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第4話:寝て起きたら城壁、仕上げはマグマと水路で

第4話

「一晩で、これ全部作ったのか……!?」

朝起きると、村は銀色の塀に囲まれていた。

アルクが寝る間も惜しんで一人で作り上げた、完璧な「鉄のブロック」の土台。

その輝きに触発された村人たちは、昨日食べた肉のパワーを爆発させ、たった半日で高さ15メートルの巨大城塞を積み上げる!

さらに、アルクの狂気的な効率化は止まらない。

「普通の縄じゃ切れるから.......」

「バケツリレーは非効率だ.........」

山を穿うがち、溶岩を引き、地下に巨大水路を通す。

前世のゲーム知識と、異世界の魔法が融合した超ド級の土木工事。

貧困の村は、一夜にして大陸最強の「難攻不落の要塞国家」へとその姿を変える!




いや流石に言い過ぎやで?


エデル村の夜は静まり返っていた。だが、村の中心部では、たった一人の少年が静かな「革命」を続けていた。

「……よし、これで一周分。座標のズレは……コンマ数ミリ。許容範囲だな」

 アルクは月明かりの下で額の汗を拭った。彼の目の前には、完璧なまでの直線を描き、村をぐるりと一周囲む「銀色のライン」が鎮座している。

 それは深夜の数時間、アルクが一人で生成し続けた膨大な数の鉄ブロック。最初の一段。建築における最も重要な「基礎」だ。

 前世のゲームでは、どんな巨大な建築もたった一つのブロックを置くところから始まった。その「原体験」が、異世界の夜を銀色に染め上げていた。

 翌朝。

 男たちが目をこすりながら広場に集まった時、エデル村には「銀の境界線」が出現していた。

「な、なんだこれ……!? 昨日は影も形もなかったのに!」

「村が……囲まれてる? 誰がこんな、一晩で鉄の土台なんて……」

 動揺する大人たちの前に、大きな隈を作ったアルクが、フラフラとした足取りで現れた。その手には、すみで書かれた精密な図面が握られている。

「……おはよう。みんな、朝ご飯は食べた? これから、この村を『難攻不落』にするから」

 アルクの声は眠そうだったが、その瞳には神建築家としての熱い光が宿っていた。

「鉄のブロックはそこに山ほど生成してある。積み方は……この図面通りに。一段ごとに接合部を半ブロックずつずらして『レンガ積み』にするんだ。そうすれば、物理的な強度が最大化される」

 村人たちは、最初はその精密すぎる図面と鉄の輝きに圧倒されていた。だが、昨日食べたあの極上の肉の味が、彼らの背中を押した。

「よし、野郎ども! アルクが一人で土台を作ってくれたんだ、仕上げは俺たちの仕事だ!」

 ガラムが一番に声を上げ、巨大な鉄ブロックを担ぎ上げた。

「うおぉ! こいつ、鉄なのに手に吸い付くようだぞ!」

「アルクの魔法で表面が加工されてるんだ。滑らないし、重さの割にバランスがいい!」

 一人が動けば、全員が動く。昨日まで「どうせ俺たちは貧乏村の住人だ」と自嘲していた男たちが、今は目を輝かせて「国の壁」を積み上げていく。

「ポィンッ、ポィンッ!」

 アルクが不足分をその場で追加生成し、男たちがそれを次々と積んでいく。単純作業だが、みるみるうちに壁が高くなっていく光景は、何物にも代えがたい快楽だった。

 

 昼過ぎ。

 エデル村を囲んでいたのは、もはや木柵ではない。高さ十五メートルを超え、厚さもニメートル近い、鈍色の光を放つ「鉄の城壁」がそびえ立っていた。壁の上部には、弓兵が隠れて攻撃できる胸壁きょうへきや、物見櫓まで備わっている。

