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いつもの道

作者: 雅片

 猫が死んでいた。

 いつもの朝にいつもの通学路で。バスに乗るために、駅へ向かう方向の道路側に行くために、ひとつ車を見送ってから横断歩道を渡る。田舎の道の真っ直ぐな道路。進行方向にある少し先のバス停を見ると、バス停の向こうにあるもうひとつの横断歩道の近くに、道路の真ん中の白い線より少し左側に、猫が轢かれたのかなんなのか、死んでいた。

 死体を近くで見たいというわけでもなく、ただバス停の方向へ歩いていくが、どうしても視界に入れてしまう。

 二羽の可愛らしい烏が死体をつまんでいる。バス停に着く手前で、一羽の烏は私の横を、私より低い目線で、私がさっきまで歩いてきた方向、反対方向へ飛び去っていった。もう一羽は死体のそばで死体の内臓を食べている。今日はきれいな朝焼けだと思っていたが、変わりなく、烏がついばみ宙に散らばる死体の内臓をきらきらと輝かせていた。

 バス停に着き、毎度のこと時間通りに来ないバスを待ち、それまでは死体を見守ろうかと目を離さずに、おそらくは五分弱、駅と死体がある方角を向き道路の死体を見つめていた。

 車が私の後ろから視線の向いているところへ過ぎ去っていく。死体を避けるために、まばらな数の車は歩道側に少し寄って過ぎていく。一羽の烏は車を警戒して私と反対方向の歩道へ跳ねるように避難する。そして車が去ったと同時に死体へ戻り、また肉をつまみ、車が通り、踊るように烏は歩道側へ避ける。三度ほどそれを繰り返してから、今度は小学生くらいの男の子を連れたおそらく父親が向かい側の歩道を歩いてきた。道路を渡りたいのか車を気にしながら、何故か小学校の方角を背に道路を見ていた。烏は最初の烏と同じ、私の向いている方とは逆の方向へ、高く高く飛んでいった。

 烏のひと鳴きと共にバスの音が聞こえる。私を乗せるために停まるバスを見計らい父親に手を引かれて子供は死体のそばの横断歩道を歩いていく。ひとつだけ空いていたバスの窓側の席に発車と同時に座って窓にもたれかかり、ふと下を見れば、茶色いもさもさの毛皮と、赤と言うには薄くピンクと言うには濃い、そんな色の内臓が本来あるべき場所とは、かなりずれた場所に落ちていた。バスは歩道側へ少し寄って通り過ぎていく。他の乗客が窓に目を向けた様子は無かった。

 バスはあっという間に駅まで私を運んでいく。景色を眺めていると、通学途中の女子高校生や、大人に見守られながらはしゃぐ小学生の団体や、自転車や、対向車線の自動車や、犬の散歩をしている人たちが、目に映った。


 夕方、思い出したように死体があった場所を見やると少しのシミがあるだけで、その上を車が走っているだけだった。


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