第3話: 愛を知るとき
屍のようになんとか生きていた。足が地についている感覚など全くなく、娘を失った哀しみの感情と、自分自身を責め続けることだけで命を継続させていた。 ・・・本当は、この命を絶ちたかった。
もはや、存在価値などなく、存在意義も見えなくなっていたんだ。
私の中ではそんな感情が渦巻いていたのに、周りには隠し、笑って過ごしていた。
その頃、再々就職した職場で、一人の上司に出会った。その人は、何故かはわからないが、私を気に入ってくれている様子だった。
私は・・・ただただ、人に対する絶望しか抱えていなかったけど。
ある時、数店舗統轄のその上司が、統轄の中の一店舗である支店に入社した私たちの歓迎会を企画してくれて、その席で私に言い放ったんだ。
「アミちゃんは、バツイチでしょ?」って。誰にも言ってなかったはずだった。
不意打ちされたのに、「なんてデリカシーのない人なの?」って思ったのに、なんだかさっぱりした気分の自分がそこにいた。
きっと、Re-startを切った瞬間だったのかもしれない。
彼は、その後も変わらず私を口説き倒して、全てをさらけ出しても、私とはいない方がいいと説得しても、一緒にいたいと言った。
そして、二人は沢山の山・谷・嵐・台風・・・そのぐらい困難を乗り越えて結婚した。
死に損ないの屍は、彼によって再生されたと言っても、全く過言ではなかったんだ。
それからずっと、安定している生活が続いていた筈だった。
そう、思っていただけだったのかもしれない。
一度、木っ端微塵に散り去った結婚を経験した私は、彼に対しての「思いやり」を、過剰なまでに発揮した。 それが、間違いだったと気づいたのは、ずっと後のことだった。
すべてをさらけ出せない夫婦など、きっと夫婦と呼べないのだろう。 それ以前に、私は、「夫婦」を、頑ななまでに拒否していたのかもしれない。
それでも、彼との結婚生活を終わらせようとは思わなかった。 きっと・・・心底愛しているのだろう。
「男」としての彼でもなければ、「夫」としての彼でもない。 だけれど、彼を人間として心から愛しているのだろう。




