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第8話「夜空を裂く爆音。それは、王国の産声だった」

静まり返ったエデル王国を襲ったのは、数千の魔物の軍勢!

巨大な蛇、疾走するワニトカゲ、そして腐敗したゾンビの波。

だが、アルクはこの瞬間を待っていた。

「みんな、足元の引き出しを開けて。そこに僕の『道具』がある」

城壁の上から放たれたのは、現代の化学知識を詰め込んだ「爆弾の矢」と、エルフの知恵を借りた「毒と激辛の矢」!

一方、窮地に陥ったガラムたち騎士団を救ったのは、伏線となっていた「あの果実」だった。

一口噛み締めれば、疲れは消え、力は漲り、銀の刃が夜を切り裂く!

初陣を勝利で飾り、絆を深めたエデル王国。

大蛇の肉を囲む宴の裏で、アルクはさらなる「防衛リフォーム」の筆を走らせる——。



 エデル王国の夜は、完成したばかりの街灯(魔石灯)が石造りの街並みを淡く照らす、穏やかな時間だった。

 アルクは中央本部の自室で、明日の「学校建設」の図面を引いていた。地下水路のせせらぎが心地よく響き、王国は深い眠りにつこうとしていた。

 だがその静寂は、城壁の上から響いた血の凍るような叫びによって打ち破られた。

「魔物だ! 魔物の大群が、森から溢れ出してきたぞー!!」

 アルクはペンを投げ捨て、窓を開けた。

 溶岩堀の赤い光に照らされて見えたのは、地獄のような光景だった。数キロメートルに及ぶ巨大な大蛇が大地をのたうち回り、その周囲を、ワニとトカゲを掛け合わせたような異形の魔獣が猛スピードで駆け抜けている。さらに驚くべきことに、その魔獣の背には腐臭を放つゾンビの軍勢が跨り、錆びた剣を振りかざしていた。

「……来たか。想定より少し早いけど、テスト(実戦)には丁度いい」

 アルクは階段を駆け下り、ギルドの広場へと飛び出した。そこには、すでにガラム率いる「エデル騎士団」が白馬に跨り、銀色の鎧を月光に光らせて待機していた。

「ガラムさん、頼んだよ!」

「おうよ! アルク、この『白い軍団』の初陣、特等席で見てろよ? 野郎ども、突撃だーっ!」

 ギルドから王国のメインストリートを、百騎を超える白馬の集団が雷鳴のような足音を立てて駆け抜けていく。正面の巨大な鉄の跳ね橋が轟音と共に下ろされ、騎士団が溶岩の堀を越えて戦場へと躍り出た。彼らが通り抜けた瞬間、跳ね橋は再び引き上げられ、王国は「完全閉鎖」の状態に入った。

 アルクは残された人員……建築班や農耕班の男たちを鼓舞し、城壁の上へと急がせた。

「みんな、怖がらないで! 城壁の上に上がって!」

 壁の上に到着した男たちは、眼下に迫る数千の魔物に腰を抜かしそうになっていた。

「アルク様、無理ですよ! 俺たちは職人で、兵士じゃない!」

「大丈夫、僕が『道具』を用意してある。……生成——防衛用コンポジットボウ!」

 アルクが城壁の床に手を触れると、複雑な滑車がついた近代的な弓が次々と出現した。

「みんな、各自の足元を見て。そこにある引き出しを開けてみて!」

 言われるままに男たちが足元の収納を開けると、そこには見たこともない奇妙な矢がぎっしりと詰まっていた。

「なんだこれ、先端に黒い玉がついてるぞ?」

「こっちは緑だ。こっちは赤い粉が塗ってある。アルク様、これで倒せるんですか?」

 アルクは眼鏡を光らせ(前世の癖だ)、大声で指示を出した。

「いいから構えて! 僕が合図するまで、絶対に放さないで! 目標は……あのワニトカゲの密集地帯だ!」

 魔物の軍勢が溶岩の堀に差し掛かり、先頭の魔獣が熱さに怯んだ瞬間、アルクの右手が振り下ろされた。

「今だ、放てーーっ!!」

 ヒュヒュヒュヒュンッ!

 一斉に解き放たれた矢が、夜空に放物線を描く。

 次の瞬間、地響きと共に凄まじい爆発音が轟いた。

 ドォォォォーーンッ!!

