第4話: 恋の始まり
もう、この残りの人生には、「恋愛」というイベントは有り得ないと思っていた。それは、自分で封印した、ということもあるが、それと同時に、一緒にいる夫を超える男性が現れることは、まず不可能だと思っていたからだ。
私とそう変わらない身長で、容姿が良いか?というとそうでもない。(失礼だけど)
全ての人に愛想が良いか?と言えば、それも違う。 嫌う人は嫌うだろう。
では、何故これ以上の男性はいないと思ったかと言えば、「本当の優しさ」を持っているから、としか言いようがない。
優しさは、弱さとよく似ていて、多分、それを優しさと勘違いすることが多いのではないかと思う。 強さは、傲慢だったり、暴力的なものをそれと勘違いしがちだが、実は、それらが逆なのだと思う。
本当の優しさを持っている人は、とても強い。 強いからこそ、誠実にもなれるし、揺らがない。 残酷に見えるようだが、その残酷さは相手に「真実」を伝えてくれるのではないか?と思う。
弱さは、その場限りでの優しさを出してしまう。 相手を思うあまりに、言うなりになってしまったり、・・・それも思いやりではあるのだろうけど、実は相手を駄目にしてしまうケースは多いと思う。
そんな、本当の強さと優しさを持っているから、私はそう思ったのだろう。
そして、それは揺るぎがなく、ずっと夫をこの先も愛していくのだろう。
それなのに、彼に出会ってしまった。恋に出会ってしまった。
もう、有り得ないはずの「恋」という感情が生まれたのは何故なのだろう。自分でも、不意打ちすぎて、何が何やらわからなかった。
「こんなに苦しいのは何故なんだろう?」「明日も、会えるかな?」自分の気持ちに気づかない日々の中で、いつも考えていた。 会えば、バカをやって、笑いあっているだけなのに。
いつから、彼は私の心の中に入ってきたのだろう。 それすら覚えていない。
ただ、なんとなく、仕事を辞めることになった頃、心がざわついている自分に気づいたんだ。
私、仕事を辞めたら、彼にもう会えないの? ・・・やだ。 そんなの、考えられないって。
それから毎日、心の中がざわざわしていた。 苦しくて、哀しくて、どうしようもなかった。
それが恋なんだ。って気づいたのは、仕事が終わって二人きりになったときだった。
「今しかない」咄嗟に思った私は、彼に幼稚な理由を作ってEメールアドレスを聞き出しだんだ。 自分でもびっくりした。 そんなこと、なんでするの?やめな!って。
でも、止められなかった。 どうしても、彼と離れたくなかったんだ。
いろんな理由を言った後、「メアド、教えて・・・」のど元から心臓が出て来んとばかりにバクバクしながら、やっとのこと言った。
「いいよ。これ、俺のアドレス」と言って、彼の携帯を、躊躇なく差し出してくれた。
私は、呼吸も忘れてるような状態で、自分のアドレス帳に打ち込んだ。 もう、たくさんの経験をして、しかも、あまり経験するようなことはないような、修羅場まで踏んできた筈なのに、恋なんて、死ぬまで有り得ない筈だったのに・・・私の心は、自分の立場や年齢を遥かに超えて、踊っていた。 それだけで幸せだったんだ。
これから、どんな苦しみが来るかも知らずに・・・。