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英雄の末裔①  作者: VERA
惑わしの木
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惑わしの木

 午後八時。ようやく一行は目的の駅へと辿り着いた。フェリシアはビリーと共に、汽車を飛び降りた。地面に足が着いた途端、これまで載っていた汽車が何処にも見えなくなってしまった。

 それぞれの出身校の制服を着た学生達が、不安そうな顔で周りをうろうろしている。中には杖を取り出して、誰にも近づかない様にしている者までいた。

 その内、人々の群れが、何となく西の方向へと歩き出した。ディミオスの上級生たちが、ある大木の前で杖を上げ、順々に姿を消して行った。

「僕達もアレをやるべきだと思う?」

 ビリーが不安げに囁いた。フェリシアは返事をせずに、上級生の後へと続いた。

 樹齢も分からない程の木の前に着き、フェリシアは杖を取り出した。ビリーも恐る恐る杖を出した。

「ねえ、君の服の裾を掴んでいて良い?」

 妙に情けない声で彼が言うと、フェリシアは呆れた様に肩を竦めた。

「服だけ、別な場所に持って行かなければね。」

 それから二人は、丸々三秒見詰め合い、どちらから共なく、杖を天高く突きあげた。

 一瞬の眩暈の後、二人はそれまでと全く別の空間に居た。汽車が消えたのと同じくらい、唐突に複数の建物が姿を露わしていた。

「立て札くらい立てて置いて欲しいよね。これじゃあ、分かり辛いじゃないか。」

「それって、マディス用の道案内?」

 フェリシアが笑えない冗談を真顔で飛ばし、四方を見回した。上級生達は続々と、一番塔の高い建物へと向かって行ったが、一年生は二人の他に全く見当たらない。

「あ!」

 フェリシアは、遠くから駆け寄って来る人影に気がついた。

「お~い!」

 先程汽車の中で話した女性が、魔法使いの正装である、マントを翻しながら駆け寄って来た。

「まさか一年生はこれだけ?! 他の子たちは?」

「多分すっげえ爺の木を、間抜けな顔で見詰めて――痛いッ!」

 軽口を叩いたビリーの足を、フェリシアは容赦なく踏んづけた。それを見て、女性はニヤリと笑った。

「大変結構。間抜け面を見に行くとするよ。君はフェリシア・セイモアに、大聖堂へ“連れて行って”貰いなよ。」

 彼女は二人の頭をわしわしと撫でると、杖を一振りして姿を消した。

 取り残された二人は、何とも言えない距離を取って、二人で歩き出した。

「ここ、何処なんだろうね。」

 ビリーは不安げに辺りを見回した。

「こんなに大きな建物が、本当に敵に見付かって無いのかな?」

「場所ぐらい知っているんじゃない? 少なくとも、私の保護呪文よりは強力な何かで、守られているはずよ。」

 フェリシアが言い終わると同時に、背後で光が炸裂した。二人は同時に戦慄し、杖を抜いて振り返った。

「待って!」

 其処には、フェリシアより小柄な女子生徒が蹲っていた。

「ねえ、二人とも。ディミオスの生徒?」

 彼女は立ち上がり、服の汚れを払った。

「君、杖を落としてるよ。」

 ビリーがぶっきらぼうに言い、足元を差した。女子生徒は真っ赤になり、慌てて其れを拾い上げた。


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