第2話: 過去
ひとりぽっちになってしまった。日本で、とか、世界中で、とか、そんなレベルを遥かに超えて、この存在は宇宙の中で孤立無縁になってしまったようだった。
私にとって、何よりも大切だったものを失ってまで得たかったものは何だったのだろう。・・・答えなど、知る由もなかった。
逃げるようにしてやっと辿り着いた結婚は、嵐のような毎日だった。 子を一人設け、幸せになるはずの生活は、夫の、酒と博打と風俗と、そして暴力の日々だった。
若さ所以なのか、単純だからなのか、結婚=幸せと勘違いしていたのかもしれない。
たった一つ言える真実は、私は子供がこの世に生まれて来てくれたことを心から感謝し、自分の命よりも大切なものを与えて貰ったことだ。
彼女の父親も、そこだけは同じだった。 子供に対してだけは、誰もが口を揃えて言うぐらいの子煩悩だった。
そんな日々から逃げたくて、離婚を考えても、彼女のことを思うと、ただただ泣き、悩み、苦しむしかなかった。
そんなとき、ずっと心の中に押し込めていた思いが溢れ出してしまったんだ。
その人は、ずっと大好きだった人。私が、初めて自分よりも大切で、心の底から愛した人。
彼は・・・そうではなかったから、一緒にいることができなくなってしまったけれど。
その人のことが心に充満したのと同じ頃、職場に外線が入ったんだ。・・・その彼だった。
そして、また二人が繋がるのに時間は必要ではなかった。
結婚相手に知られるのもまた、それほどの時間はかからなかった。
その後は、巷でよく耳にするかの如く、お決まりの修羅場となり、私は経験もしたことのない暴力と、初めてリアルに殺されるという瞬間を経験した。 彼も、また私と同じように。
そして私は、命でもある娘を失ったんだ。どうにもならなかった。
私がもし娘と二人暮らして行くことになったとして・・・きっと、娘の父親は私を殺してしまうから。
そうなったら、私は楽だけど、娘は殺人者の子供になってしまう。
体中の内臓や血管を引き裂かれるような・・・特に子宮を引き裂かれるような思いで娘と別れた。 悪いのは、私だ。
暴力で負った骨折と打撲などのために入院していた私は、毎日泣いて泣いて泣きつくした。嗚咽とは、こういうことか、と知ったのもそのときが初めてだった。
死んだようにやっと命を繋いでいた私の支えは、彼だけだった。
でも、そう思っていたのは私だけで、彼はあっという間に一年後、別の人と結婚してしまった。
本当に、私は、どこまでも救いようのない大馬鹿だ。
私はその時、永遠に恋愛を封印したんだ。二度と恋愛はしない。もうできない、って。