5・不動産屋がテキトーすぎて困ってしまうんだが
ファミレスを後にすると、再び自己主張の強いお天道様に晒され
不快指数のタコメーターは限界値を振り切り、一周してゼロに戻ってきてしまった。
何秒もしないうちに汗が噴出してきてしまいそうなほどだ。
ドリンクバーで冷たい飲み物(乳酸系だが)をがぶ飲みして
身体を冷やし、水分を十分に摂取したはずだが
もう渇きを覚えてしまって枯れてしまってもおかしくない。
しかしながら、ランチメニューは男の自分には多少物足りなさも感じたが
最後のデザートで出されたバナナティラミスの
ホイップクリームとバニラアイス添えによって
食欲は一気に奪われてしまった。
口の中いっぱいに広がる完熟バナナの濃厚な甘みと
ティラミスにふりかけられたココアパウダーに加え
たっぷりホイップクリームと濃厚ミルクバニラアイスの
油分で目眩がしそうなほどの重量感。
そして夕飯も遠慮してしまうのではないかというほどの
破壊力はまさしくデザートという名のラスボスにふさわしいとさえ思った。
「アタシからのサービスだよ♪寿君と瑞穂さんに再会できた記念日!
都子スペシャルデザートをご堪能あれ☆」
気を良くしてくれた都子が通常量をはるかに超える
増量デザートを用意してくれたものの、オレには少しハードルが高かったようだ・・・。
「ティラミスす~っごくおいしかったね、ひーちゃん!
都子ちゃんいるんだし、また食べに来ようよ♪」
オレとは違って、ラスボスをぺロッと平らげてしまった姉。
それもおいしいと言う。いや、おいしくないわけでもなく
むしろおいしいデザートではあったのだが・・・。
「・・・ああ、また来るか。」
それでも都子と再会できたオレの気持ちには
清清しい空気が流れている。
渡したアドレスにメールなり電話なり
してきてくれるのをまずは期待しているわけだが。
姉の瑞穂は店を出ると、持っていたバックから
キャスケットの帽子を取り出すと少し目深にかぶった。
グレー色で、とてもシンプルなデザインだけど似合っている。
白地のワンピースに
デニム生地のショートパンツに黒のレギンスを履いて
少しかかとが高めのヒールを履いている。
色はピンク。茶色にも近い色をしていて
悪く言えばサーモンピンクと言ったところか・・・。
姉ながら、かわいらしいとは思うけど
妹にしか見えないのがなんとも。
瑞穂が歩いていると、普段なら何気なく通っていた道も
姉の周りはスポットライトで照らされているかのように明るく見える。
トランペット調の音色のファンファーレが気高く流れ
誰もが瑞穂を見やるような空気。
ニコニコした嫌気のない表情も
他人に不快感を与えないのが
瑞穂のいいところでもある。
「おい、あの娘かわいくね?声かけちゃおっかな・・・」
「やめとけよ。どうみても中高生くらいじゃないか!」
「隣にいるやつ彼氏かな・・・!?」
「そんなわけないだろ。どうせ妹の買い物に付き合う兄だろ!」
ひそひそ・・・
そんなこんなで周りにもそんな風に見えるらしい。
まあそれも仕方がないのだが。
少し立ち止まりため息をつく。
「ねえ、彼女!かわいいね!暇ならオレと遊びに行こうよ!!」
そのとき一人の若い男がテンション高く瑞穂に声を掛けてきた。
っとまあ、こんなふうにちょっと目を離してしまうとこの有様だ。
「え・・・えっと・・・。い・・・今、ひーちゃんと一緒に行くところがあるから・・・」
少しビックリしてオドオドしながらオレのほうを見つめてくる姉・瑞穂。
その見つめてくる瞳はどこか子猫のようにも思える。
「え!?彼氏と一緒??・・・あんなのが!?」
その若いオレのほうを見ながらキョトンとしている。
・・・・・
「ぷううううう!!彼氏とかそんなんじゃないんだから!!
ひいちゃんは、アタシの大事な大事な弟だもん!!!
馬鹿にしないで!!!」
っと、ほっぺを膨らませて顔を真っ赤にして
男に言い返す。
しかしながらアニメ声なのが迫力に欠けてしまって
なんともいえない。
「ハハハ!!そっかそっか☆わかったよ。じゃあなお嬢ちゃん!」
くすくすと笑いながらその場を後にする男。
そんなに悪いやつではなかったようだが。
同じようにあたりの人にも微笑まれている瑞穂だった。
「みて、あの娘かわいい♪」
「ほんとだねぇ。真っ赤になっちゃってる。」
道行く女性達からも微笑ましいコメント。
「ぷう・・・。」
「ほら!むくれてないで、いくよ?姉ちゃん。」
「・・・うん。」
オレは姉の手を引っ張ってアーケードの中に入った。
「弟君なんだぁ。。。大変そうだね。」
「うん。あんなにかわいらしいお姉ちゃんじゃ心配になっちゃうよ。」
っとまあ、街中の女性たちの興味は尽きることがないようだな。
「ひぃ・・・ちゃん・・・」
「ん?」
「・・・ひぃちゃんから見てもアタシって妹みたいに見えるの・・・?
お父さんとお母さんが心配しないように、ひいちゃんのお姉ちゃんとして
一生懸命やってきたつもりだったのに・・・」
瑞穂は足元の石ころを蹴飛ばしながら
ワンピースの裾が風に揺れている。
「フッ・・・ハハハハハハ!」
オレは笑う。
「ちょ・・・ちょっと何がおかしいの!???」
「ねえちゃん、そんなこと考えて今まで暮らしてきたの?
