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第6話:白い馬と、未知なる大国への招待状

エルフの秘伝の種と、アルクが廃棄物から作り出した「栄養ブロック」。

二つの掛け合わせにより、エデル王国に「奇跡の農作物」が実る。

その圧倒的な美味さと、ガラムが感じた不思議な効能……。アルクはこれを武器に、大国カスティアへの外交を決意する!

エルフが連れてきた白馬に跨り、使者として向かったのは、頭脳明晰な青年カイルと、助手(という名の黒幕)アルク。

目の前に現れたのは、悠久の歴史を誇る巨大な王都だった。

「対等な貿易」を求めるカイルの弁舌が、国王を動かし、国交が樹立される。

だが、アルクの真の狙いは貿易の先……大国カスティアさえも「リフォーム」の対象にすることだった!











いや無理やで?


 エデル王国の朝は、かつてない活気に包まれていた。城壁の建設で出た余剰のエネルギーが、今度は「食」へと向けられたからだ。

 アルクはまず、エルフの長・セラフィナから授かった不思議な種を最大限に活かすため、新たなブロックの開発に着手していた。

「……よし、これで配合は完璧だ」

 アルクの目の前には、茶褐色をした一辺五十センチほどの四角い塊が積み上がっている。

「アルク様、これは一体……?」

 セラフィナが不思議そうに尋ねる。

「これは『栄養ブロック』。村中から集めた雑草や、家畜の排泄物、それに生活排水の沈殿物を魔法で超圧縮・高速発酵させたものだよ。不純物を取り除き、植物が最も好む窒素やリンを理想的な比率で固定してあるんだ」

 かつての村では、肥料といえばただ溜めておくだけの不衛生なものだった。だが、アルクはそれを「規格化された資材」へと変換した。

 まず、広大な耕作放棄地を自作の魔力ショベルで一定の深さまで掘り返し、そこにこのブロックを砕いて均一に敷き詰める。その上から地下水路の水を撒けば、荒れ果てていた土壌は一瞬で、黒々とした「最強の農地」へと変貌を遂げた。

 そこにエルフ直伝の種を蒔いて数日。驚くべき光景が広がった。

 通常の数倍の速さで成長した穀物は黄金色の穂を垂らし、果樹にはルビーのように輝く赤い実が鈴なりになった。

「なんだこれ……信じられねぇ。甘い、甘すぎるぞ!」

 収穫したばかりの果実を頬張ったガラムが、目を丸くして叫んだ。

「……ん? なんだか、これ。食べた瞬間、頭がシャキッとするな。昨日までの城壁作りの疲れが、一気に吹き飛んだっていうか……妙に眠気が覚めた気がするぜ」

「ふふ、ガラムさん。それは森の精霊の加護が宿っているからですわ。少し栄養が強すぎるかもしれませんね」

 セラフィナは穏やかに微笑んだが、アルクはそのガラムの反応を心の隅にメモした。

(ただの栄養じゃないな。一種の『バフ効果』がある。これは後で、何か「いざという時」の切り札になるかもしれない)

 だが、この豊かな実りは、同時に大きなリスクも孕んでいた。

「セラフィナさん、教えてほしい。この場所の『外側』はどうなっているの?」

 セラフィナは少し表情を曇らせ、優雅な所作で西の空を指差した。

「この森を抜けた先に、カスティアという大きな王国がございます。彼らはまだ、この村に起きた変化……鉄の壁や溶岩の堀、そしてこの豊かな実りについては何も知りませんわ。ですが、いずれ必ず気づくでしょう。力が集中する場所には、必ず欲望も集まるものですから」

 アルクは腕を組んだ。

「攻められる前に、対等な関係を築かないと。……この農作物を武器に、貿易を提案しよう」

 問題は「足」だった。隣国カスティアまでは、徒歩では数日かかる距離にある。だが、アルクが頭を悩ませる暇もなく、エルフたちが森から連れてきたのは、雪のように白い数頭の「白馬」だった。

