長浜アトランティス
シナリオセンターにあった石田三成関係の募集に投稿したシナリオです。
○琵琶湖
テレビ「静かな佇まいを見せる、日本最大の
湖、琵琶湖。だが、琵琶湖の湖底には謎の遺跡が存在すると言われている」
湖底から突然、謎の居城が空に浮かび
上がる。
○石田家・居間
テーブルに肩肘をついて、あんぐりと
テレビを見つめる石田三男(11)。
テレビには琵琶湖に謎の居城が浮かんでいるCG映像が写っている。
テレビ「もしかしたら謎の天空城が眠ってい
たりするかもしれない」
ぼんやりとテレビを見つめる三男。
三男「謎の遺跡……。天空城……。かっけぇ」
テレビ、場面が琵琶湖に浮かぶ竹夫島に変わる。
そして、祖母、石田千衣子(70)が映る。
都久夫島神社に通う、石田千衣子さん(70)のテロップ文字。
三男の両脇から父、石田重夫と母、石田富子がテレビに顔を寄せる。
重夫「おっ、出るぞ!」
富子「お義母さん!お義母さん!早く!」
千衣子「はいはい」
お勝手から居間にやって来る千衣子。
重夫と富子に顔を寄せられ、うざそうな石田。テレビ局には千衣子がテレビに出た。
タレント「この都久夫須麻神社、琵琶湖に浮かぶ竹夫島にある神社だそうで」
千衣子「ええ、はい」
タレント「それであの、琵琶湖の湖底には謎の神殿が存在するんでしょうか」
千衣子「ええ、ありますね」
ニッコリ笑う千衣子。
幾つかの質問のあと、番組はCMに変わり、コーナーが変わる。
重夫「本当に母さん出てたなあ」
富子「もう、びっくりよ」
ほうっと溜め息を吐く三男。
三男「琵琶湖の底に遺跡かあ。天空城かあ」
憧れの目で宙を見つめる三男。
三男「かっけぇなあ~。なあ婆ちゃん、本当
にあるんだよな」
千衣子「あるよ」
重夫「ははは」
すっくとテーブルから立ち上がる三
男。
三男「おっし、決めた」
重夫「何が」
三男「俺、絶対に琵琶湖の湖底遺跡を見つけ
てやる!」
富子「はあ?ちょっと、そんなの本当にはな
いからね」
三男「母さん、水差すな!婆ちゃんがテレビ
であるって言ってたよ!」
千衣子「あるよ」
三男「ほら!」
千衣子「もう、お義母さん」
三男「俺、絶対に湖底遺跡見つけてやる!」
重夫「おい、三男。湖底遺跡を見つけるのは
いいが、余り、無茶はするなよ」
○小学校・教室
呆れた顔の八井南(11)。
八井「そんなのあるわけないじゃん」
三男「だって婆ちゃんがあるって言った」
八井は三男の前の席に座り、足をぶら
ぶらさせながら三男の方に向いている。
ピンクのリボンの髪飾りを付け、ピンクの可愛らしい服を着た、瀬能美芽子(11)が三男の机に手を置いている。
美芽子「三男くんのお婆ちゃん、テレビに出
てたねぇ。凄いなあ。私もあの番組見てた
よ」
三男「美芽子は天空城あると思うだろ?」
美芽子「えっと……天空城かはわからない
けど、謎の遺跡はあると思うよ。なんだか調査してるみたいだし」
三男「だろ?」
八井「三男の婆ちゃんはテレビや子供に夢見
せてやろうとしてるんだよ。リップサービ
スだよ。大体、どうやって天空城見つける
んだよ」
美芽子「あの、天空城かはわからないと思う
けど」
三男「潜る」
八井「この寒い中?三男一人でやるならいい
んじゃない。別に。但し、他の人に迷惑を
掛けないならな。琵琶湖に男子小学生の水
死体が!なんてニュースになったらシャレ
になんないぜ」
三男「むー」
美芽子「まあ、あの、二人とも。そんな喧嘩
しないで」
チャイムが鳴って担任教師が入ってくる。
担任教師「はい、出席を取るぞー」
ざわつく教室。
机に突っ伏しながら窓の外を見つめる三男。
○豊国神社
階段に腰掛ける、三男、八井、美芽子。
三男「うーん」
八井「三男、今日ずっと、うーんって言いっ
ぱなし」
三男「うっさい!どうやったら天空城に行けるか考えてるんだよ!」
八井「しつこいなあ。瀬能だって天空城なんかないって言ってるだろ」
三男「それっぽい遺跡はあるって言ってたじゃん。だよな、美芽子」
美芽子「うん」
