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第5話:尖り耳の使者と、計画都市の始まり

城壁の完成後、住宅リフォームを爆速で進めるアルクの前に、森の守護者・エルフの使者が現れる。

彼女たちがやってきた理由……それは、ガラムたちが魔物を狩りまくったことへの、穏やかで慈愛に満ちた「感謝」だった。

「魔物を退治してくださって、本当にありがとうございます」

そのしとやかな言葉に、アルクは王国の未来を決定づける驚きの提案を繰り出す。

「エルフの知恵を、僕の作る王国に掛け合わせてくれませんか?」

植物を育む神秘の知力と、長い時を生きたからこそ知る世界の情勢。

穏やかで知的なパートナー・エルフを国民に迎え、エデル王国の知識は一気に盤石なものへ。

多民族国家としての温かな第一歩。アルクの「リフォーム建国記」は、また一つ大きな進化を遂げる!


 エデル村の朝は、今や「鉄の響き」と共に始まる。

 村を囲む十五メートルの城壁は、朝日に照らされて鈍い銀色の光を放ち、その足元で煮えたぎるマグマの堀は、うっすらと赤い蒸気を立ち昇らせていた。昨日まで、いつ魔物に襲われるかと怯えていた貧しい農村の面影は、もはやどこにもない。

 だが、アルクにとって「城壁」はあくまで外枠に過ぎなかった。

「さて、外側が固まったなら、次は中身コンテンツの充実だね」

 アルクは広場の中央に立ち、手にした図面を広げた。そこには、前世の「都市計画」の知識を総動員して書き上げられた、精密な街の設計図が描かれていた。

 これまでの村の家は、場当たり的に建てられた粗末な小屋の集まりだった。雨が降れば道は泥濘ぬかるみと化し、家の中まで浸水する。そんな不衛生で非効率な環境を、アルクは許せなかった。

「みんな、今からこの村の全ての家を『規格化住宅』に建て替えるよ。まずは広場に近いエリアから着手する。古い家の中にある大事なものだけ持ち出して」

 村人たちが慌ただしく荷物を運び出すのを見届け、アルクは静かに地面に両手を置いた。

 脳内で展開されるのは、一軒あたり二十坪、二階建ての石造り住宅の3Dモデルだ。耐震構造、断熱材代わりの空気層、そして何より「量産」に適したシンプルな美しさ。

「……生成ジェネレート

 ポシュッ、ポポポシュッ!

 アルクの周囲で、まるで見えない巨人がブロックを積み上げているかのような速度で、石壁が立ち上がっていく。

 使用されるのは、表面を鏡面のように滑らかに加工された特製の石材ブロックだ。それらが寸分違わぬ精度で組み合わさり、屋根には深い藍色の瓦状ブロックが並んでいく。

 ものの数十分で、十棟の美しい住宅が完成した。

「すごい……。壁に触れても、全然ざらついてない。それに見てくれ、窓にはめ込まれたこの透明な板……これ、高価な硝子ガラスじゃないか?」

 村人たちが驚愕の声を上げる。

「それは『透過強化ブロック』だよ。砂の成分を魔法で再構成して作ったんだ。これなら冬でも光を取り込みながら、隙間風を完全にシャットアウトできる」

 アルクはさらに、街全体の「高低差」にもこだわった。

「正面の城壁から奥へ進むにつれて、土地の基礎を一段ずつ、正確に三十センチずつ高くしていく。こうすることで、村のどこにいても城壁の向こうが見渡せるし、雨水は自然に外側の堀へと流れていく。……そして、この坂道の頂点には——」

 アルクは一番高い場所にある、広大な更地を見上げた。

「いつかここに、誰もが見上げるような『城』を建てる。……けど、それはまだ先だ。まずはみんなの生活を安定させないとね」

 アルクがそう言って汗を拭ったその時、城壁の上の物見櫓からガラムの叫び声が響いた。

「アルク! 大変だ、いや、大変じゃないかもしれないが……誰か来てるぞ! すごく綺麗で、なんだか……穏やかそうな人たちだ!」

 アルクは首を傾げながら、新しく設置した螺旋階段を駆け上がり、城壁の上へと立った。

 溶岩の堀の向こう岸。ゆらゆらと揺れる熱気の向こう側に、数人の一団が立っていた。

 透き通るような白い肌、風に揺れる金色の髪。そして、長く尖った耳。彼らは武器を手に持っていたが、それは構えるためではなく、ただ杖のように突いているだけだった。その立ち姿からは、攻撃的な意志が全く感じられない。

「壁の中にいらっしゃる皆様、突然の訪問をお許しください」

 一人の女性が、一歩前に出て丁寧に一礼した。その声は、春のそよ風のように穏やかで、聞く者の心を落ち着かせる不思議な響きを持っていた。

「私たちは、この先の森に住まう者です。この地に突如として現れた、あまりにも立派な銀の壁と、煌々と燃える炎の河に驚き、ご挨拶に伺いました。……何より、皆様にどうしてもお礼を申し上げたいことがあったのです」

