四人の勇者
目が開く。体中の感覚が一気に蘇る。寝起きとはまた少し違った感覚だ。
ここはどこだ?俺は…今どこにいるのだ?
「国王様。こちらが志願した四名の勇者様です」
背後から男の声がする。見てみると、ローブを纏って顔を覆い隠したような男が喋っていた。
俺は前を見る。ここは…王の間?のような場所だ。
目線の先には、荘厳な椅子に腰かける王様のような姿があった。
「うむ。下がってよいぞ」
そう言って、ローブの男は後ろへ下がった。
よく見てみると、俺の周りには、三人の男の姿があった。
先ほどの女の話だと、志願した中で合格できる勇者は四人。
ここにいる三人は、俺と同じように合格した勇者ということか。
「よくぞ来てくださった、勇者様」
「あんたもしかしてこの国の王様か?いきなり王様に会えるとは、スタート地点はサービスか?」
俺の隣に立っている男が口を開いた。なんともおちゃらけた感じだ。
まあ最も、ゲーム感覚で勇者に志願したのだろう。
俺も同じようなものだが。
「うむ。我々が勇者様を異世界から募った理由は他でもない。世界を救ってほしいからじゃ」
「やはりそう来ましたか」
「まあ、予想通りといえば、予想通りか」
他の男二人が口を開いた。
まあこの辺は俺だって予想はついていた。
勇者の仕事と言えば、世界を脅かす魔王の討伐や、姫の救出といったところだろうからな。
そして国王は、この世界について話した。
数年前、俺たちとは別の勇者が魔王を討伐したそうだ。魔王は見事封印され、世界には一度安寧がもたらされた。
しかしその数年後に、魔王の怒りが怨念となり、この世に様々な災いが降り注ぐようになってしまった。
そんな時、神からの神託があったそうで。
『異世界から四人の勇者を募り、災いを食い止めろ』
国王はその神託に乗っ取り、こうして俺たち四人を募ったそうだ。
「まあ王道といえば王道ですね」
「結局王道が一番楽しめるし、やりやすいだろ」
何やら他の勇者は話しているようだ。まあそれもそうだ。
王道は話の道筋が見えやすい。やりやすさは保証されているだろう。
「勇者様。やる気があるのは大変に嬉しいことだが、これは遊びではないということを、今一度自覚していただきたい」
「王様。ここは俺たちの知っているゲームの世界に酷似してるぜ。ステータスまでついてやがる」
ステータス?何の話だ?
「ステータスに気付いたようですな。他の者たちも、視界の隅にあるアイコンに意識を集中してくだされ」
視界の隅にあるアイコン?
確かに、視界の右下の方に、何やら四角いアイコンが見える。
俺はそこに、言われたままに意識を集中させる。
すると、視界上に様々な項目が表示された。
半沢嘉浩 Lv1
攻撃力 3(+100☆)
防御力 9
スキル なし
魔 法 なし
装 備 伝説の銃
勇者の服
パッと見、こんなステータスがすぐ目に入った。
レベルが1であるのは当然だろう。気になるのは攻撃力の項目だ。
+100とは何だろうか。☆マークまでついている。
「すべての項目について今説明している時間はない。それは各々が後でご自分で確認なさってください」
「それはそうとよ、王様」
俺の隣の、一番テンションの上がっている男が口を開いた。
「これさ、俺たちが世界を救った後はどうなるの?報酬は勿論あるにしても、それだけじゃないんでしょ?」
「それはこの時点で申し上げることはできません。しかし、勇者様が苦労なく戦えるように、最善の援助はさせていただく」
「ほー、おっけー」
この男、やる気はあるようだが頭が悪いな。
この国王、男の質問には答えたことになっていない。俺たち勇者に最善の援助をすることなど大前提だ。
俺も知っておきたかった、世界を救った後のことは、言えない事情があるようだ。なんともまあ、バランスが取れていない。
これ本当に大丈夫か?契約とか結んでんのか?
「では、勇者様一人一人に自己紹介をしていただきたい」
そう言うと、一番は端に立っていたクールそうな男がしゃべりだす。
「俺は藤堂葵。女みたいな名前だが、一応男だ。年齢は17。この手の王道パターンは慣れてるつもりだ」
葵と名乗った男、俺より2歳も年が離れているようだ。
17というと高校生だが、学校は大丈夫なのか?
見た目は美男子という言葉が当てはまるか。髪は黒くて少し長めだ。片目が隠れそうなくらい前髪は伸びている。多分ゲーム通だろう。
「次は僕ですね。僕は緑谷俊平です。王道パターンは極めました。年齢は18です」
眼鏡をかけた男は俊平。
見た目は完全にインテリだが、発言からするにこちらもかなりのゲーム通だろう。ウェーブのかかった髪が、なんか腹立つ。あとほくろが多い。
「俺は赤間航大。20歳で、ゲーム知識はまあ普通だが、これからが楽しみでしょうがねえ感じだ」
ふむ、やはりあまり頭がよくなさそうな印象は受ける。
身長が高く、体つきもがっちりしていて、体育会系といえば体育会系だ。
髪は赤い。染めてるんだろう。割と男前だ。
おっと、次は俺か。
「俺は半沢嘉浩。19歳。勇者という立場に憧れている。ラノベが好きだ」
うむ。些か危ない雰囲気を醸し出してしまったか?
