勇者募集中
「お待ちしておりました。半沢嘉浩様」
紳士のような男性の声だ。ここに来て急に緊張感が増した感じがする。
俺は男の指示に従って、建物の奥まで歩いた。
俺の名前は半沢嘉浩。19歳の大学生だ。
大学生といっても、大した大学ではない。実家から離れた所にある私立大学だ。
金が掛かるといって最初は入学を反対していた親も、俺がどうしてもやりたいことがあると言ったら了承してくれた。
詳しいことは親には言ってない。やりたいことが、何なのかも。
親はそれを今更追及はしてこないし、何せ実家と距離が離れているところに一人暮らししているもので。
正月以外は帰省しない。
時刻は午前1時30分。真夜中だ。
俺はとある建物の中にいる。
実は俺がその私立大学に通いたかった理由は、これなのだ。
高校2年生の夏、俺は友達とこの辺に旅行に来たことがあった。
特に目的があるわけではなかったが、その時にちょうどこの辺りを通ったことがあった。
その時も今くらいの時間帯で、人はほとんどいなかった。
俺が見つけたのは、『異世界勇者募集中』という謎の張り紙だ。
異世界だの勇者だの、俺はそういうのに憧れを抱いていた。
もしかしたら、勇者になれるかも!?
俺は大学に見事合格し、一人暮らしを始めた。
その張り紙のしてあった場所と、俺が通っている大学は距離が近かった。
俺はこの為だけに、この大学を受けた。
張り紙に書かれた番号に電話をし、俺は色々と手続きを踏んだ。
そして見事、審査に合格し、勇者になることが決定したのだ。
本当に合格するとは思っていなかったため、最初は焦った。
だが、ここまで来たからには勇者になってエンジョイしたいではないか。
そうして俺は、この日、指定された住所まで足を運んでいた。
「あなたがこのたび、勇者になることを志願された半沢嘉浩様で、間違いないですね?」
「間違いない」
建物の奥に進んだところの個室で、俺は女性に止められた。
「勇者になれるのは審査を経た僅か四名。そのうちの一人にあなたは選ばれました。四番手です」
四番手か。四番手ということは、俺の合格はぎりぎりだということだ。
何人が応募したかは知らないが、合格したことは誇っていいんじゃないか?
「四番手です、それでも本当に異世界に行かれますか?」
どういう意味だ?
「俺を止めたいの?」
「そんなことはありません。最終確認です」
「もちろん、何番手であろうと合格したんだ。俺は勇者ライフをエンジョイするぞ?」
「承知しました。では――――――――」
女性が俺の額に手を当てると、俺は何だが気持ち良くなり、そのまま意識を失った。