プロローグからの1ページ
始まりのプロローグ。の続編です!
リクエストして下さいました皆様!ありとうございます(^^)/
これはどこかの世界の、どこかの時代の
残酷非道な美しい化け物と赤銅の騎士とのお話し。
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私はヴァンシーである。名前はアナトだ。
元ジョシダイセーだったが、この世界の最強種族であるヴァンシーに転生した。
経緯は分からない。
超雑食で、当たり前だが人間じゃない。人間じゃないけれど人間の旦那様(予定)がいる。
旦那様の名前はギース。
奴との出会いは長いから略。
1つ言うなら、私がギースを“欲しい”と思った。
だからギースは生き、私の旦那様となった。
はっきり言えばついこの間まで旦那様の意味も結婚の意味も知らなかった。最近、人間の常識について猛勉強中。
ただし教えるのはギース。
他の人間は私を恐れ近寄りもしない。
この国に来て約ひと月、ギースの屋敷の人間は次々に出ていったし。
(ギースはこの国では結構偉いらしく大きな屋敷に住んでいる。役職については後々勉強する。)
今、この屋敷に居るのはギース曰く古株の執事と侍女、私を見張る為に配属された騎士やら魔術師だけである。
そう、見張られているんだ。
鬱陶しい事この上ない。
屋敷を取り囲む様に50人程の人間達が四六時中ウロウロしている。
まぁ気持ちは分からないでもないが、たった50人の人間如きで私を抑えられると思っているのだろうか。
鬱陶しい。消したい。
と前にギースに溢したら、そんな事しないで欲しいと必死に頼まれた。
ギースの願いなら仕方ない。我慢。
だけど!!これは我慢できない!
私は今人生最大のピンチだ!!
「無理!!!!」
「アナトッ!こら、殺気を出すなっ!」
「無理無理無理!!何故ダンスなんてしなくちゃならないの!」
「だから殺気を…っ!」
屋敷の人間の気配が少なくなった。
多分私の殺気で気絶したんだろう。
でもそんな事気に留めてられない!!
「勉強も頑張ってる!人間も食べてない!なのに何でこんな足が痛くなる靴を履いて馬鹿みたいにクルクル回らなくちゃならない!!」
「城の舞踏会だ!お前の披露も兼ねているんだから断れない!」
知るかぁ!!
転生前ならヒラヒラのドレスを着て舞踏会なんて憧れたかもしれない。
だが今じゃ何の感情もない。
それに何が披露だ!
ひと月前会った、陛下と呼ばれる男。
遠目にも分かるほど青ざめていたが、それだけじゃない。
燻る欲
だから今回の舞踏会だって何か企みがある筈。
「アナト、お前が沢山の事を頑張っている事は知っている。だが今回だけ我慢してくれ。これはお前が危険ではないと言うことを示す為の舞踏会だ。
人間は大きすぎる力を恐れる。
このままでは共に居る事も難しくなってくるんだ。」
…むぅううっ
「…ギースと私の邪魔をする奴は私が消す。」
「消す事は簡単だ。だがそれだけでは俺達は一生認められ無い。正直言えば、まだ結婚だの何だの考えられないが俺は認めて欲しい。
俺とお前を。」
「…………。もう少しだけ…、やる…。」
もう少しだけ頑張ろう。
ギース以外に言われたら殺していただろうに。不思議だ。
「よし、では初めから。」
そう言ってギースは私の腰に手を回した。
綺麗な顎のラインを下から見上げる。
近い、距離。
「…っ!…?」
「どうしたアナト?」
「う…ぁ…、わからな…っ。」
「アナト?」
顔を覗き込んでくる。
「~~っ!ち、近い!!心臓がおかしくなるからもうちょっと離れて!!」
でも完璧に離れては欲しくない!
そう叫ぶ。
あぁ、顔が熱い。
何だ!?病気?いやいやヴァンシーである私が病気なんてんなアホな。
「お、前…。」
…んん?
「ギース、顔が赤いよ?」
「それはお前が…っ。」
ゴホン、とギースが咳払いをする。
「俺が近付くと心臓が可笑しくなるのか?」
「うん。早くなる。」
苦しいけど、どこか懐かしい様な…
そうか。
そうギースが呟いて、この日の練習は終わった。
変なギース。
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んん、いい天気。
ダンスの練習を始めて数日
何とか形になってきた。
今日はギースがお仕事らしいから屋敷の庭を散策中。
この屋敷の庭は凄く広くて色とりどりの花が咲いている。
私にだって花を愛でる気持ち位ある。
前世の私はとても花が好きだった様だから。
「はぁ…。いい加減出てきたらヴォルフ?」
「…。」
庭に続く渡り廊下の柱からヴォルフが出てくる。
さっきから出るか出まいか迷っていた様で焦れったかったんだ。
「で?何の様かな。」
「…国王陛下から御書を預かってきた。」
ふむ、パシりか。
「ギースなら仕事だよ。」
「いや。貴女にだ。」
私に?