三男、唸る。
八井「どうした」
溜め息を吐く三男。
三男「飽きた」
八井「だあっ」
がっくりする八井。
美芽子「三男くん、長く考えるの苦手
だもんね」
三男「つまんなくなってきた」
八井「三男、お前なー」
三男「隠れんぼでもしようぜ」
八井「マイペースな奴……」
○同・境内
八井「ただ、隠れんぼするだけじゃつまんな
いから何か賭けようぜ」
美芽子「えっ、何?」
三男「賭けるって何を」
八井「うーん、じゃあ、二百円」
三男「えっ、負けたら二百円出さなきゃいけ
ないのかよ」
八井「勝ったら四百円貰えるんだぜ」
三男「えっ、マジで!ちょうど今、欲しい漫
画あるんだ。頑張ろう!」
美芽子「三男くん……」
三男「頑張ろうぜ、美芽子」
何と言っていいかわからない様子の美
芽子。
美芽子「うん、頑張る」
三男と八井と美芽子「最初はグー、ジャンケ
ンポン」
三男と美芽子はグーで八井はチョキ。
八井「俺が鬼か」
腕を組み考える八井。
鳥居に寄りかかって腕をつき、目を伏せる八井。
八井「いーち、にーい、さーん、しーい」
こそこそ声で話す三男と美芽子。
三男「ほら、早く隠れるぞ、美芽子」
美芽子「うん」
逃げる三男と美芽子。
美芽子、木の影に隠れる。
本殿に入る三男。
○本殿
外から声が聞こえてくる。そっと扉の間から外を見つめる三男。
八井「瀬能見つけた」
美芽子「ええー」
八井「あとは三男だな」
三男、うろたえる。
三男「どうしよう……」
キョロキョロする三男。
三男、本殿の奥に目を向ける。
○回想・石田家
千衣子「三男、隠れんぼはいいけど、豊国神
社の本殿の奥に入っちゃいけないよ」
三男「何で」
千衣子「何でもだよ」
○元の神社・本殿
三男「奥には入るなって婆ちゃんから言われ
てたけど、仕方ないな……二百円取られたくないし」
三男、扉を開いて中に入る。
○同・境内
八井「三男、どこだよー」
○同・奥
三男「さすがに南の奴も奥までは来ないよな」
三男、扉から部屋の奥に入る。
そして、古びた箱を見つける。
三男「なんだこれ」
三男、何となく箱を手に取り、躊躇な
く開ける。
箱の中にはボロボロの紙が入っている。
三男「紙……?」
三男、紙を開く。紙は地図で、図面が描かれている。
三男「地図だ」
座り込み、地図を読む三男。
地図には豊国神社と書かれ、木の影に洞窟と書かれてる。
その洞窟から長くうねった道のりの図面。
震える三男。
三男「す……すげぇ」
三男、いてもたってもいられず、扉を開けて外に出る。
○同・境内
本殿から現れる三男。
八井「あっ、三男、いた!お前探したんだぞ!
何だよ、奥にいたのかよ」
息を切らせる八井。捕まっていた美芽子もやって来る。
美芽子「三男くん」
八井「お前ら二百円な」
三男「そんなことはどうでもいい!」
三男、地図を八井と美芽子に見せる。
三男「見ろよ!謎の地図を発見した!」
美芽子「謎の地図?」
三男「これは琵琶湖に沈む天空城に続く道が
描かれた地図に違いない!」
八井「はあー?」
美芽子「あの、地下遺跡はあるかも知れない
けど、天空城はないんじゃないかな……」
三男「とにかく、これ見ろよこれ!」
三男、地図を指差す。
指の先には、鳥居の裏に描かれた洞窟。
三男「ほら。この都久夫須麻神社の裏には洞
窟があるんだ」
三男、地図を手に神社の裏まで走る。
後を追い掛ける八井と美芽子。
○同・裏
息を切らせ嬉しそうな顔をする三男。
豊国神社の裏に洞窟がある。
三男「ほら!」
美芽子「えっ」
八井「マジかよ」
三男「洞窟だ!」
洞窟は注連縄が張られ、近くに祠があ
り、カップのお酒が備えられている。
信じられないように地図と洞窟を見比べる八井と美芽子。
三男「入ってみようぜ!」
注連縄を跨いで洞窟に入る三男。
八井「ちょっと待てよ」
美芽子「三男くーん」
慌てて三男の後を追い掛ける八井と美芽子。
○長浜市・外観
日が傾いている。
子供A「じゃあねー」
子供B「また明日学校でねー」
遊び終わった子供達が互いに別れを告げ、家路に着いていく。
