第10話: 覚悟
痛みは時間の経過で忘れることはできたけど、私が過去にしたことは消えやしない。あの時と、感情は違うとしても、でも、同じことをしようとしてるのではないか? 人は、過ちは生きてる間に起こしてしまう生き物だろう。 だけど、同じ過ちを犯さないようにそこで自分を戒めることで、先に進めるのではないだろうか?
それなのに、私は、戒めたはずの自分を解放してしまっている。 勉強ができないということだ。
勉強ができずに、私はバカだからだ、と、自分だけ納得し、そのまま生きていくのは自由かもしれない。 だけど、もう二度と、誰一人として傷つけてはならないという戒めだけは、忘れてはならなかったはずだ。
何度も何度も思う。彼のことが好きだ。大好きだ。 できたら、人生とか垣間見ずに、このままただただ、恋という夢の中で彼とだけ生きていきたい。 それが私の本心だ。
だけど、その反面で、私は夫と子供たちを表現しようもないぐらい愛している。 その愛している人たちを傷つけることだけは、絶対にしてはならないのだ。
やっと、答えが出たような気がした。 遅すぎるかもしれないけど、結論のような気がした。
彼と出会えたことは、私にとって宝だ。 この先の人生がどれだけ続くかもわからない。 私は、一度ガンの手術も受けている。 命が何処まで続くかなど、想像もできないのだ。 だけど、そんなあやふやな命を受けて、生きている私にとっての、大切な大切な宝物だ。 この先、生きている限りずっと。
私に、女としての幸せを与えてくれた彼。 とっくに忘れていた少女のような気持ちを思い出させてくれた彼。 いとおしくって、どうしようもないような気持ちを湧き立たせてくれた彼。ずっとずっと抱いていて欲しいと願ってしまうような彼。 はにかんだ顔、ちょっとすねた顔、直球勝負なところ、・・・優しいところ、全て、ひっくるめて、大好きだった彼。
もう、二度と会うこともないのだろう。 もし、街中でふっと会ったとして、そのときは、二人とも何事もなかったように、ただ同じ職場で働いた、という関係に戻ってしまうのだろう。
だけど、私にとって彼との出会いは最高の宝物だ。
これまでもずっとそうだったけど、苦しくても、哀しくても、命すらなくしてしまいたいときも、そのときは思えなくても、その後に思ったんだ。 この出来事がなかったら、今の私はなかったんだ、って。
だから、彼との出会いも、別れも、きっとそう思えると思う。
あと、どのぐらい経ったらそう思えるのかはわからないけど、きっと、彼との出会いがあったから、今の私があるんだ、って。
時間はかかるだろうけど。
だから、私は、彼とちゃんとさよならしよう。
思い残すことなく・・・否。思いが残らないなんてことはきっとできないけど、できるだけ、そうするように、さよならしよう。 いつ?明日?
そうだ、明日、会おう。 ちゃんと、彼にさよならしよう。
そして・・・いつか、彼が彼女と幸せになれるように、祈れる自分になろう。
そのときは、きっと・・・ 恋が愛に変わった瞬間だろう。