プロローグ 泡銭に溺れてしまいそうで困ってしまうんだが
自分の存在を大きく主張するかのように
アスファルトへ熱い眼差しを送る御日様がいらっしゃる。
総てのモノが平伏すしかないほどの上空でそいつは踏ん反り返ってる。
とりあえず暑苦しい・・・。
とはいえ、オレの部屋は陽の光がほとんど入ってくることがない。
ただ屋外でそいつが自分の力を誇示しているのが
よくわかるほど蒸している。
ビルとビルの間に挟まれた
自宅アパートは日当たりが悪く
窓を開けても風すら入ってこない閉鎖空間。
それなりの家庭で育ってきた人なら
どうにかなってしまいそうな気さえする。
ある意味では人間の住処と呼ぶのもどうかとさえ思う。
・・・いや。
そこそこに清潔感のあるお部屋なら
そんなこともないのかもしれないが
狭いうえに少々散らかってしまっているのが頂けない。
っとまあ、そんなことは放っておいて
今日も遅い昼飯のカップ麺を思い切り啜る。
あまり裕福ではないが、不幸だとも思わない。
ただ、そこにはオレだけが感じられる充足感があった。
なんとも言えない小さな喜び。
しかし、その日の午後に
オレの人生は一変した。
どうなったかというと・・・
・・・その前に。
申し遅れましたね。
オレの名前は二階堂寿。
どこにでもいるような普通の大学生だ。
現在は大学2年生で20歳の誕生日を迎えたばかり。
適当にアルバイトをして遊んでのくり返し。
今週は土日祝日が重なり大学は休校。
バイトも休みだった。
昨日も大学の仲間と徹夜で麻雀してて眠気がある。
大学へは遊びにいっているようなものだ。
先週は仲間たちとプロのサッカーを観に行った。
どちらかといえば野球の方が好きだけど
サッカーも素人よりは詳しい方だ。
そりあえず、サッカーの観戦を楽しむために
あれやこれやとやってみた。
グッズを買ってみたり、選手名鑑を読み込んだり
サッカー理論を勉強したり。
オレは結構マメな人間だと思う。
理論的に物事を考えて突き詰めて楽しむほうが
漠然と感覚に頼って楽しむよりも好きだから。
そんなオレも運にすがるような楽しみというか夢を見た。
試合を観に行く何日か前にサッカーくじとかいうものを
仲間と買ってみたのだ。
もちろん遊び程度の気持ちだ。
サッカーの試合がある週に販売されるくじであり
ほぼ毎週多くの人が買っているが、当たるのは
数週間に1本とか。キャリーオーバーが発生しているとかで
最高当選金は20億円。
14試合の結果を予想するのだが
コンピューターが勝手に予想した結果を買うので
まず当たらない。1口300円。
まず当たらないと思っていたのだが・・・。
カップラーメンを啜りながらテレビに目をやるオレ。
午後に行われているサッカーの試合が中継されている。
試合が終わると全試合の結果が揃った。
3口買ったくじのうち1口が完全に一致している・・・。
「・・・・当選っ・・・・・・・・!!!!!!」
「20億っ・・・・・・!!!!!!!!!」
「大当たり!!!!!!!!!!!!!」
・・・って思い切り叫ぶものなのかもしれない。
が、まったく実感が湧かない。
そして意味がわからない。
とりあえずほっぺをつねってみる。
マンガとかでよくあるアレだ。
夢かどうかを確かめるアレ。
そして当たり前のように痛い。
加減をしなかったのでヒリヒリと痛む
頬が赤くなる。
紛れも無い現実。
だけどやっぱり飲み込めない。
間違いないのはサッカーくじに当選していること。
20歳の大学生にして早くも20億の大金を掴んでしまったこと。
サラリーマンが一生稼いでも手にすることない大金。
サラリーマン10人分ほどの生涯収入。
それをこのオレ「二階堂寿」は掴んでしまった。
とりあえず明日からは何していきていこうか?
独りきりのアパートで今度こそ思い切り叫び、隣人に怒られ
もう一度少し小さな声で喜びを叫んだ。