 礼? アルクは少し意外に思いながら、眼下の客人を見つめた。

「……跳ね橋を下ろして。中に入ってもらおう。失礼な対応はしたくないからね」

「いいのか、アルク? 相手はあのエルフだぞ。魔法の扱いじゃ人間より遥かに上だって聞くが……」

「大丈夫だよ。あんなに優しくて丁寧な挨拶ができる人たちが、いきなり攻めてくるとは思えない。それに、僕たちはもう『王国』なんだ。客人を迎えるくらいの度量を持たなきゃ」

 ギギギ、と炭素繊維の縄が唸りを上げ、巨大な鉄の跳ね橋がゆっくりと下ろされた。

 村の中に入ってきたエルフたちは、周囲を見渡しながら、静かに、しかし深く驚嘆の表情を浮かべた。

 彼らが今まで見てきた「人間の村」といえば、泥にまみれ、不揃いな丸太が並ぶ、粗末な場所だったはずだ。だがここには、自分たちの森の都にも劣らぬほど整然とした、美しい石の街並みが広がっている。

 アルクは広場の中心、新しく作った石の噴水のそばに、その場で「ポシュッ」と数脚のベンチを生成した。

「どうぞ、座ってください。急なことだったので、あまりお構いはできませんが」

「まあ……わざわざ私たちのために、このような腰掛けを。ありがとうございます。とても細やかなお心遣いに感謝いたしますわ」

 エルフの女性は、しとやかにベンチに腰を下ろすと、慈愛に満ちた眼差しでアルクを見つめた。

「改めて、自己紹介をさせていただきます。私は森の民の長を務めております、セラフィナと申します。……今日伺いましたのは、この森に再び静寂をもたらしてくださった皆様に、感謝の印を届けたかったからなのです」

「感謝、ですか?」

「ええ。近頃、私たちの森では魔物たちが異常に増え、精霊たちが宿る古き木々が傷つけられておりました。私たちは争いを好まぬゆえ、心を痛めるばかりでしたが……。ここ数日、その魔物たちが次々と姿を消したのです。風の噂によれば、こちらの勇敢な方々が、見たこともない鋭い刃でそれらを退治し、平らげてくださったとか……」

 ガラムが後ろで「へへっ」と照れくさそうに鼻の下を擦った。

「いやぁ、アルクのくれた剣が凄すぎてよ。オークの群れなんて、ただの『歩くステーキ』にしか見えなかったんだ」

「おかげさまで、森の木々も精霊たちも、ようやく安らかに眠れるようになりました。私たちエルフにとって、これ以上の恩義はございません」

 アルクはセラフィナの穏やかな言葉を聞きながら、脳内の設計図をさらに大きなものへと書き換えた。

「セラフィナさん。もしよろしければ、一つご相談があるんです」

「はい、何なりとおっしゃってください。私にできることであれば」

「エルフの皆さんは、植物を育てる知恵がとても深いと聞いています。この村……いえ、この王国をより豊かなものにするために、力を貸してくれませんか? それから、長く生きておられる皆さんなら、今の世界の情勢についてもきっと詳しいはずです。どこの国がどんな動きをしているのか、僕たちに教えてほしいんです」

 アルクはセラフィナの目を見て、真摯に言葉を紡いだ。

「僕は、この場所を世界で一番安全で、豊かな場所にリフォームしたい。僕には『建物』を作る技術はありますが、その中で暮らすための『歴史』や『知恵』が足りません。エルフの皆さんがこの国で一緒に暮らして、知恵を貸してくれるなら、僕は皆さんのために最高に居心地の良い住まいと、この鉄壁の守りを約束します」

 セラフィナは驚いたように目を瞬かせ、やがてふんわりと、百合の花が咲くような微笑みを浮かべた。

「数百年を生きて参りましたが、これほどまでに純粋で、かつ頼もしいお誘いをいただいたのは初めてですわ。……アルク様、あなたの瞳には、偽りも欲もございませんね。ただ、素晴らしいものを作りたいという、清らかな情熱だけが宿っています」

 セラフィナはベンチから立ち上がり、アルクの手を優しく、包み込むように握りしめた。

「分かりました。私たちのささやかな知識が、皆様の描く素晴らしい未来のお役に立てるというのなら、喜んで協力させていただきます。今日から、私たちはあなたの国民として、共に歩ませていただきますわ」

 こうして、エデル王国に初めての異種族……森の賢者たちが加わった。

 広場では早速、エルフたちが持ち寄った不思議な種を、村の男も女もみんなが教わりながら丁寧に植え始めている。それは、ただの農作業ではなく、新しい国を育てる儀式のようだった。

 

「よし。食料自給率の向上、外交情報の収集……。これで国の基礎ベースは完璧だ」

 アルクは満足げに頷くと、一番高い場所にある「城」の予定地を見上げた。

「そろそろ、みんなが誇りに思えるような、世界で一番美しい『玉座』の設計に入ろうかな」

 少年の描く王国は、人種や種族の垣根を超え、温かく、そして圧倒的な力強さを持って、大陸の歴史にその名を刻もうとしていた。


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