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4・突然話が飛んでしまって困ってしまうんだが

「キーンコーンカーンコーン」



小学校では、お決まりのサインが一日の終わりを告げる。



「みんな!ちゃんと日が暮れないうちに

真っ直ぐ帰るのよ!」


担任の若い女教師が早めの帰宅を促す。

初秋の頃、日が傾くのも早くなり下校時間も

それにあわせて少し早くなるのは

どこの学校も同じだろうか。

6限目まで授業があったため

放課後に校庭で遊ぶ時間など

いくらもない。


オレは、とりわけ毎日の時間割など気にもぜず

一通りの教科書とノートを詰め込んだ重いランドセルを背負って

帰宅の路につく。

体力が有り余っている児童の身体に

‘疲れ’などという文字は存在などせず

小学校5年生の男児には発育のためにも

ちょうどいい運動かもしれない。


「ひさしくん!早く帰るよ!!

今日は何してあそぼっか?」


さくらんぼの飾りがついたヘアゴムで

髪を2つにまとめている少女が催促でもするかのように

呼びかける。


「ちょっとまって、みやこ。

ちゃんと宿題とプリント持って帰らないとな。

あとで母ちゃんに見せると遅いって怒られるんだ。」


少女の名は都子みやこ

幼少からの幼馴染でクラスも一緒だ。


「そんなの普段からちゃんと見せていれば

おこられないじゃん!

まったく・・・ひさしくんはあいかわらずだね。」


「それはそうと、みやこは今日はピアノ教室じゃないのか?」


「ピアノの先生が風邪ひいちゃってしばらくお休みだって。

だから早く帰ってあそぼ!

最近ひさしくん、お姉ちゃんとゲームして遊んでばっかりなんだもん。

ずるいよ・・・

だから今日はアタシの番だからぜったいね☆」


「はいはい。ねーちゃん小6にもなって

おままごとやりたがるからなあ。

なんとかゲームやるほうに

持ちこんでるんだけど。」


「ひさしくんのお姉ちゃん、ひさしくんにべったりだもん。

いいなあ・・・」


「・・・え?・・・」


「・・・カアアアア!!

ううん!!なんでもないよ!!!

とにかく帰ろ!」


みやこは急に顔を真っ赤にさせて

話題をそらす。


「変な奴・・・

じゃあランドセル置いていつものところな。」


家も近く、みやことほぼ毎日一緒に帰宅するのが日課のようなものだ。

ちなみに、いつものところってのは近所の神社だ。

境内が広く緑に囲まれていて、とても静かだ。

子供ながらに癒され良き遊び場となっている。

ここでは、みやことかくれんぼや鬼ごっことかで走り回ったり

昆虫と触れ合ったり、さまざまな遊びが楽しめる。


みやこと一緒に校舎を出て、いつもの通学路を一緒に歩き

それぞれの自宅の前で一度解散した。


日は傾きかけている。


約束の神社に着くと、静かに風に揺られ

まるで心地の良い秋風に吹かれて

鼻歌でも歌っているかのような

楓の葉のこすれるサワサワとしたメロディーに

包み込まれた。

街は右から左から車の走る騒音や

道路工事の音で不協和音が流れる中、

少し高台にあり、鳥居を10数個ほどくぐって

登った待ち合わせの神社は24時間鳴りやむことのない

音と消えることのない街の灯りから解放され

比較的栄えた街にすむ2人にとっては

貴重でオアシスのような場所だった。


楓の木で囲まれていて少し薄暗くなってはいるが

小学生が安心して遊べる。


「みやこ!今日はこれで遊ぼうぜ!!

昨日父ちゃんがおみやげで買ってきてくれたんだ。」


普段はあまりサプライズ的なことをしない父親が

買ってきてくれたおもちゃを持ってきたのだ。


「うそぉ!?ナックルフリスビーじゃん!!