 黒い球体の正体は、アルクが鉱山で採取した硫黄と硝石を魔法で精製した「高密度爆薬」だった。着弾と同時にワニトカゲが木っ端微塵に吹き飛び、ゾンビたちが空中に舞う。

「お、おおぉぉ!! すげぇ威力だ!!」

 さらに、爆発を免れた魔物たちにも異変が起きた。

 緑色の矢を受けた魔獣は、泡を吹いてその場に倒れ伏した。セラフィナに教わった毒草を濃縮し、血管に直接打ち込む「即死毒の矢」だ。

 そして赤い矢が着弾したエリアでは、魔物たちが絶叫しながら自分の顔を掻きむしり始めた。

「ギャアアァァ!?」

 それは、世界一辛いと言われる香辛料をさらにアルクが「再調合」して激痛を伴うほどに強化した粉末の矢。触れただけで粘膜が赤く腫れ上がり、呼吸すら困難になる地獄の粉だ。

 尻尾から炎を吹き出しながら、パニック状態で森へ逃げ帰る魔物たちを見て、城壁の上には歓喜の声が上がった。

 一方その頃、門の外で戦っていたガラムたちは、予想外の苦戦を強いられていた。

「クソッ……! 数が多すぎる。それに、ここ連日の重労働で、腕が上がらねぇ……!」

 騎士たちの動きに精彩を欠いていた。城壁作り、家造り、そして深夜の訓練。彼らの肉体は限界を迎えていたのだ。白馬たちは健気に戦っているが、乗り手の弓の命中率が目に見えて落ちていた。

「ハァ……ハァ……ここまでか……」

 ガラムが巨大な大蛇の尾に弾き飛ばされそうになったその時、彼は自分の腰にあるポーチの感触を思い出した。

「……そうだ! あの実だ!!」

 ガラムはポーチをひったくり、中に入っていたルビーのような赤い果実を口に放り込んだ。

「みんな! 受け取れ! これを食べろ、アルクが作った『あの実』だ!!」

 ガラムが馬を走らせながら、仲間たちに次々と果実を投げ渡す。騎士たちは必死の思いでそれを受け取り、一斉に噛み砕いた。

 その瞬間、彼らの全身を黄金の衝撃が突き抜けた。

「……な、なんだこれ!? 疲れが……一瞬で消えたぞ!?」

「力が……力が湧いてくる! まるで全身の血管に熱い鉄が流れてるみたいだ!」

 そう、エルフの聖なる種と、アルクの栄養ブロックから生まれたあの果実には、一時的に魔力と身体能力を数倍に引き上げる強烈な「覚醒効果」があったのだ。

「おりゃあああーーーっ!!」

 ガラムが咆哮し、アルクが作った「高密度炭素剣」を一閃した。

 ズバァァァンッ!!

 それまで傷一つ負わせられなかった大蛇の巨体が、バターのように真っ二つに両断された。

 覚醒した「白い騎士団」は、もはや止まらなかった。銀色の鎧が戦場を疾走し、魔物の軍勢を蹂躙していく。

 夜明け前。

 あれほどいた数千の魔物は、死体か、森の奥へと逃げ去った者だけになっていた。

 朝日が昇る中、ガラムたちは戦利品として、巨大な蛇の死体を数人がかりで引きずりながら、誇らしげに城門へと戻ってきた。

 城壁の上では、弓を置いた男たちが万歳三唱で彼らを迎えた。

「無事でよかった、みんな」

 アルクが城門で出迎えると、ガラムは馬から飛び降り、アルクの肩をがっしりと抱き寄せた。

「アルク、最高だぜ! あの矢も、この鎧も、そして何よりあの『実』……! お前がいなけりゃ、今頃俺たちはワニの餌だった!」

「そうですよアルク様! あなたは俺たちの命の恩人、いや、この国の本当の神様だ!」

 村人たちが口々にアルクを称える中、アルクは少し照れくさそうに笑った。

「僕はただ、みんなが安心して暮らせるように設計しただけだよ。……さあ、戦いは終わった! 今日は特別に、ガラムたちが獲ってきた大蛇の肉と、オークの肉で盛大な宴をやろう!」

 その日の夜。

 エデル王国の広場では、魔物の肉を焼く香ばしい匂いと、勝利を祝う歌声がいつまでも響いていた。

 

 初めての試練を乗り越え、エデル王国はより強く、より深い絆で結ばれた。

 

 

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