手紙を受け取りその場で開く。
「…その顔だと内容を知っているみたいだね。」
「迎えは既に居る。来て頂けるか。」
国王陛下と呼ばれる男からの呼び出し。
なぁにが、来て頂けるかだ。
「ちょっと待ってて。きちんとしたドレスを着てくるから。」
今は布地が紺に袖や襟、裾に白いレースをあしらったシンプルなワンピースだ。
城に行くにはきちんとした服装がいいだろう。(そう考えた私凄い!勉強の成果だ。)
「別にそのままでも良い。」
水差すな。
「ギースに恥はかかせない。」
私は妻になるんだもん。
軽く目を見張るヴォルフ。
む、失礼な。
「貴女は本当に変わったヴァンシーだな。残虐ではあるが、まるで人間の様にな一面がある。」
元人間だからね。なんては言わない。
「だが正直、貴女とギースが結婚する事は賛成していない。
私だけではない。国中が反対するだろう。
…我々に取ってヴァンシーは恐れの対象なのだ。」
「だろうね。」そんな事知っているよ。
それでも。
「それでも、私はギースと共に居る。契約だから。離れる事なんて、許されない。」
本当は契約なんて口約束みたいなものだけど。
今の私にはヴォルフになんて返せば良いか分からなかった。
+++
ヴォルフに連れられて城に入る。
と言うか、囲みすぎだろ。
向こう側が見えない位、騎士やら魔術師に包囲されている。
「信用なさすぎでしょ。ちょっとどうなのさ、殿下。」
「仕方ない事だ。もう少し我慢してくれ。」
隣を歩くヴォルフが苦笑する。
キラキラは苦笑してもキラキラだな。振り撒くな。
やがて一際大きな扉の前に着き、開けて中へと促される。
レッドカーペット。
ジョユウみたい。なんちって。
だが上段で大きな椅子に座る男へと続く絨毯の両脇にズラッと筋肉ムキッちょの騎士達が並ばれると宜しくない。
むさい。
随分離れた所から通る声で男が口を開く。
「良く来てくれた。国での生活は慣れただろうか?何か困った事があるのなら言ってくれ。」
「世間話はいいよ、本題に入ってヘイカさん。」
私の口振りに周りが殺気立つ。
男の隣に立つヴォルフも顔が引きつっている。
へーんだ。
だって敬ってないもんね。
「そうか。……なら率直に言おう。
貴女に我が軍に入って貰いたいのだ。」
「やだ。」
キッパリ。秒殺。
「…言い方を訂正しよう。我が軍に入れ。」
「はっ、最初からそう言えばいいのに。」
良い度胸だ。
最初に会ったとき感じだ男の感情。
私への恐怖
力への畏怖
目的の疑惑
ギースへの羨望
そして。
駒を見つけた、欲望。
ヴォルフから報告を受けていたのだろう。
ヴァンシー2匹を簡単に殺した私の力と、ギースと私の契約(と言う名の口約束)を。
そして恐怖と共に歓喜した。
最強の力をこの国の、自分のモノに出来るかもしれない事に。
人間の尽きる事無い欲望は知っている。
奥深くに眠る記憶の中にある。
「断る。この力を人間の為に使う気は無い。」
「ここは私の国だ。いくらヴァンシーとあれど、この国の男と結ばれ民となるならば私に従って貰う。」
「私の居場所は“国”じゃないよ。一人の人間の隣だけだ。」
「その人間は私に従っている。」
「だから?そんな事私には関係無いって分かるでしょ。」
しつこいセールスマンとのやり取りみたいだ。馬鹿らしい。
「ギース・レンツァルトは…。」
ぴくッ。
「国軍の最高責任者であり、魔術師としても長けた男。
我が国としても失いたくは無い人材だ。」
「…ふぅん?脅し?」
「奴の立場を悪くするのも良くするのも貴女次第と言うことだ、黒のヴァンシーよ。」
ふ、
ホントに
良い度胸だ。
「…………ッッ!!!」
「陛下ッ!!?」
「ヴァンシーッッ!!!」
「動くな。」
動いても良いけど首無くなるよ?