CMでやってた不規則な動きをするフリスビーだよね。

おもしろそうって思ったんだ。買ってもらったんだね!!」


普通のフリスビーとは違って、子供が遊ぶのに

危なくなさそうな程度の素材で手裏剣のような形をしている。

ところどころ穴が開いていて男の子にはたまらなく

かっこよく見えるフリスビーだ。

どういう理屈かは知らないが

投げ方次第で様々な軌道を描いて投げられる。

そのフリスビーに女の子のみやこも、はしゃぎながら目を輝かせている。


「欲しがってたの父ちゃんが知ってたみたいでさ。

この前、テストで100点とったご褒美にって

父ちゃんがプレゼントしてくれたんだ!

さっそく投げるぞ!

エイッ・・・!!!」


真っ直ぐみやこのほうに飛んで行ったフリスビーは

みやこの手に届く寸前で浮き上がり

みやこの頭上を飛び越えて行った。


「すごーい!

今ホップしたよ!!

アタシも投げるね☆」


後ろに飛んで行ったフリスビーを駆け足で

取りに行くと、今度はみやこが力いっぱい

フリスビーを投げ込んできた。

しかし、オレの方向とは違う方へ飛んでいく。


「ハハハ!やっぱ女の子にはむずかしいかな!?

めっちゃ女の子投げじゃん!(笑)」


「ぷう・・・・!!」


みやこはほっぺを膨らませる。


しかし、フリスビーは突如大きく旋回して

オレのほうに戻ってきた。

油断していたオレのおでこにコツンと当たる。


「いってえ・・・!さすがナックルフリスビーだわ!!」


「アハハハハ!

どんなもんだい!!」


「・・・・・アハハハ!!」


みやこの楽しそうな笑顔に連れて

オレも一緒になって笑っていた。

みやこの笑顔には人を楽しくさせる力があるみたいだ。


「あはははははははははは!」

「はははははははっははは!!」


しばらく二人で楽しく笑いながら遊んでいた。




日が落ちてきて、神社の境内がだいぶ暗くなってきた。

遊び疲れて神社のわきに2人で腰を掛けながら空を見上げる。


「もう来年は6年生かあ・・・。

そしたら1年であっという間に中学生だね!」


薄暗くとも、みやこの白い肌と瞳が何かを憂うように

はっきりと見えた。


「そうか?やっと5年生になったけど

長く感じてしょうがないよ。

小学校卒業して中学校とかまったく想像できないや。」


オレは思うがままに言う。


「アタシはね・・・。ひさしくんがいるから

毎日楽しくてあっという間だよ。

なんていうか・・・中学校入っても今みたいに楽しく遊べるかな・・・?」


空を見上げていたみやこがそっと振り返ってオレを見る。

その瞳はどこか寂しげだ。


「どうして急にそんなこというんだよ・・・。

そんなのあたりまえだろ!

またフリスビーやろうぜ!!」


「・・・うん。」


鼻の頭を掻きながら泥だらけになった

頬を拭ってみやこの瞳を見やった。


「!?」


「・・・うん。ずっとそうやっていたいのに・・・。

涙が止まらない・・・。やっぱり楽しくて・・・。

離れるのがさみしくなるよ・・・。」


気づくとみやこは目を真っ赤に腫らして大粒の涙をこぼしていた。


「ど、どうして泣いているんだよ!?

オレ変なこと言ったか?


「ううん・・・。実はアタシね・・・。

お父さんの仕事の都合で引っ越すことになったの。

急に決まってね・・・。一週間後には遠くの街に行っちゃうんだ・・・。」


みやこの突然の言葉にオレは一瞬わけが分からなかった。


「な、なに言ってんだよ、!?そんなばかなこと・・・急に・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

