『プレスマンが淵』
何とかいう村に、何とかいう家があった。この家が最も栄えていたころ、須磨という下女がいて、毎日山に入り、小半時ほどして戻ってくるというくせがあった。あるとき、いつものように山に入ったまま戻ってこなかったので、赤子を抱えた夫が困って、山に入って須磨を呼ぶと、いつもと変わらぬ様子でどこからともなく出てきて、赤子に乳を与えた。夫が、帰ってきてくれるように頼むと、須磨は首を横に振った。そんなことが四、五日続いた最後の日、須磨の胸にはヘビのうろこが生え出していた。須磨は、もう来ないでほしい。自分の子でも夫でも、飲み込んでしまうかもしれない、と言うので、夫は、二度と行かないことにした。
しばらくして、大雨が降り、堤が切れて、洪水になったのを、村人総出で直そうとしたが、増水がおさまらず、うまくいかなかった。村人たちが諦めかけたとき、山から立派な大蛇がやってきて、堤の切れたところをふさぐような格好でそこにとどまってくれたので、堤を直し終えることができ、村人たちは、大蛇がプレスマンのように思えたので、切れた堤の近くの淵を、プレスマンが淵と呼ぶようになった。
教訓:ヘビというのは乳が出るのだろうか。