「……信じられねぇ。たった半日で、伝説の城塞都市みたいな壁が完成しちまった……」

 村長が震える手で壁に触れる。冷たく、それでいて揺るぎない鉄の感触。それは、この村が「守られている」という初めての安心感だった。

 だが、問題は正面の巨大な開口部だった。

「アルク、この入り口はどうするんだ? 扉を作るにしても、この重さの鉄を動かすなんて人間には不可能だぞ」

「だから、跳ね橋にするんだよ。……ちょっと、そこらの草を貸して」

 アルクは足元に生えていた丈夫そうな雑草を一掴みむしり取った。

「草? そんなもんで何が……」

 アルクは草の繊維一本一本を魔法の術式で分解し、その炭素構造を再構成し始めた。

「生成——超高強度・炭素繊維カーボンロープ」

 編み上がったのは、親指ほどの太さしかない、しかし漆黒の輝きを放つしなやかな縄だった。

「これを、城壁の上のフックに引っ掛けて。……ガラムさん、十人がかりで引いてみて」

 ガラムたちが半信半疑でその縄を引くと、巨大な鉄の跳ね橋が「ギギギ……」と音を立てて持ち上がった。

「なっ!? この細い縄、千切れるどころか伸びもしねぇぞ!」

「絶対に切れないから安心して。これが、この王国の『門』になる」

 さらに、アルクの計画は止まらない。

「次は防御の要だ。城壁の周りに堀を作る」

「水か? 近くの湖から引くのかい?」

「いや、水だと甘い。……マグマを流す」

 その瞬間、全員の動きが止まった。

「ま、マグマ!? んなもん、どうやって運ぶんだよ! 村が燃えちまう!」

「耐熱ブロックでライニング(裏打ち)すれば大丈夫。運搬は……これを使って」

 アルクが渡したのは、特殊な断熱加工を施した鉄バケツだった。狩猟班も総動員してバケツリレーが始まったが、溶岩の熱と重さに苦戦し、作業は遅々として進まない。

「……効率が悪すぎるな。やっぱり建築は『自動化』しないと」

 アルクの「効率厨」の血が騒ぎ出した。彼は生成した超硬度のシャベル……いや、それはもはや重機のような形をした「魔力駆動ショベル」だった。

「予定変更。みんな、バケツを置いて! 道を開けて!」

 アルクはそのまま、溶岩が噴き出す鉱山に向けて猛烈な勢いで地面を掘り進み始めた。

「運ぶ必要はない。ここまで『流路』を作ればいいだけだ!」

 シャベルが地表を抉るたびに、正確な勾配こうばいがついた溝が刻まれていく。鉱山の溶岩溜まりを最後の一突きで決壊させると、ドロドロとした赤い奔流が、設計された通りのルートを通って村へと流れ込んだ。

 ジュウウゥゥ!

 鉄の城壁の外側に、侵入者を拒絶する灼熱の「溶岩堀」が完成した。

「……恐ろしい。これなら、ドラゴンの襲撃だって耐えられるぞ」いや上がガラ空きだぞおい。

 村人たちが驚愕する中、アルクは休む間もなく、反対側の湖へと視線を向けた。

「最後はインフラだ。飲み水がないと籠城できないからね」

 今度は湖に向けて、山の下を貫通する「地下水路」の掘削を開始した。地表を流せば敵に毒を入れられる可能性がある。だからあえて、地下深くを通すのだ。

「山を……山を貫いたのか!? 魔法使いでも、そんなこと聞いたことねぇ!」魔力駆動ショベルすげぇ。

 アルクは地下水路を村の直下まで誘導し、そこから汲み上げるための「魔法ポンプ」付きの井戸を広場に配置した。

 夕暮れ時。

 オレンジ色の光が、銀色に輝く鉄の城壁を照らしていた。

 その足元には、真っ赤に燃える溶岩の堀が波打ち。

 地下からは、清らかな水の流れる音が響いている。

 

 昨日まで、隙間風に震えていた貧しい農村。

 それが今は、大陸中のどんな大都市よりも強固な「難攻不落の要塞国家」としての威容を誇っていた。

 

「……アルク。お前、本当に十歳の子供か? 神様の生まれ変わりなんじゃないか?」

 村長が、もはや敬語になりそうな勢いで尋ねる。

「ただの、少しこだわりが強いだけの建築家だよ。……さあ、外側はできた。次は村の中に『まともな家』を建てよう。今のボロ家は全部壊して、耐震耐火の一軒家にする。みんな、まだ動ける?」

 村人たちは、あまりの激務に体力的には限界だった。だが、彼らの顔には「自分たちが世界を変えている」という、圧倒的な全能感が満ち溢れていた。

「当たり前だ! この王国の国民をなめるなよ!」

「そうだ! アルク様の設計に、俺たちの筋肉で応えてやるぜ!」

 こうして、エデル村リフォーム計画は、一気に「建国」という次のフェーズへと加速した。

 前世の窓際で培った狂気的な情熱が、今、この世界の地図を書き換えようとしていた。


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