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第7話:蛇口をひねれば水、組織を束ねれば国

エデル王国は、ついに異世界の常識を置き去りにした「超近代化」のステージへと突入する。

アルクが張り巡らせた地下パイプライン、上水道による清潔な水、そして汚水を資源へと変換する魔法の循環システム。

「水汲み」という労働から解放された人々は、初めて「風呂」という名の至福を知る!

さらに、アルクは国家を支える「組織」を抜本的に再編。

「ガラム、君は『エデル騎士団』の長だ。白馬を駆る銀の軍団を創ってくれ」

「カイル、君たちは『貿易外交班』。この国の富を最大化するんだ」

アルクを頂点とした完璧な組織図と、そびえ立つ中央本部。

だが、その繁栄の光は、暗闇に潜む災厄を呼び寄せる。

森の奥で蠢く数千の魔物の軍勢。アルクの作った「難攻不落」の真価が、今まさに試されようとしていた!


 大国カスティアとの貿易が正式に決まり、エデル王国はもはや単なる「村」であることを止めた。

 アルクが次に着手したのは、生活の質を根底から覆す「水」の革命——すなわち、完全なる上下水道システムの実装である。

「……よし、勾配こうばいは完璧だ。一メートルにつき一センチの傾斜。これで動力なしでも水は流れる」

 アルクは深夜の地下作業場で、前世の土木工学の知識を総動員して設計図を書き上げていた。

 これまでの村では、どれほど家が綺麗になろうとも、水を使うには広場の井戸まで行かねばならなかった。重い桶を運び、冬の寒さに凍えながら洗濯をする。その「労働」こそが、人間の文化的な生活を阻害しているとアルクは考えていた。

生成ジェネレート——防食被覆・ダクタイル鉄管」

 ポィンッ、ポィンッ、ポィンッ!

 地下作業場に、内面を特殊な魔力樹脂でコーティングした鉄のパイプが次々と積み上がる。アルクはこれを、あらかじめ道路の下に掘らせておいた「地下共同溝」へと次々に嵌め込んでいった。

 ただの穴に埋めるのではない。将来のメンテナンスを考え、人が入れるほどの広さを持つコンクリートブロック製のトンネルを地下に張り巡らせ、そこに給水管と排水管を整然と配置していく。

 翌朝、村人たちは自分たちの家の壁から突き出た「謎の金属の管」を見て首を傾げた。

「アルク様、この棒は何です? これじゃ壁が傷つくじゃないですか」

「いいから見てて。……ここをこうして、この『蛇口』を取り付けるんだ」

 アルクが銀色に輝くハンドルを回した瞬間だった。

 シャーッ! という軽快な音と共に、透明な水が勢いよく飛び出した。

「な……なななっ!? 壁から水が出たぞ! 魔法か!? 魔法なのか!?」

「ううん、ただの物理だよ。地下水路から高い場所にある貯水塔へ水を汲み上げて、その落差の圧力で家まで運んでいるだけ」

 アルクの「水回りリフォーム」はこれに留まらなかった。

 家の中には、陶器のような滑らかな手触りの「水洗トイレ」を設置。レバーを引けば汚物が一瞬で流れ去るその光景に、村人たちは腰を抜かした。

「これまで、あの臭い肥溜めに行ってたのは何だったんだ……!」

 さらに、アルクが最もこだわったのが「風呂バスルーム」だった。

「エルフから提供してもらった熱魔石を組み込んだ『瞬間湯沸かし器』。これで二十四時間、いつでも熱いお湯に浸かれるよ」

 夕暮れ時、王国中の家々から「うわぁぁ!」「最高だぁ!」という歓喜の叫びが漏れ聞こえてきた。

 だが、流した水がどこへ行くのか。アルクの真骨頂は「排水」にこそあった。

 全ての汚水は地下の太い排水管を通じ、村の外れ、城壁の外側にある「巨大地下発酵槽」へと導かれる。そこで汚物は沈殿し、アルクが設計した魔法触媒によって高速で堆肥化されるのだ。