・・・

・・・・・・・・・・ほんとなのか?」


もう一度みやこの顔を見ることが怖くて目をそらし

自分の消えかかっている陰に目をやりながら

その返答を待った。


「・・・・ずっとね。ひさしくんと一緒に育ってきたこの街も大好きだし・・・。

もちろん・・・。」


ほんと?に対する答えは聞けないままみやこは続ける。


「もちろん・・・?」


オレは特に聞き返しもせずみやこの話に耳をやる。


「ひさしくんとはずっと遊んだりして良い友達で幼馴染だって思ってた・・・。

だけど・・・一緒にいられなくなるって思ったとき・・・ただの幼馴染じゃないんだって・・・。

ただの友達でいたくないって・・・思った・・・。だからこそ・・・引っ越すってずっと言えなかった・・・・

別れを言うのが辛くて

・・・・ひさしくん・・・。」


幼馴染の女の子の見たことない表情、長い睫と大きな瞳。

そこから溢れ出る涙。いつも男の子のような好奇心と元気いっぱいの

少女は、そのときとても美しかった。

こんなにもきれいな顔していたんだな。

そして向けられる自分への詞のひとつひとつ。

とても激しく鼓動を揺らした。


「ひさしくん・・・涙でぐちゃぐちゃになっちゃったけど・・・

アタシを見て・・・。」


オレは何とも言えない寂しい気持ちを抑えながらも顔を上げて

みやこに何かやさしい言葉をかけなければと振り返った。


「・・・・ん・・んん・・・!??」


それは突然だった・・・。

おそらくみやこも初めてであっただろう。

顔を上げ振り返ったそのとき

みやこはプルンとしたその小さな唇で

オレの唇を甘く包み込み奪い去っていった。


その一瞬の時は長いようで短かく

短いようで永遠にも感じられるほど長かったかもしれなかった。


とにかく暖かく柔らかく、少し早くなった吐息で

めまいがしそうなほどくらくらした。

小学生の割にずいぶんと大人のようなキスをしたと思う。


「えへへ。 奪っちゃった。ひさしくんのファーストキス。

ドロンコとチューインガムの味であまりろまんちっくじゃなかったなあ!」


ゴシゴシと涙を拭った後はあるものの

またいつもの無邪気なみやこに戻っていた。


「・・・・カアアアアア!!

な、なんだよ!俺だって初めてだったのに!!

ろまんちっくなんて言葉も知らんくせに!!!」


「いつか絶対迎えに来てよね!」


「いつかな!」


その三日後、都子は引っ越していった。

淡い思い出を残して・・・。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


大きな約束をしたわけではないけど俺の心にしまってある思い出。

全部を鮮明に覚えているわけじゃないけど

都子のことを忘れたことはなった。



「寿君、全然迎えに来てくれないんだもん(笑)

もう一生会えないのかと思った!」


運んできた料理を瑞穂とオレの前に置き

スプーンとフォークを並べながら

一層きれいになった都子が笑顔で言う。


「忘れたわけじゃないぞ!

ちゃんと連絡先聞いてなかったし・・・

それに・・・少し恥ずかしいしな・・・・。」


「寿君も少しシャイなそこのところ・・・

全然変わってないね。あっ!お姉さんもお久しぶりです!」


そういって都子は瑞穂にも挨拶をする。


「久しぶりだねえ。いっつもひーちゃんとられちゃって寂しかったんだよ?(笑)」


姉・瑞穂もおどけてみせる。


「アタシ、週5でここでバイトしてるからさ!いつでもきてね☆

仕事だからもういくね。ごめん、またあとで!」


店長に呼ばれたのか戻ろうとする都子をオレは呼び止める。


「これ、オレのケータイ番号とアド!今度よかったらどこかでゆっくり話でもしようぜ。」


テーブルの端に置いてあったアンケート用紙の裏に付属のボールペンで

速攻で書き記したアドレス。

字は少し汚いが、まあいいか。

都子はそれを受け取ると


「やるね、寿君!女の子にすぐアドレス渡しちゃうなんて慣れてるじゃん!

アタシこれでもお店で人気の女性店員なんだよ☆

なんてね。ありがたく受け取っておくよ。

じゃあ、またね♪」


そのまま都子は仕事に戻っていった。

とりあえず元気そうでほっとしたなあ。


オレと都子の止まっていた時間が再び動き出した。


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