一瞬で移動しニコリと笑えば剣に手を伸ばした姿勢で固まる騎士達。
隣のヴォルフも剣を抜く体勢だ。
「ねぇ、お前は勘違いをしているよ。」
鋭利に伸びた私の黒い爪が男の首に食い込む。
さっきまでペラペラと動いていた口は一文字に閉じ
ごくり、と男の喉仏が大きく上下した。
ゆっくり
まるで子供に話し掛けるように言葉を吐く。
「私の力は、私の為にあるんだよ。
私にとってギースが消される事は脅威では無い。
お前達に手を掛けられる前に私がこの手で殺すんだから。
でもね、覚えておいた方がいい。
ギースに手を出すときはお前が、民が、この国が、
…消える時だ。」
国の頂点に立つ人間の血肉は、どんな味がするんだろうね?
私はただ奪うだけ。
だって、“ヴァンシー”《悪魔》だもの。
さぁ、
「取引の時間だよ。」
「軍には入らない。ギースと私に介入しない。屋敷の見張りも鬱陶しいから撤去させて。
その代わり、お前達人間が恐れているヴァンシーを、私が狩ってあげる。」
ザワッ
周りが五月蝿くなる。
「あの森にはどれだけの資源がある?そしてその資源をほんの少し手にする為だけにどれほどの人員を割く?どれほどの人間がヴァンシーに殺される?
なら、私があの森からヴァンシーを消してアゲル。」
「そ、そんな事が…、」
「出来ないとでも思ってる?」
「……。」
男が“王”の顔へと変わる。まぁ相変わらず色は青いけど。
「だが…「あぁ、ごめんね。1つ言い忘れてた。
私が軍に入る可能性は0%だよ。
そして断っても良いけれど、その時は…」
お前の首は胴体とサヨナラだ。
「脅しか?」
「ふふ、人を呪わば穴二つだよ。」
アレ、違うか?
「…父上。彼女の取引を飲むべきです。」
お?
「彼女の力は軍では到底押さえつけられない。ギースと言う札も意味を成さない。
私達に与えられた選択肢は、ここで終わるか、彼女の条件を飲むかです。」
それじゃあまるで私がボウクンみたいじゃないか。
でも
「良いこと言うねー、ヴォルフ。」
「……………分かった。条件を飲もう。だが貴女が約束を守ると言う確証は?」
私だってヴァンシーを本当に殲滅出来るか解らない。
死ぬかもだし。
言わないけど。
「約束は破らないよ。」
「…裏切らないと誓えるか?」
ウザッ!
「裏切るも何も仲間じゃ無いしね。
まぁそんなに不安ならユビキリしよう。」
男の小指と私の小指を絡ませる。
体が強張ったがムシ!
「ユービキーリゲンマン嘘ついたらお前の目玉をほじくるぞー。
っとね。」
…何か混ざった?
「これで約束は破れないよ。」
「何かの呪か。」
「呪…んー、まぁそんな所。」
面倒だからそれでいいや。
やっと男は納得したらしい。
「あ、ヴァンシー狩りは私一人で行くね。人間が来ても邪魔だからさ。
殺したヴァンシーの首をヘイカさんの所に持ってきてあげるね。」
(あくまで)取り引き終了ー。
「見張りは今日の夕方までに撤退させてよ。もし残ってたら私の晩御飯になるから。
あと隠密や魔法での監視もダメ。すぐ気付いちゃうからね。その時は国が無くなるから。」
さてと、用事は終わったし。
あ、ここは城だしギース居るかな。
「ヴォルフー、城にギース居る?」
「ああ。鍛練場に居る筈だ。」
「タンレンジョ?連れてって。」
「…分かった。」
む、ため息つきやがったチクショ。
「それでは国王陛下、皆様、私はこれで失礼致します。」
淑女の礼。
ふ、キマッタ!
部屋を後にする。
「化け物…。」
賢王と呼ばれる男の呟きは広い謁見の間に吸い込まれた。
ヴォルフとタンレンジョに向かう。
んー、眉間に皺があってもイケメンはイケメンなんだなぁ。
「貴女は…。」
ん?