いっつも心配させてたのねえちゃんのほうじゃん(笑)」
「カアァァァァァァッ!!!・・・・ひどい!!」
本当にすぐに真っ赤な顔になってしまうんだな。
瑞穂は。
なんて思いつつ・・・
「・・・でも、オレにとっては世界中でたった一人の血を分け合った姉ちゃんなんだ。
姉ちゃんは姉ちゃんのままなんだよ。だから気にすることないって!
確かに姉ちゃんはちっこくて妹みたいだけど、姉ちゃんには変わらないからなぁ。」
思ってるままのことを言ってみるオレ。
「・・・・そうだね。うん、ありがとう・・・」
下を向いたままモジモジしながら言う姉・瑞穂はまだどこか幼い感じがするが
ここは言わないでおこう、うん。
「・・・でも・・・」
「・・・・へ?」
「最後のちっこくては余計なひと言なんだからねっ!
いつかもっとおっきくなっていい女になってみせるんだからっ・・・!!」
っというわけで、結局は言わなくていいことを言ってた
みたいなので無意味だったけど、姉弟の絆も深まったのかな。
とりあえずそういうことにしておこうか(笑)
でも、姉ちゃんはもう成長しないと思うぞ・・・成人してるし。
いや25歳くらいまではいける・・・のか・・・?
っとまあ、これも胸の奥に秘めておくことした。
「そういえば・・・姉ちゃん、不動産屋も見ていくって行ってたね。どうすんの?」
「それなら、もうこの近くだよ!インターネットで
気になる物件取り扱っている不動産屋さん調べておいたから。」
「なんだ、もう下調べは済んでるんだな。」
なんて感心していたとき
「・・・・あった!ここだよ!!」
アーケード商店街の一角にある写真屋と蕎麦屋の間にある路地の片隅に
その不動産屋はあった。
「み・・みやま・・・?深山不動産か・・・。」
ガラス張りのドアにはびっしり様々な物件が貼ってあるが
ほとんどが手書きの簡単なものだった。
本当にインターネットに載せるような
グローバルな活動をしている不動産屋というイメージはなく
不衛生さはないが、殺伐とした雰囲気だ。
日のあまり当たらない場所にあるため、そう感じるのかもしれないが。
今にも忍者とか侍が出てきて闇討ちなんかされてしまいそうな雰囲気がある。
「本当にここでいいのか・・・?」
オレの問いに瑞穂は答えず
「入るよ!別にすぐに決めるわけじゃないし気楽にねっ☆」
と言って、瑞穂はガラガラと入口の扉を開けた。
こういう時は前向きだなあと思いながら、俺も入ろうとしたその時だった。
「きゃあ!!!!!!!!!」
ガシャガシャガシャーーーーーーーーーーン!!!!!!!
目の前で大きな音を立てて姉・瑞穂は視界から消えた。
何やら細かい文字がたくさん書かれた書類が散らばり
3段ほどの小さな脚立がその上に転がっている。
「・・・・いたた・・・」
そして視界から消えた瑞穂の代わりに
足元で転がっていたのは奇妙なことに
忍者でも侍でもなく・・・・・
ピンクかかった長い髪の少女だった。
それもなぜか短いスカートを穿き白いブラウスと
縦に長いハットを身に纏った魔法少女風の女の子だった。
そして視界から消えた瑞穂は魔法少女の下敷きとなって倒れていた。
しかしながら器用に倒れたようで、切り傷や大きなけがも
特に無く大丈夫そうではあるのだが
魔法少女は大きく足を広げ
スカートの中が丸見えになっている。
白く細くてすべすべの肌は年齢的にもおそらく15、6歳なのが
容易に察することができた。
そして、その魔法少女を後ろから抱きかかえてクッションのように倒れた瑞穂の手が
これまた器用に魔法少女の少し小さな、かつ張りのある成長発展途上の胸の膨らみを
手ブラ状態で鷲掴みにしている。
「んんん・・・っあ・・ああん・・・。
いったい・・・なにがおこったのだ・・・?」
今まで味わったことのないような奇妙な感触に
疑問と適度な心地よさを感じながら
魔法少女は目を開く。
ひゃあ!!
少女は突然の出来事に状況が理解できていないようだが
オレのほうを見るとスカートを両手で戻し悲鳴をあげた。
そんなことで動揺なんてこともしなくなった
オレの心は高校生の時に比べると成長しているんだな。
「う・・・・ん・・・・ん・・・・・・・・・・・・・・いたいよ・・・ひーちゃん・・・」
下敷きになった瑞穂も起き上がる。
「ご・・・ごめんなさいっ・・・!!
お客様が入ってくるって思ってなくって
脚立で窓の上掃除してたらびっくりして
転んじゃいました・・・
おケガはないですか!?」
悲鳴を上げるも、すぐに冷静になった魔法少女は
謝罪をしてくる。
「姉ちゃん大丈夫?」
「うん・・・なんとか・・・・」
「あの・・・オレたちどんな物件があるか見せてもらいたくて来たんだけど・・・
えっと・・・店主さんはいないのかな・・・?」
オレは魔法少女に訊ねた。
「っえっと・・・あの・・・。・・・・私がこの深山不動産店主です!」
びっくりするような答えが返ってきた。
「みやまひかりと申します!っといっても体調不良の父の代理店主ですが」
深山光莉
代理取締役
とかかれた名刺を渡された。
こんな高校生くらいの女の子が名刺持ってるなんて・・・
しかも魔法少女なわけで・・・
そこはあえて突っ込まずにいた。