惑わしの木3
「多分、あいつら、自分が死ぬのが一番怖いんじゃないか?」
ビリーが震える声で返した。
「もっと言えば、自分達の親分が目の前に現れたら、発狂するんじゃない?」
「フェリシアは、本当に何も見えなかったの?」
アニスが興味げに訊ねた。フェリシアは首を縦に振った。
「何も見えなかったわ。でも、ビリーの話を聞く限り、私が“恐怖”に対する正しい答えを知っているとは思えない。……私だって、家族や友人を失う事は、耐えられない恐怖だわ。」
それっきり、三人は黙り込んでしまった。フェリシアは、アニスが何を見たのか聴こうと思った。しかし、彼女の肩が余りにも震えていたので、ぐっと飲み込んだ。
いつの間にか、三人は大聖堂の前まで辿り着いていた。遠くから見た時よりも、何倍も高く思えた。
頑丈な扉が目の前にある。三人のうち、誰が押し開けるか、瞳で会話をしあった。結果、三人同時に取っ手を掴み、強く押した。
暗闇に光が弾け、三人は余りの眩しさに目を背けた。
次に顔を上げた時に、三人の目には端正な顔立ちの青年が立っていた。
「ようこそ、ディミオスへ。」
彼は、非常に魅力的な笑みを浮かべると、扉の内側へ新入生を招いた。
「開いている席に、順番に座ってくれ。」
「なあなあ。」
ビリーがフェリシアの耳元で囁いた。
「僕は、自分の顔に自信が無くなった。」
「これまであったの?!」
フェリシアが驚くと、アニスが盛大に吹きだした。ビリーは不機嫌に成り、二人を置いて、どんどん歩きだした。
「嘘よ!」
フェリシアが慌てて取り繕うとする。
「大体、笑顔なんて何の武器にも成らないでしょう?!」
「何のフォローにも成って無いよ!」
彼は益々怒り、乱暴に空いている席へと腰かけた。衝撃でゴブレットが倒れ、上級生が何人か、慌てて身を引いた。