第9話:異国の驚愕と、小さなヒーローの設計図
エデル王国の初陣の戦利品を携え、アルクは再び大国カスティアへ。
冒険者ギルドに持ち込まれた「大蛇の皮」の圧倒的なクオリティに、カスティアの猛者たちは戦慄する。
新興勢力の「武力」を証明したアルクだったが、そこで思わぬ事件に遭遇した。
白昼堂々、攫われる子供。
カイルの制止を振り切り、アルクは路地裏へと疾走する!
「名乗るほどのことじゃないよ」
子供を救い、颯爽と去るアルク。だがその英雄的行動は、王都の人々の間で「聖人アルク」の噂となって広がってしまう。
王国に帰還したアルクが、その経験から直ちに建設したのは、異世界初の治安維持拠点——『交番(KOBAN)』!
「誰一人、怖い思いをさせない」
家を、城を、そして「人々の安心」をリフォームする。
アルクの建国記は、優しさを形に変えてさらに加速する!
エデル王国の初陣から数日。戦場となった城壁の外は、アルクの指示ですでに完璧な清掃と「素材回収」が完了していた。
アルクは中央本部の倉庫に山積みになった戦利品を眺め、カイルに声をかけた。
「カイル、これを持ってカスティアへ行こう。貿易の第ニ段階……『軍事資源』の輸出だよ。ついでに薬草や、あの果実から精製した保存食もね。この国の通貨だけじゃなく、あっちのお金も持っておかないと、今後困るから」
カイルはガラムが仕留めたあの大蛇の皮を広げ、溜息をついた。
「……こんなものを持って行ったら、あいつら腰を抜かすぜ、アルク」
二人は再び白馬を駆り、カスティア王国の王都にある「冒険者ギルド」の門を叩いた。
そこは大陸中の腕利きが集まり、魔物の素材が取引される場所だ。
「おい、見ろよ。あんな綺麗な白馬に乗った子供と若造が、何を売りに来たんだ?」
荒くれ者たちの視線の中、アルクは受付のカウンターに「大蛇の皮」の一部を軽く置いた。
「これ、買い取ってもらえますか?」
受付の職員は、鼻で笑いながらその皮を手に取った。……が、次の瞬間、その目が皿のように見開かれた。
「……な、なななっ!? なんだこの品質は!? マウンテン・ボアの大蛇だと!? しかも……」
職員は震える手でルーペを取り出し、皮の表面を舐めるように見た。
「……傷が、全くない。通常、このクラスの魔物を倒すには大部隊で何度も斬りかかるから、皮はボロボロになるはずだ。なのにこれは……まさか、一撃で仕留めたのか!?」
ざわ……! とギルド内が静まり返った。
アルクは淡々と答えた。
「はい。一閃でしたから。あと、他にも角や牙、毒袋も大量にあります。荷車十台分くらいは外にあるので、査定お願いします」
「じゅ、十台分だと!? 仰天だ……! こいつら、一体何者なんだ……」
アルクたちの「武力」という名の新興勢力の証明は、瞬く間にギルド中に広まった。
膨大な量の金貨を受け取り、アルクは満足げにギルドを後にした。
(よし、これで他国の通貨も確保した。早く王国に帰って、次の建築に取り掛かろう)
そう思って路地を歩いていた時だ。
「キャーッ! 誰か、誰か助けて!」
悲鳴が響いた。
アルクの目の前で、黒い布を被った男たちが、小学生くらいの年齢の少年を強引に抱え上げ、馬車に押し込もうとしていた。
「っ!」
アルクの足は、思考よりも先に動いていた。
「待て、アルク! 余計なトラブルに首を突っ込むな!」
カイルが制止するが、アルクは止まらなかった。前世で「誰からも必要とされない孤独」を味わった彼にとって、助けを求める子供の叫びを無視することなど、物理法則を無視するよりもあり得ないことだった。
「ポィンッ!」
アルクは走りながら、自分の靴の裏に「高摩擦ブロック」を生成した。
爆発的な加速。アルクは入り組んだ路地裏へと逃げ込んだ男たちを、迷路を上から俯瞰しているかのような「都市構造の把握能力」で先回りした。
行き止まりの路地裏。
「……そこまでだよ」
アルクが冷たく言い放つ。男たちは縄で縛られ、地面に転がされていた少年の側で立ちすくんだ。
「ガキが、舐めるなよ!」
男がナイフを抜いて突っ込んでくる。だが、アルクは指をパチンと鳴らした。
「生成——瞬間粘着ブロック」
男の足元に、触れた瞬間に絶対に離れない魔法の接着剤が広がる。
「ぐわっ!? 動けねぇ!」
アルクは落ち着いて少年の元へ歩み寄り、指先で「ポシュッ」と極小の刃を生成して縄を切り裂いた。
「大丈夫? 怖い思いをさせたね」
少年は震えながらアルクを見上げた。
「あ、ありがとう……。君、名前は……?」
「名乗るほどのことじゃないよ。……ほら、お父さんたちのところへ帰りな」
アルクは少年の背中を優しく押し、騒ぎを聞きつけた衛兵たちが来る前に、カイルを連れてその場を立ち去った。
だが、その一部始終を見ていた野次馬たちがいた。
「見たか? あの白い馬の少年だ。大蛇を一撃で倒す武力を持ちながら、名も名乗らず子供を助けるなんて……」
アルクが望まぬところで、「エデルの主は、強くて慈悲深い聖人である」という噂がカスティア中に爆発的に広がってしまった。
王国に帰還したアルクは、馬車の中でずっと考えていた。
「カイル。……カスティアみたいな大国でも、白昼堂々子供が攫われる。僕たちの王国はまだ平和だけど、人が増えればいつか同じことが起きるかもしれない」
「そうだな。ガラムの騎士団は『軍隊』だ。街の中の細かいトラブルまで全部見るのは難しい」
王国に着くなり、アルクは建設班を招集した。
「今日の事件を踏まえて、新しい施設を作る。……『交番(KOBAN)』だ」
「コウバン? なんですかそれは」
「困った時にすぐ駆け込めて、悪いことが起きないように見守る場所だよ。人員は、騎士団の中でも特に信頼できる人たちに任せる」
アルクはすぐに設計図を描き上げ、建築を開始した。
第一・第二交番: 王国の中でも特に人が密集する「商業区」と「中央広場」に設置。
第三交番: 人通りが少ないが、子供たちが遊び場にする「公園予定地」の近くに設置。
建物はあえて威圧感を抑えた、親しみやすいレンガ造りの小さなオフィスだ。だが、その中にはアルクが作った「緊急通報用のベル」が備え付けられ、中央本部の騎士団詰所と直通している。
「さらに、今日から『パトロール制度』も導入する。ガラムさん、騎士団の非番のメンバーに、白い馬で街をゆっくり回ってもらって。戦うためじゃなく、みんなに挨拶して回るのが仕事だよ」
ガラムは深く頷いた。
「なるほどな。常に誰かが見守ってくれてるっていう安心感か。……アルク、お前は本当に、家を建てるだけじゃなく『安心』まで設計するんだな」
アルクは中央本部のバルコニーから、新しく完成した交番を見下ろした。
そこには、さっそく配置された騎士と、物珍しそうに集まってくる子供たちの笑顔があった。
「……よし。これで、どんな子も寂しい思いや怖い思いをしなくて済む」
カスティアで広まった「聖人アルク」の噂などどこ吹く風。
少年建築家は、自分の大切な王国の中に、また一つ「理想の平和」をリフォームすることに成功したのだった。