○洞窟内
薄暗く、三男と八井と美芽子、三人の足音が反響する。
八井「どこまで行くんだよ」
美芽子「真っ暗だよー」
三男「大丈夫、暫く歩けばどこかに出る筈だ」
八井「どこかってどこだよ」
美芽子「本当に遺跡に続いてるのかな」
× × ×
八井「おい、三男」
三男、汗を垂らす。
三男「どこまで続くかわかんね」
八井「はあー?」
美芽子「て、天空城は……」
三男「だって暗くて地図見れねーんだもん」
ひたすら歩く三男、八井、美芽子。
八井「随分歩いたよな」
美芽子「うん。十分以上は歩いたと思う……」
三男「全然外に出ないな」
八井「なんか、迷路みたいじゃね」
沈黙が降りる。
三男「てか、地図見ても迷路みたいだなって
思った」
八井「どうするんだよ!」
美芽子「家に帰りたい……」
泣き出す美芽子。
八井「三男が泣かせた」
三男「あーもう、来た道を戻れば帰れるだろ。
ほら、美芽子、手」
美芽子の手を繋ぐ三男。
踵を返し、暫く歩く三男と八井と美芽子。
× × ×
行けども行けども、出口がない。
八井「これ、迷ったんじゃね」
三男「うん、非常に言いづらいけど、迷った」
美芽子「えぇー!そんなぁ」
へたりこむ美芽子。
美芽子「もう疲れたよ……」
歩き続ける三男ら。
× × ×
八井「腹減った」
美芽子「疲れたよ……」
三男「少し休むか。ずっと歩き通しだもんな」
その場に腰を下ろして座る三男、八井、
美芽子。
八井「冷たっ。何か濡れてるぞ」
美芽子「うん、お尻が冷たい」
三男「でも駄目だ、疲れた」
八井「俺も」
美芽子「私も」
沈黙。
三男、ポケットを探る。
三男「チョコレートがあった。食べる?」
八井「くれ」
美芽子「ちょうだい」
包み紙を剥がして、もぐもぐ、チョコ
レートを食べる三男と八井と美芽子。
八井「疲れたな」
三男「うん」
美芽子「もうやだよ……」
八井「俺だって家に帰りたいよ」三男「チョ
コレートやるから」
チョコレートを食べる三人。疲れすぎて声も出ない。
三男、最後に残ったチョコレートを手に載せる。
三男「最後の一個だ」
三男、チョコレートを食べようとするが、傍で赤い着物を着た小さな女の子、龍姫がそれをじっと見つめている。
龍姫は小さな青白い灯篭を手にしていて、三男、八井、美芽子は驚いて龍姫を見つめる。
龍姫「美味しそう」
三男「(驚いて)うわっ!」
びっくりして、三男はじっと龍姫を見つめる。
龍姫、手を出す。
龍姫「それ、私も食べたい」
三男「えっ、あっ、いいけど……」
三男、龍姫の小さな手のひらににチョコレートを載せる。
龍姫はチョコレートを食べ、嬉しそうに笑う。
龍姫「美味しい」
八井「え、誰?」
美芽子「あなた、名前は?」
三男「君、どこから来たの?」
龍姫「私はたつ」
三男「たつ?」
龍姫「私のおうち、あっちなの」美芽子「お
うちが近くにあるの?」
八井「やった!外に出られる!」
三男「君、あのー、俺達、天空城を探して迷
っちゃって。帰りたくても洞窟を出られなくて困ってたんだ。あの、君のおうちまで連れていってくれる?そしたら、俺達も家に帰れるかも」
龍姫、頷く。
龍姫「うん、いいよ。こっち」
龍姫、三男の手を繋いで歩き出す。
八井「はー、ようやく家に帰れるのかよ」
美芽子「良かったよー」
八井と美芽子も二人を追って歩き出す。
三男「竹夫島辺りにでも出るのかな?」
美芽子、龍姫と三男が手を繋ぐのを少しモヤモヤして見つめる。
やがて、洞窟の向こうから明かりが広がる。
いつのまにか、足元は水に浸かっている。
足元からサバッと鱗まみれで槍を手にした魚人Aと魚人Bが現れる。
美芽子「えっ、何?」
八井「うわ、何だ何だ」
魚人A「龍姫様!その者達は何者です!その
者達……もしや」
魚人B「人間だ、出会え~!」
三男「わ、わあー!」
逃げ出す三男、八井、美芽子。
美芽子、躓いて転んでしまう。
美芽子「きゃっ!」
三男「美芽子!」
立ち止まる八井。
美芽子の手を取る三男。
魚人Bが三男の腕を掴む。
龍姫「やめて!」