「まあ、なんて美しい馬だ……」

 村人たちが溜息を漏らす。エルフの魔力によって手懐けられたその馬たちは、どんな名馬よりも速く、そして賢かった。

「よし、僕が自ら行ってくるよ」

 アルクが白馬に跨ろうとすると、ガラムや村長、そしてセラフィナまでもが慌てて彼を止めた。

「ダメだアルク! お前がいなくなったら、この村の『設計図』が止まっちまう!」

「それに、お前はまだ十歳の子供なんだぞ。あんな大国の貴族たちに丸め込まれたらどうする!」

「皆様の仰る通りですわ。アルク様は、この王国の心臓。危険な場所へお一人で行かせるわけには参りません」

 結局、外交の使者として選ばれたのは、村の中でも特に頭が回ると評判の青年、カイルだった。彼はアルクが用意した「最高級の農作物サンプル」を馬の背に積み、アルクと共に城門を出発した。

(結局、助手ってことでついてきちゃったけどね……)

 森を抜け、数時間の騎行の末に現れたのは、アルクたちの想像を絶する光景だった。

「……でかいな」

 カスティア王国の王都。そこには、アルクたちが作った城壁に劣らぬほど巨大な石造りの壁が延々と続き、その中には何万人もの人々がひしめき合っていた。街路は整備され、巨大な大聖堂や王城が空を突くようにそびえ立っている。

「アルク、俺たちの村も凄くなったが、ここは歴史の重みが違うぜ……」

 カイルが圧倒されそうになる中、アルクは冷静に街の構造を分析していた。

(排水は甘いし、建物の配置も非効率だ。けど、この規模を一から作り上げたのは大したもんだな……。負けてられないな)

 カイルとアルクは、エルフの紹介状と、差し出した「奇跡の果実」の香りだけで、王城への謁見えっけんを許された。

 玉座の間。

 威厳に満ちた初老の国王、カスティア三世が、カイルが差し出した果実を一口、口に運んだ。

「……これは! この芳醇な香りと、溢れ出す蜜。我が国の王宮農園でも、これほどのものは作れぬ」

 国王の目が驚きに見開かれる。カイルはここぞとばかりに、アルクが事前に教え込んだ条件を滑らかに語り始めた。

「陛下。私たちは森の向こうに新しく興った、小さな、しかし豊かな王国から参りました。私たちは争いを望みません。ただ、この恵みを貴国と分かち合い、対等な貿易関係を築きたいと考えております」

 最初は「どこの馬の骨か」と冷笑していた大臣たちも、カイルの堂々たる弁舌と、目の前にある「圧倒的な商品力」に、次第に顔色を変えていく。

「対等、だと? 一介の村から出た小国が、この歴史あるカスティアと対等だというのか?」

 一人の大臣が声を荒らげるが、国王はそれを手で制した。

「……よかろう。この果実を作れるだけの技術を持つ国だ。無下にするのは我が国の損失となろう。まずは試験的に貿易を開始しようではないか」

 カイルの見事な交渉術により、貿易の条件は驚くほどこちらに有利な形でまとまった。

 何より、カスティア側はアルクたちの国を「未知の技術を持つ侮れない新興勢力」として認識したのだ。

 交渉を終え、城から出たカイルは、大きな溜息をついて崩れ落ちた。

「……死ぬかと思った。アルク、お前の言った通りの台詞を言っただけだが、あんなに緊張する仕事は二度とごめんだぜ」

「あはは、お疲れ様。でも、これで第一段階はクリアだ。カスティアの情報を手に入れながら、こっちの経済を回せる」

 帰り道、アルクは夕日に染まるカスティアの街並みを振り返った。

(あの国は、まだ『ブロック』の概念を知らない。……貿易が進んで、僕たちの建材や技術が入り込めば、あの大国だって僕の思うがままに『リフォーム』できるかもしれないな) 

 少年建築家の野望は、ついに国境を越え、巨大な隣国をも飲み込もうとしていた。 いや無理やで?

 王国に帰れば、次はこの貿易を支えるための「市場マーケット」と、さらなる「巨大建築」の設計が待っている。

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