「無駄なものは何一つない。生活の汚れを、次の収穫の糧に変える。これこそが持続可能な『循環型都市』の美しさだね」

 アルクは一人、地下で堆肥化されていく『栄養ブロック』の試作を眺めながら、満足げに呟いた。うん臭い。

 生活インフラが整ったところで、アルクは次なる段階……すなわち「国家組織」の構築に乗り出した。

 一人の少年が全てを指図するには、この国はもはや大きくなりすぎていた。

 アルクは王国の北側、カスティアから運ばせてきた高級な建材を惜しみなく使い、鉄と石を組み合わせた巨大な多目的官庁「エデル中央本部(通称:ギルド)」を建設した。

 その最上階、会議室に村の重要人物たちが集められた。

「今日から、エデルは組織として動くよ。……まずはガラムさん」

 アルクが指名すると、ガラムは反射的に背筋を伸ばした。

「ガラムさんをリーダーとして『エデル騎士団』を結成する。これまでの狩猟班を統合し、武装を強化して、村の防衛と治安維持を一手に担ってもらう。……ガラムさん、何か理想はある?」

 ガラムは窓の外、広大な訓練場で走る白馬たちを見つめた。

「……ああ。エルフたちが連れてきてくれたあの白馬、こいつらの脚力と賢さは異次元だ。俺の夢は、この騎士団を『白い軍団』として大陸中に轟かせることだ。白馬に跨り、アルクの作った最強の武器を振るう。……頼もしいだろ?」

「最高だね。騎士団には、僕の作った最新の『鋼鉄全身鎧フルプレート』を支給する。白い馬に、銀色の鎧。……まさに伝説の騎士団だ」

 次に、アルクはカイルと、かつて鉱石班を率いていた冷静な男、ボルドを呼んだ。

「二人は『貿易・外交班』。カスティアとの交渉、物資の管理、そして外の世界の情報収集。この国の『財布』と『目』になってほしい」

「……任せとけ、アルク。あのカスティアの国王を黙らせたんだ、商売敵なんて怖くねぇよ」

 カイルは不敵に笑い、すでに手元の羊皮紙に次の輸出リストを書き込んでいた。

 こうして、アルクを頂点とした王国の組織図ピラミッドが完成した。

【王:アルク】——国家設計・資源生成・最高意思決定

【騎士団長:ガラム】——軍事・防衛・訓練(白い騎士団)

【貿易外交班:カイル&ボルド】——経済・交渉・物流・諜報

 中央本部のオフィスでは、それぞれの班が図面や帳簿を囲んで熱心に議論を交わしている。

 ガラムは訓練場で白馬を駆り、模擬戦の号令を飛ばす。

 カイルはエルフと一緒に他国からの使者を迎えるための応接室で、茶の淹れ方一つから部下を仕込んでいる。

 

 アルクは本部の最上階、特注の巨大な窓から眼下に広がる王国を眺めた。

 整然と並ぶ石造りの家々からは夕食の煙が上がり、地下からは清らかな水の流れる音が心地よく響いてくる。鉄の城壁は夕日に燃え、その外側ではマグマが脈打つ。

 

「……完璧だ。これなら、何が来ても揺るがない」

 だが、アルクのその自信を嘲笑うかのように、運命は動き始めていた。

 貿易の成功、そして「奇跡の果実」の噂は、飢えた獣たちの耳にまで届いていた。

 

 森の最深部。

 アルクが「環境整備」で追い出した魔物たちが、より凶暴な、より巨大な「ある存在」の下に集結していた。

 数千の赤い瞳が、銀色に輝く城塞都市を見据えている。

 

 少年の設計図にはなかった、初めての「敵襲」。

 アルクが作り上げた「最高の遊び場」を護るための、最初の試練がすぐそこまで迫っていた。


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