第9話 決意と心情
今回はリリ視点でお送りしております。
吸血鬼にとって血を吸うことは、生命をつなぐということにおいて必要不可欠である。さらに同じ人族と言っても血の味は大きく変わる。脂っこい血液があれば、サラサラな血液もあるのだ。そこは吸血するものによって好みが分かれるところではあるのだが…
ようはリリにとって勇希の血は何者にも変えがたい味であったようだ。たかが食(?)だぞ?と思うことなかれ。衣食住は生活の基本である。その中でも食は他の2つに比べても重要性が頭1つの飛び抜けている。それは魔族だって変わらないのだ。月並みな言葉で表すのならば、リリは勇希に胃袋を鷲掴みされた、ということだ。
あぁ、今までボクが吸ってきた血とは一体何だったんだろうか。人族に紛れるため、動物の血を飲んできた。それでも月に数回は人族の血を飲まないといけない。だからさほど強くなさそうな冒険者や農民を襲い、さらに貧血で倒れたと思わせれるように大した量も吸血できなかった。この一連の流れの中に味などという要素が入る隙はなかった。ただ生きるためだけの作業であった。
それでも仕方なかった。誰の血が美味しいのかなど傍目にはわからない。望む余裕もない。自分が魔族とバレたら少なくともその町にはいられなくなる。満足できたことはなかった。だが仕方なかったのだ。ボクは魔族なのだから…
初めてユウキが現れた時の第一印象は謎!であった。人族ならば冒険者の味方こそすれ、少なくともボクに背中を向けているのはズレている。会話を聞けば魔族だからどうとか、人族の言葉とはとても思えなかった。会話の内容がさらにボクを混乱させた。
きっとこの時のボクの顔はさぞ滑稽だったことだろう。思考も停止してたんだろう。そしてユウキがいきなりこちらを向いたと思ったら担がれた。しかも猛ダッシュで駆け出した。それだけじゃない、人族とは思えない跳躍力で飛んだと思えば樹の枝から枝へ飛び移った。ある程度の配慮はしてくれていたようだが、血が足りてなかったボクには耐えられなかった。
目が覚めたらがボクは寝かされていた。視線を動かしたらユウキと視線が合った。ボクは変なことを口走ったような気がする。なのユウキの方が謝っていた。よく分かんない体制をしているが、謝られているのはよく分かった。だって全身から必死さが伝わってきたから。
よくわからない流れでなぜかボクがユウキにレクチャーをすることになった。ユウキは自分のことをど田舎者と言ってたけど、きっと出身は田舎ではない。けど言いづらい事情があるのだろうと直感した。説明の際中に最大の失敗をした。
元々は冒険者か商人の誰かをうまく騙して血をいただくはずで商人の護衛に臨時パーティとして正体がバレる危険を理解しつつ参加した。がやはり焦りがあったのだ。結局失敗に終わり、血を補給できなかった。そして目の前には人族がいる。ガマンができなかった。理性が働かなくなった。ボクはユウキを襲った。
至福の時間だった。血とはこんなにも美味しいものだったのか、、今までの血は腐っていたのではないかと思うほどだった。衝撃的だった。ボクは一心不乱に吸い続けた。
…そしてふと我に返った時に気づいてしまった…吸血しすぎたと。首元の傷こそ塞がり、もう血は流れていないが、ユウキはきっとこのまま死ぬ。そんなことが頭に浮かんで……ひどく後悔した。
なぜ後悔したのだろう。ボクは魔族ユウキは人族、なら後悔など違うのではないか、と。そしてその自問に自答した。…嬉しかったのだ。
吸血鬼は割と高位な魔族であり、伝統的に独り立ちが早い。ボクは数年前から親元を離れ、町で人族に紛れつつ生活を始めた。しかし魔族とバレてはいけない。宿の女将とも商店の店主とも必要以上に関わらなかった。町の中にいてもボクは……1人だった。
きっとボクは寂しかったのだ、愛が欲しかった。だからきっとボクを庇ってくれたユウキに…愛を求めたかったのだろう。なのにボクは自分からそれを奪ってしまった。それが後悔の根底にあるということなのだろう。
だからユウキがピンピンしてることに驚くよりも先に安堵した。またボクは変な顔をしているだろう。
そして、ユウキからしてみればいきなりなんだ、と思われるだろうがボクは1つの決心として言葉をユウキに向けて放った。
「あの!ユウキにお願いがあるんだ。その…ボクをユウキのそばに居させてほしいんだ、僕にできることなら例えな、何だってしてみせるから!迷惑にはならないと誓ってみせるから‼︎…だめ…かな?」
リリが勇希を必要とした当初の理由は血だったかもしれない。だが今の理由はどうなのか、それはリリにもわからなかった。けどきっと血だけではないのだろう。
こんな一目惚れ的な出会いができる人が羨ましいですね。
作者的な第1章(出会い編)はあと2話となっております。我ながらスローペースだと思っております。もう少しお付き合いください。