「貴女は…ギースを…その…。」
「…なぁに?ハッキリ言いなよ。」
「ギースを、好いている…のだよな?」
「…は?」
「ギースを好きで契約してまで此処に来たのだろう?」
「………。」
「ヴァンシーが人間に惚れたなど聞いたことは無いが、貴女は…。」
「…ねぇ。スキって、何?」
「…え。」
「スキってどんな気持ち?食欲に似てる?それとも恐怖?驚き?
何が、“スキ”なの?」
「…。」
「スキって、必要な事?
…分からないよ、…解らない。」
人間の感情は難しい。
何が必要で、何が必要じゃないの。
私の欲しい。って気持ちは、スキとは違うのかな。
こう言う気持ちを憶えていたのなら、こんな考え無くて良かったのに。
「…それ、は…「あぁああ!!!ギースゥウウゥッッ!!」…。」
ギースだギースだ!!
少し先の広場で誰かと剣を交えている。
…剣!?
目の前が、真っ白に、ナル
「ちょ…っ!」
ヴォルフが止める間もなく、ギースと剣を向けていた奴との間に入る。
「!!!?」
「アナ…ッ!?」
テキ
コロス
「…っ、止めろ!!アナトッ!!!」
ピタァアッッ
「…アナト、ソイツは敵じゃない。爪を戻せ。」
ギースの声に反応した体は、獲物の心臓を狙い爪で貫こうとした体勢で止まった。
「…敵、チガウ?」
「ああ。落ち着け。俺が今コイツを鍛えていたんだ。」
…敵ではない。
ギースを傷つけない。
ス…、
と爪を下げる。
途端に相手の男は崩れ落ちた。腰を抜かしたみたいだ。
「アナト、何故此処に居る?」
「ヴォルフとお茶してた。もう帰るからギースと帰る。」
ギースに向き直りギュウウッ、と抱きつく。
顔を胸にグリグリ擦り付ける。
「ヴォルフと…?…そうか。もう良い時間だからな。俺も帰ろう。……………アナト?」
「…。」
グリグリ。
「アナト。」
「…。」
グリグリ。
ポン、
ポン。
ギースの大きな手が背中を宥めるかの様にリズム良く優しく叩く。
「アナト。大丈夫だ。傷付いてはいない。アレは殺し合いではない。」
ギースは傷付いていない。
アレは殺し合いじゃない。
ポン、
ポン。
やっとギースから離れる。
手は服を掴んだまま。
「帰る。」
「ああ、帰ろう。」
吃驚した。
そうだ、私はギースに剣が向いていて吃驚したんだ。
恋人は手を繋ぐものだからギースと手を繋いでタンレンジョを後にする。
私達の後ろ姿を見詰め、ヴォルフが目を見開いている事は知らなかった。
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華やかな人間達
きらびやかな空間
大きなホールに
光輝くシャンデリア
美しい音楽
色とりどりのドレス
噎せ返る香水の匂い
「ギース。」
「ヴォルフ。」
黒く上質な燕尾服に身を包み、少し光沢のあるホワイトタイを締め、そこに瞳と同色の青い宝石を飾り
美しい金髪は艶美さを醸し出すかの様にあえてある程度崩してセットされている。
老若男女を魅力する一国の王子はある意味今夜の主役である男に声を掛けた。
「今日位は燕尾服でも来てくると思ったんだけどな。」
「そんなもの着るわけないだろう。」
対するギースは濃紺の服に、詰められた襟、袖や裾に金の縁取りが上品にされた軍服を着ていた。
黒い編み上げのブーツに白い手袋を嵌め
鍛えられた体を包む軍服の胸にには、勲章である飾りやバッチが幾つもある。
赤銅の髪をオールバックにし、少しだけ垂らされた前髪が鋭い瞳と相まって何とも言えない色気を出している。
「…彼女は?」
「軍の仕事があったから別々だ。」
「皮肉だな、妻になる者を警戒した警備に軍の者を動かさなければならない夫とはね。」
「本来なら俺がエスコートをしなければならないのが常識だがな。
屋敷へ一旦戻ろうとしたら使いが来て、絶対戻るなとのアナトの伝言を持って来た。」
「(皮肉は無視か)平気なのか?」
「大丈夫だろう。今日は人を絶対傷付けないと朝約束した。」
「そんな約束なんか…。」
「アナトは約束は破らない。」
「(言い切るんだな。)…。」
チラチラと着飾った女性達が頬を染めながらヴォルフとギースを見ている。
好奇心や羨望を向ける奴等もいる。
それらに気付かない振りをして会話を続ける二人。
