第7話: 再会
ドキドキしていた。 。ドキドキなんて表現では表し切れないような、鼓動は規則的だけど、その速度は今まで経験した中でもトップクラスの速さだった。
このメールに返信してもいいのか? 返信してしまったら、私はまた崩れてしまう。
どうしよう?でも、すぐ様メールしたい。 いや、電話してしまいたい。
・・・でも、残念ながら、やっとのことで手に入れたのはメールアドレスだけだった。
それでよかったのかもしれない。
しばらく考えた後、私は、携帯を開けた。
そして、少し前に届いた受信メールを開いて、「返信」のキーを押した。
心の中で、「やめな」とか、「もう、区切りをつけたんでしょ?」とか・・・もう一人
の自分が必死で叫んでいるのがわかった。
だけど・・・私は、キーを打ち込み始めていた。
「会いたいよ。」って。
外は、雨だった。
しとしと降る雨。 なんだか、私の中のジメジメしたものを映し出してるようだ
った。 自分ってなんなのだろう。 って。
待ち合わせの場所は、以前働いていた職場のある駅の真ん中。 前に彼を佇んで
待っていた場所だ。
人が代わる代わる行きかう。 何かに追われるように急いでいるらしい人。
疲れきって、帰路に着こうとする人。 何も目的もなく歩いている人。 待ち合わせ
を楽しみにしていそうな人。 人は様々だ。
私は、その中のどの人たちに分類されるのだろう。
どちらかと言えば、待ち合わせを楽しみにしていそうな人、だろうか。 どちらかと
言えば、というよりも、かなり楽しみにしているのだろう。 心が複雑なだけで。
そんなこと、考えていたら、またどこからか、「あみさん」って声がした。
振り返ると、そこに久しぶりに見る彼がいた。 瞬間に、私の心は何も考えられ
なくなっていた。
何故、今ここでメールをくれたのか。 私とどうして会おうと思ったのか?
それら全て、どうでもいいことのように思った。
ただただ、彼と会えたことが、彼のいる空間に一緒にいられることだけが私にとって
幸せだったんだ。
それから、近くのカウンターだけある、バーに入った。
ちょっと気恥ずかしかったけど、しばらくすると相変わらずの笑い話で盛り上がって、それが私にとってどうしようもないほど楽しくて、彼にも同じように見えた。
ほろ酔いになった二人は、そのバーを出て、少しふらつきながら歩いた。
笑い話をしながら、前に私が衝撃の告白をしたことなど、忘れてしまったように。
ふと、彼が言った。
「僕には、彼女がいますよね。」
「ええ、以前に聞きました。」私は答えた。
「あみさんには、ご主人がいますよね。」
「はい、います。」私は、答えた。
「僕は、今でも彼女が好きです。」彼は言った。
「・・・がんばって下さい。」振り絞って私は言った。
「でも、あみさんも好きです。」彼は、躊躇もせずに、言った。私は・・・困惑
した。 嬉しいとか、驚きとか、そういう類の感情など起きもせず、頭の整理が
つかなかった。 パニックとは、こういうことなんだろう。
「私は、ずっとあなたが好きです。」私は、なんとも支離滅裂な答えを出した。
「今日、一緒にいませんか? 結婚はしていませんが、W不倫みたいな感じです。
あみさんは、それでいいんですか?」彼は、そのとき初めて躊躇して言った。
私は・・・あんぐりと口を開いてしまいながら、「はい」と、答えていた。
その答えが、絶対に間違えていることを頭ではわかっているのに、心がNOを
言えなかった。
そして、二人で一緒にいられる場所へと歩き出した。
きっと、いや絶対に踏み込んではいけない一歩だったんだ。