2・姉がブラコン過ぎて困ってしまうんだが
気がつけば朝になっていた。
何かを思い出したようにオレは飛び起きる。
そしてテーブルに置かれたくじを見つけると
胸に抱え込み安堵する。
どうやら眠ってしまっていたらしい。
購入したくじは当選の日から肌身離さず持っている。
そして自宅を出るのが怖くなり 2日ほど外出をしなかった。
もちろん誰にも口外はしていない。
眠りもせず、腹も減っていたが
とにかく現実を受け止めるのが一杯一杯だった。
部屋にあったスナック菓子とジュースだけで
撮り貯めて観ていなかったアニメを一気見しながら
自宅にこもっていた。
長時間起きていたことによって
いつの間にか眠っていたようだ。
生臭い空気が部屋に漂っているので
窓を開けて換気をする。
陽の光はほとんどが遮られているが
窓をあけるとビルの隙間風がゴオッ!と
バーゲンセールのおばちゃんのように
一気に流れ込んでくる。
とりあえずシャワーを浴びた。
白く濁った水が自分の不衛生さを象徴していた。
髪を乾かし、着替えて自宅を出ると
久しぶりの直射日光が目に毒なんじゃないかと
いうくらいに眩しい。
くじはチェーン付きのウォレットにしまって
大事に持っている。
色あせたジーンズに
何やら格好良く意味を持たない
アルファベットが並んだ白地のTシャツをラフに着て
人目を気にしながら歩く。
もちろん誰もオレが高額当選したことなど
知るわけもないのだが。
向かったのは駅前の大手銀行の支店。
くじの換金のため指定の銀行に来たのだ。
高額当選のため購入した店舗では換金ができないためである。
窓口に高額当選の旨を伝えると
かしこまった部屋に通された。
そして店舗の幹部らしき男性が出てきて
クジの確認が行われる。
このことはなるべく口外しないように。
借金があるならすべて返済をする。
定期預金に入れることをおすすめします。
などなど説明を受けて高額当選者のための
マニュアルなんてものを貰った。
しかしながら現金では1円も受け取っていないので
まったく話がピンとこない状態ではあるのだが。
銀行で作った口座に毎月定額が振り込まれ
数年にわけて当選金が振り込まれるらしい。
なんにせよ、クジの呪縛からは解き放たれた。
持っていて緊張する必要はすでになくなったのだから。
幸い誰とも会っていなかったので
銀行を出ても狙われる心配もない。
来月末から振込が開始するらしいので
しばらくは貧乏学生のままだ。
親にも言うのはやめておこう。
オレが20歳を過ぎていたので銀行から
親元に連絡が行く事はなかったが
未成年なら親に管理されてしまうこと必至だから(笑)
なので学費も仕送りも今までどおり貰うことにする。
親孝行はもう少しあとでね。
すると携帯電話のバイブ音がなった。
メールらしいな。
そういえば当選してから携帯電話に触れてすらいなかった。
ちょくちょくなっていたけど、ある意味人間不信になっていたので
遠ざけていた。
・・・・うお!!
着信が80件以上も入っているじゃないか!!
10件程度は友人達からのようだ。
そういえば大学もサボって銀行来ていたんだっけな。
残りはすべて
・・・二階堂瑞穂・・・
オレの姉だ。
それにしてもこの件数は異常・・・
って思うだろ。
オレの姉はいつもこんなもんだ。
ちょっと異常なくらい溺愛しているというか・・・。
急にこんな事言われても困るかもしれないけど事実!!
すると再度携帯電話が鳴った。
今度は着信のようだ。
思わず通話ボタンを押してしまった。
「・・・もしもし。」
おそるおそる電話にで出る。
「・・・ひーちゃん?」
か弱い女の声。
「・・・ねーちゃん?」
姉だった。この天然系アニメ声は一瞬でわかる。
「ちょっとひーちゃんなにやってたの!!電話にも出ないで。」
アニメ声ながら耳を突き刺さるボリュームに変わった。
「ちょっと寝込んでたもんで・・・」
テキトーに答える。
「ちょっと大丈夫なの!?具合悪いの??
おねーちゃん心配なんだから電話くらいちゃんと出て!!」
「ごめん、今は大丈夫だから」
「そう。まあちょうどひーちゃんのところ行こうと思ってたのよね。
今、駅前の◯◯銀行のところらへんまで来たから。
大学行っていたら部屋で待っててびっくりさせようと思ってたんだけど(笑)」
「今日は休んでぶらぶらしてんだよ、ねーちゃん。
・・・っていうか駅前?◯◯銀行??へ・・・・???」
だって今ちょうどオレが行ってきた銀行が・・・
「ひーちゃーん!!!!」
すると電話と背後からステレオのような響きで
キンキンのアニメ声が鼓膜を思い切りノックした。
ぐはああああああああっ・・・・・・・!!!!!!
振り返るまもなく背後から何かが覆いかぶさってきた。
倒れ込みそうになるが、昔やっていた野球のおかげか
なんとか踏ん張れた。
しかし思いの外軽い。そしてやさしいフローラルな香りと
やわらかい2つの肉厚。それらを背中に感じる。
姉・瑞穂が思い切り抱きついてきたのだった。
「ねーちゃん!!なんで・・・!?」
びっくりして思わず跳ね返す。
「ちょーっとひどいなあ。ひーちゃんがぜんぜん電話出てくれないから来てあげたんだよ!!」
ぷーっと頬をふくらませ顔を近づけてくる瑞穂。
姉とは思えない幼い顔立ち。背も小さいほうか。
現実に聞くと笑ってしまいそうなほどのアニメ声。
「まさか駅前にいるなんてビックリだよ~。・・・ってなんで全然電話でないの!?」
再度、ほっぺをふくらませる姉アニメっ娘瑞穂。
そして周りに姉と思われたくない姉である。