「しかし、よく此れだけの人が集まったよね。いくら私達が命を救われたからと言ってもあのヴァンシーのお披露目なのに。」
女性も多いな。
ヴォルフが呟く。
「王城からの招待状だ。そう簡単には断れまい。それに、貴族と言うものは好奇心が馬鹿みたく強いからな。
女達はお前のお眼鏡に敵いたい者達だろ。」
無表情で言い放つギースにヴォルフは苦笑する。
どうもこの友人は人間に対して冷ややかな所がある。
「そうだね。これだけの警備もいるし、好奇心と打算には勝てなかったんだろうね。」
此方を窺う女達に微笑む。
照れた様に扇で顔を隠すが、欲望が燻る瞳だけは此方へ向けたままだ。
それを見ながらヴォルフはこの場に居ないアナトを想った。
何処までも、いっそ清々しい程にまで自らの欲望に忠実である化け物を。
「彼女の方が、いっそ害は無いかもね。」
そうヴォルフが言う。
ギースが彼にチラリと目をやった時
ドアマンがやって来た招待客の来場を告げ、扉を開けた。
「ギース・レンツァルト様の御婚約者、アナト様ご到着です。」
会場に来た人達は皆その様に入ってくるが、この時一気に会場は静まり返った。
コツ、
コツ、
コツ
いつの間にか演奏も止まっている。
誰一人、その場を動く事無く。また声を出す事も無かった。
ギースでさえ。
白く光沢のあるマーメイドドレスの広がった裾は薔薇のレースによって飾られ、
歩く度にヒラヒラと舞い動きに合わせてその表情を変える。
胸元から首まで詰められたレースは薔薇の模様で、形の良い鎖骨がうっすらと透けている。
隠された胸元から首とは異なり、肩や肩甲骨から腰の際どい部分までが白い肌が露出し、
その細い腕はレースの長手袋に包まれている。
黒く長い髪はアップにされ、送毛を白く滑らかな肩甲骨まで垂らし
耳元には赤い薔薇が飾られている。
丸みある頬は薄桃色に染まり、瑞々しい唇は赤い口紅に色づかれ
伏し目がちの瞳を縁取る睫毛は頬に影を落とすほど長い。
この1つの空間は、今
ヴァンシー云々、好奇心云々を抜きに扉から入ってきた美しい生き物に魅せられていた。
「…ギース。」
黒く、紅い瞳孔のある瞳が赤銅の男を捉える。
「…アナト…。」
鋭い赤銅の瞳は目の前までやって来た美しい黒のヴァンシーを捉える。
自分達の仕事を思い出した演奏者達により再び音楽が流れ出す。
「あー、…何か、飲むか?」
「いらない。」
「国王陛下に挨拶に…。」
「行かない。」
「折角だ、他の人間と話して…」
「みない。」
「……。」
「……。」
周りは固唾を飲んで二人を見ている。
「ギース…、」
「な、んだ。」
ふるり、
とアナトの瞳が揺れる。
「私、変じゃない?ギースの奥さんでも、恥ずかしくない?」
「…っ!……………あぁ。………綺麗だ。」
何とかそれだけを返す。
「…良かった…。」
ふわり、と今まで見たことが無い様なアナトの笑み。
誰もが見惚れた。
不安だったのだろうか?
自分の恥にならないか。
残酷に歪める事もできる瞳を、不安げに儚く揺らしながら。
その長い睫毛を振るわせる程に。
「アナト。」
「はい。」
「私と、一曲踊って頂けますか?」
左手を胸に当て、右手を差し出す。
一瞬キョトンとしたアナトは直ぐにその手に自分の手を乗せ微笑んだ。
「はい。」
「茨の道だろうけどね。…………本人達が幸せそうなら…今日はそれで良いか。」
ホールの中央で見つめ合いながら踊る二人を見て呟かれたヴォルフの言葉は
誰にも聞かれる事なく音楽に掻き消された。
これはどこかの世界の、どこかの時代の
残酷非道な美しい化け物と、赤銅の騎士との恋物語の
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いかがでしたでしょうか(´ω`)
前回はあまり考えて書いてなかった為、続編に繋げるのが難しかったです…汗
アナトちゃん、言ってることと行動、矛盾してます←
ギースが死ぬのが脅威じゃないなんて!もうっ!素直じゃないんだから!!
いやいや、自分の気持ちに気付いていないのデス。
ちなみにギースは私の中では十分に非道な人間設定です。
アナトに対しては違うけどね!ヘタレになってきちゃったヨ!
また出来れば続編を…なんて笑
読んで下さってありがとうございました!