十話 正体
「うぅ……………酔いましたぁ………」
「へぇ!? ちょ、ちょっと志熊ちゃん大丈夫!? 先輩一旦停めて~」
「お、おう…………どうした? 気分悪いか?」
車酔いが激しいようで、マトモに車では移動出来そうにない…………最初から言ってくれればいいのに。
さっきまで無理矢理助手席に二人で乗ってたから、私は軽トラック荷台に乗り、助手席に志熊ちゃんを座らす。
外を見る限り、まったく異常は感じられない。
誰一人居ない道路には、ポツンと車が停まっているだけ。
酷い有り様、世紀末みたいだ。
「もしも~し、起きてますかぁ~い?」
コンコンと窓を叩くが、中でぐっすり眠っているサラリーマンは寝息を返すだけ。
薄気味悪い。
真っ昼間だってのに、都会の象徴のビル群の影が恐ろしく見える。
「おーい美香、なんか飲み物探して来てくれないか?」
「か弱い乙女を一人で行かせるんですか~!? 無視すんなムッツリスケベ~!!」
仕方ない、コンビニを漁るか…………次いでに食料も持ってこう。
流石都会なだけあって、すぐにコンビニは見つかったが…………怖い。
暗すぎる。
「お邪魔しまぁ~す………誰も居ないっすよねぇ~?」
応答は返ってこない。
居ないって事だ。
「ミネラルウォーターと…………コッペパン………うひゃ~温いぃ………キンキンに冷えたコーラが飲みたいねぇ~」
《ゴソッ…………》
………今、なんか音が聞こえた気がする。
レジの奥のバックヤードからだ。
まさか、起きてる人がいるかも…………だよね。
バックヤードの扉を開けて、回りを見渡す。
段ボールが山積みになっており、やはり中は暗すぎる。
「なんだ………結局誰も居ないじゃない死ねゴキブリ!!!!」
咄嗟の判断で地面に這いずってたゴキブリを蹴り潰す。
ふぅ………気持ちいい。
謎は解けた、帰ろう。
だが、バックヤードの扉を閉めようとするが、何かに引っ掛かって良く閉められない。
な、なんだ?
「立て付けが悪い扉ね………せいっ」
少し行儀が悪いが、渾身力で扉を蹴る。
「う゛あ゛……………う゛う゛う゛……………」
へ?
な、なに今の音………って言うか……声!?
もう一度閉めきったドアを恐る恐るゆっくり開く。
そこには―――――――。
「…………美香の奴、遅いな。……どうだ? 少しは良くなったか?」
「はい、有難う御座います。だいぶ楽になりました!」
あれから十分は経ったと思うが、一向に来る気配は無い。
しくじった、あんな破天荒な奴を一人で行かせた俺が悪かったな…………
毎度毎度、俺の不注意じゃないか。
北谷くんもそうだ。
俺って奴は…………
「でも、少しぐらい仲間を信用したらどうですか?」
唐突に、志熊ちゃんが喋り出す。
独り言だと思うが………仲間を信用………か。
思えば、してなかったのかもな。
「ありがとう、なんか目が覚めた気がするよ」
「へ!? あぁ……えーと……どういたしましてです……」
向こうから一人の影が見える。
あれは…………美香だ。
「遅いぞ美香、何やってたんだ………」
見ると、美香の服は所々破けホコリが被っている。
美香は下を向き、俺達を見ようとしない。
「ど、どうしたんですか美香さん……?」
「な、何があったんだよ……お前…………」
スッと美香は前を見据え、潤んだ瞳と裏返った声でこう言った。
「分かったんだ、アイツら………化け物の正体が」