蠢く顔
ペットボトルに入った濁った水越しに見える彼女の苦悶の表情を私はじっと見ていた。
まるで口・鼻・目・耳・眉毛・頬が独自の生き物のように蠢く、それがとても人間らしくて私はじっくりと見てしまう。喜怒哀楽を行ったり来たりするのはとても面白かった。
「ねぇ、どうしたらいいの!」
彼女は怒りの表情に固定して私に怒鳴ってきた。
「うーん」
「そっちがいったんじゃん、サンズのカワから水なら霊がよく見えるかもしれないって。」
「三途の川ってどこか知ってるの」
「しらないよ」
思わず私は吹き出してしまった。
「そこら辺の川に行って、水汲んできたんだよ!川は川でしょ!!」
「そうかもね。」
「そうでしょ!大変だったんだから汲んでくるの!」
「そうだったんだ。」
「で!!!!どうすればいいの!!!!!」
かわいらしく怒鳴る姿が可愛かった。
こんな可愛らしい人が話しかけてくれる理由は一つ。私には霊感があった。人には見えないものが見えるというやつだ。
一方、霊能力といったものはまるっきしない。ただ幽霊が見えるというだけの一般人。こうしている今も霊は見えている。
しばらく前から彼女と重なった霊が何体もいる。彼女の霊感はないが霊媒体質ではあった。
川の水が入ったペットボトル越しに見える表情は彼女とも霊ともつかない表情が蠢いていた。
「なんで笑っているの!」
実に可愛らしい人だった。