アルヴェニスウェールの春4
すぐさま、車両の扉が開き、次々とディミオス団員たちが駈けつけて来た。全員が杖を構えた所で、フェリシアとアリシアは睨み合い、動きを止めた。
「アリシア、一体どういう事だ!」
リーダー格の初老の男性が、鋭く叫んだ。
「この女がっ! 私に呪いを掛けようとした!!!」
アリシアは髪を振り乱し、気が狂った様に叫んだ。男性は一呼吸置いた後、今度はフェリシアに向き直り、静かに訊ねた。
「フェリシア・セイモアだね? 君は何故、いきなり危害を加えようとしたんだ?」
「この人がさっき、両手を膝の上に置いているのを見ました。左手は男性の物で、尚且つ黄色人種の手です。」
彼女は肩で息をしながらも、冷静に答えた。
ディミオスの面々は、顔色一つ変えずにアリシアを見詰めていた。初老の男性は、同じ様に落ち着いた声で、再びアリシアに問いかける。
「アリシア。君は何故、この子に、“いきなり危害を加えようと”したんだ?」
「何を言っているんだ、フェリックス!!」
アリシアはイライラと叫んだ。
「私はやられたから――」
「どちらが先に手を出したかは、杖を見れば分かる事だが、それよりもこの状況を見れば分かる。」
フェリックスと呼ばれた男は、彼女の言葉を遮り、冷たく返した。
「この狭いスペースで呪文を飛ばしたのに、フェリシア側の席には、硝子の破片がカケラも無い。これだけ完璧に防ぐには、保護呪文を唱えるしかない。……君が何故、突然呪いを掛ける気に成ったのかを、教えてくれ。」
彼の言葉に、アリシアは絶句した。言葉を失い、口をパクパクと動かしている彼女を見て、杖を構えていた女性が鼻で笑った。
「正義の味方と悪党の違いを、私が教えてあげましょうか?」
彼女は杖を一振りし、簡単にアリシアを拘束した。
「私たちは、罪の無い人間を傷つけない。……自分の言葉に首を絞められたわね。」
「その位にしておけ。」
フェリックスが厳しく言い放つと、女性は残念そうに、それでも静かになった。
彼の指示により、気絶させられたアリシアは、ディミオスの面々により、前方の車両へ引きずられて行った。