「アオイ、シュンペイ、コウダイ、ヨシヒロか。では勇者様方四名に、軍資金をお渡ししよう」
そう言うと、ローブを着た四人が、それぞれの勇者の前に立ち、巾着袋を渡した。ずっしりと重みが手に伝わる。
「銀貨500枚が入っておる。この世界の相場は、物の売り買いをしているうちに慣れてもらえるだろう」
銀貨500枚か。響きとインパクトは十分だが、実際すぐに使い切ってしまうだろうな。
まあこんなゲームみたいな世界だ。魔物でも倒せば金が手に入るのだろう。
「で、俺たちはどうするよ。四人でパーティ組んで行く方がいいよな?」
「そうですね。さすがに僕もゲーム慣れしているとはいえ、ちょっと緊張があります。まずは四人揃ってレベル上げ…ですかね?」
葵と俊平は、どうも分析力に優れているようだ。
いや、優れているように見えるだけか?
まあ、戦闘になってみればこいつらがいかにポテンシャルが高いのか低いのかがはっきりするだろう。
「勇者様方。他に何か聞いておきたいことは無いか?」
国王がそう尋ねると、葵が手を上げた。
「もし仮に、俺たちのレベルがそれなりに上がり、四人別々に行動をするようになった場合の話だ。俺たちは仲間を募ることは可能か?」
「それであれば心配はいりません。城下町の酒場やギルドなどで仲間を募ることは基本的に合法です。契約は独自に結んでいただいて結構。ただし、間違っても奴隷を連れまわすことのないように。勇者様の品位につながりますので」
仲間を募ることはできそうだな。
それにしても勇者の品位を気にする余裕があるとは。たぶん、そんなことを言っていられるのも最初のうちだけだろう。先に進むにつれて、余裕はなくなってくる。
「他にありませんかな?」
ほかに質問がないことが分かると、俺たちは解散させられた。
どうやらここは城の中だったようで、俺たちは城を出て、更に一度城下町を出てみた。そこには見渡す限りの草原が広がっている。
「この草原で最初はレベル上げをしろってことでしょうかね」
「まあそうだろうな。試しに行ってみるか?」
「ちょっと待てお前ら」
まったくこいつらは、思慮に欠けているというか、後先を考えていないというか。俺は張り切る俊平と葵を止めに入る。
「なんですか?嘉浩くん」
「実践の前にまずは武器の確認だろう?伝説の武器とやらがどんなものか、確認しないと」
そう言って、三人全員が武器のステータスを開いた。
俺の武器はどうやら”伝説の銃”のようだ。腰のホルスターには黒い拳銃がしまってあった。
それを手に取る。これが拳銃の重みか。
葵は背中に双剣を背負っており、俊平は弓を持っていた。
航大は――――――――――
「あれ?」
航大はどこに行った?航大の姿が見えない。
「どうしました?」
「航大はどこ行ったんだ?」
「彼なら、俺は一人で行動するって言って、どこかに行っちゃいましたよ?」
「なんで止めなかったんだよ!」
「別にいいだろ、一人が良いって言うんだから」
こいつらに仲間を少しでも思う気持ちがないことに、あきれる。
少なからず心配するとか、そういうことは出来ないのか。
なんだかだんだん、俺もこいつらと一緒に行動するのが嫌になってきたな。
「それにしても僕は弓のようですね。ゲームではあまり使わない武器なので、少し不安ですね」
「俺は双剣…まあ攻撃速度とか重視の武器だよな。…嘉浩は?」
「俺は銃だ」
「銃!?銃と弓では、互換が出てくるんじゃありませんか!」
そんな、驚愕!という表情を浮かべられても困る。
確かに弓と銃では、銃の方が強いイメージがあるが、ここは異世界だ。魔法だのなんだのを組み込んだら、弓の方がバリエーションは多そうな気もする。
「お前ら武器ヘルプは見たか?」
葵の質問に、俺も思はずはっとなる。そんなものがあったのか。
「俺の武器はやっぱり攻撃速度に向いてるようだな。汎用性とかが気になるけどな」
「僕の弓は魔法効果が反映されやすいみたいです。これは少しうれしいですね」
「俺の銃は……ん?」
これはどういう意味だ。
【伝説の銃】
勇者の持つ伝説の武器の一つ。攻撃手段は、銀色の弾丸のみ。一回の戦闘で一発しか使用できないので要注意。レベルが上がれば様々な弾丸が手に入る。
様々な弾丸が手に入ることに文句はないが、攻撃手段が銀色の弾丸のみとはどういうことだ?しかも一回の戦闘で一発とは…これは厳しくないか?
「なんだか嘉浩くんの武器は、あまり当たりとは言えなさそうですね」
それを言うな。
「とにかく…戦闘で使ってみた方がいいよな…」
なんだか幸先が不安ではあるが、俺たち三人は、草原の魔物と戦いに出かけた。