』
ここで本が破れている。
待てよ…………これって……
嫌な気がする。
「あれ……破れてる、買ったばっかりなのに……たくや、やった?」
「いやいややってないよ!! 買った時から破れたとか?」
だが、梨子ちゃんは首を振る。
夜はまだまだ長い。