第3話:祝杯の肉と、鉄の輝き
ハズレ魔法『造形』で作ったカクカクの道具を渡し、狩猟と採掘へ送り出した大人たち。
彼らが血相を変えて戻ってきた理由……それは「獲れすぎて運びきれない」という、嬉しい悲鳴だった。
見たこともない巨大な肉、山のような高級な木の実、そして伝説級のダイヤモンド。
村を支配していた絶望は、アルクの「ポシュッ」が生み出した成果によって、一瞬で熱狂へと塗り替えられる。
さらにアルクは、誰もが驚愕する「鉄の精錬」にまで挑戦し……?
「ハズレ魔法使い」から「若きリーダー」へ。
焼き肉の香りと共に、エデル村の『王国化計画』が、ついに本格始動する!
太陽が西の山に沈み始めた頃、エデル村の広場に地鳴りのような足音が響き渡った。
「た、大変だ! 誰か、誰か人を貸してくれ!」
先頭を切って戻ってきたのは、狩猟班リーダーのガラムだった。その肩には巨大な獲物を担いでいるが、彼の顔は焦りと興奮で真っ赤だ。
「どうしたガラム、そんなに慌てて」
「村長! 獲れすぎたんだ! アルクのあの剣……撫でるだけでオークもバイソンも肉塊になっちまう。おまけに通り道にあった木を軽く叩いたら、見たこともねぇ特大の木の実がボロボロ落ちてきて……とてもじゃないが、俺一人じゃ運びきれねぇ! あっちにまだ山積みなんだ!」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、反対側の山道からボルドも駆け込んできた。
「村長! こっちもだ! 若手を全員よこせ!」
偏屈な採掘師が、これほど声を荒らげるのは珍しい。
「あのツルハシ、岩が粘土みたいに砕けるんだ。掘れば掘るほど鉄だけじゃなく、金だのダイヤモンドだの、見たこともねぇ宝石がゴロゴロ出てきやがった! だが、重すぎて半分も持って帰れねぇ! 盗賊にでも見つかったら一大事だ!」
広場にいた大人たちは、最初は何が起きたのか理解できず呆然としていた。だが、二人が持ち帰った「証拠」……宝石の輝きと、滴るような極上の肉を見た瞬間、村の空気が一変した。
「……おい、嘘だろ? あの『死の山』からダイヤを?」
「アルクの魔法は、本当だったんだ……!」
「お前ら、突っ立ってんじゃねぇ! カートを出せ! 背負い籠を持て!」
村長の号令で、先ほどまでアルクを「ままごと魔法」と笑っていた者たちが、今や競うように駆け出した。
「アルク、悪かった! 俺も運ぶぞ!」
「俺はあっちの肉の回収だ!」
村中の男たちが山へ、森へと散っていく。アルクの「ポシュッ」という音が、停滞していた村の歯車を強引に回し始めたのだ。
数時間後。
広場には、信じられないほどの物資が積み上がっていた。
巨大なバイソンの肉、溢れんばかりの木の実、そして夕日に不気味なほど鋭く光る鉄鉱石や宝石の山。
「肉はさっき直した納屋へ入れて。あそこは保冷機能が完璧だから。……それから、鉱石はこのままじゃ危ないから、即席で『金庫』を作るよ」
アルクは広場の隅に手を置いた。
「ポポポポポシュッ!」
一瞬で厚さ三十センチの石材ブロックが組み上がり、完璧な直角を持つ頑丈な倉庫が完成した。大人たちはその手際の良さに、もはや驚くのを忘れて拝むように見つめている。
そこでアルクは、運ばれてきた鉄鉱石を一つ手に取った。
(石はもういい。次は、もっと強度の高い素材に挑戦だ……)
前世で見た「製鋼」の知識を魔法に上書きする。不純物を抜き、炭素量を固定し、原子レベルで『規格化』された鋼鉄のイメージ。
「……生成」
ポィンッ。
石の時とは違う、硬質で涼やかな音が響いた。
アルクの手の中には、一点の歪みもない、完璧な銀色の輝きを放つ「鋼鉄のブロック」が握られていた。
「鉄まで……一瞬で精錬したのか……」
ボルドが震える手でそのインゴットを撫でる。伝説の鍛冶師でも一生かかって作れるかどうかの純度が、アルクの手のひらの上で「ポィンッ」の一言で誕生したのだ。
その夜、村は数十年ぶりの「祭り」に包まれた。
広場には巨大な焚き火が焚かれ、ガラムが持ち帰った肉が豪快に焼かれる。
「うめぇ……! こんなに腹一杯食えるなんて、夢じゃねぇのか!」
「アルク、さっきは馬鹿にして本当にすまなかった!」
大人たちが次々とアルクのもとにやってきては、恥ずかしそうに、だが心からの感謝を伝えていく。
一人の少年を「ハズレ」と蔑んでいた村は、今や一つの「チーム」になろうとしていた。
「いいよ、別に。……でも、これからはもっと忙しくなるから。明日からは全員で、この村を守るための『城壁』を作る。遅れないでね」
「おう!! 任せとけ!!」
村人たちの地鳴りのような返事が夜空に響き、焚き火の火の粉が舞い上がる。
アルクは肉を頬張りながら、満足げに周囲を眺めた。
前世のホワイト企業では、仕事は「ただこなすもの」だった。だが今は、自分がブロックを一柱置くたびに、人々の顔に希望が灯り、世界が理想へと近づいていく。
(さて……。食料、資材、そして団結。下地は整った。次は、このだだっ広い土地をどう『王国』にリフォームしてやろうかな)
炎に照らされた少年の脳内には、すでに未来の巨大な王都の設計図が、3Dモデルのように鮮明に展開されていた。