魚人B、龍姫の方を見る。
魚人A「龍姫様……」
魚人B「しかし……」
龍姫「その人達は私の友達なの」
龍姫、三男と美芽子の元に駆け寄る。
龍姫「さ、ここを出ましょ。私のおうちに来
てちょうだい」
龍姫、魚人の方を向く。
龍姫「貴方達は見張りに戻って。私は平気だから」
魚人A「はっ」
魚人B「すみませんでした」
○湖底神殿・庭
洞窟から出る三男、龍姫、美芽子、八井。
そこは、大きい神社のような建物が立ってて、幾つもの灯篭に照らされている。ゆらゆら水の中。琵琶湖の湖底。湖面から月の光が明るく降り注ぐ。
魚の群れが泳ぎ去り、三男、美芽子、八井はあんぐりとその様子を見つめる。
三男「何だ……これ」
神社のような建物を指差す龍姫。
龍姫「あそこが私のおうち」
三男「龍姫のおうち?」
八井「神社みたいだな」
龍姫「お父様は寝てるけど、私が勝手に人を
連れてくると怒るから、起こさないよう
静かにして」
三男「お父さん?」
龍姫「お父様は琵琶湖の主なの」
三男「琵琶湖……の……主?」
八井「こりゃあ……何と言うか」
美芽子「凄い……」
龍姫「こっち、履き物は脱いで」
龍姫は建物に、三男、美芽子、八井を
案内する。
美芽子「ここって水の中なの?」
八井「何で俺ら息できるんだ?」
三男「わかんない」
八井「エラなんてないぞ」
美芽子「こんな建物が琵琶湖の底にあるなん
て、聞いたことない……」
龍姫「外からはここは見えない」
○湖底宮殿
宮殿の中には全身鱗まみれで着物を着
た使用人や衛士がたくさん行き来している。
槍を手にした鱗まみれの衛士Aが近付いてくる。
衛士A「これは龍姫様。こちらの方々は」
龍姫「外へ行く洞窟で困ってたから、おうち
に呼んだの」
衛士A「また勝手に外に行かれていたのですか。旦那様がお怒りになりますよ」
龍姫「お父様には内緒にしていて」
御盆に陶器の皿を乗せ運んでいた鱗まみれの女使用人Aが近付いてくる
女使用人A「龍姫様、千衣子殿がいらっしゃ
ってますよ。何でも、お孫さんが日が暮れ
ても帰って来ないので、こちらにいらしてないかと」
びっくりして顔を上げる三男。
三男「えっ、婆ちゃん?」
女使用人A「客間にお通ししております」
龍姫、三男の手を引く。
龍姫「こっち。案内する」
八井「家に帰れるのか!」
美芽子「良かった……」
灯篭で照らされた廊下を、着物を着た鱗まみれの人々とすれ違いながら歩いて行く。
美芽子「み……みんな肌に鱗がついてるよ。
指の間に水掻きがあるし」
八井「え、何だよこれ。どういうことだよ。まさか、ここは琵琶湖の底とかじゃないよな」
三男「いや……俺にもさっぱり」
八井「お前、天空城じゃないのここ。お前が行きたがってた」
三男「う、うん」
衛士Bが怪しんで三男の匂いを嗅いできた。驚く三男。
衛士B「石田の血筋の子供か。宜しい」
ほっとする三男。
三男「どういうこと?」
龍姫「あなたが、石田家の男の子だからここに入れるの」
○同・宇賀福神の社前
廊下を歩いていると、中庭からいびきが聞こえてくる。
三男、気になってそっと社を見ようとすると、龍姫が気付く。
龍姫「あっちは、お父様の部屋よ。お父様は
ずっと寝てるの」
八井「お父様ねぇ」
龍姫「ちょっとだけ見てみる?」
龍姫、三男の手を取り、中庭への階段
を降りる。
八井「あっ、待てよ」
美芽子「うう……。また、三男くん、龍姫と
手を繋いでる」
○同・宇賀福神の社
そっと扉を開く龍姫。
龍姫「お父様よ」
社の中には、とぐろを巻いた巨大な
龍、宇賀福神が寝息を立てている。
宇賀福神「ぐぅ……すぅ」
三男「り……龍だ……もがっ」
驚きの余り、叫びかけた三男に驚い
て、八井が三男の口を手で塞ぐ。
美芽子「(小声で)す……凄いね」
八井「(小声で)龍なんて現実で初めてみるぜ
……おい、三男、ちょっとお前の頬をつね
るぞ」
三男「痛い」
八井「痛いか?痛いのか?こりゃまいった
な……」
三男「つねるなら自分の頬をつねろよ!」
美芽子「(小声で)二人共、シーッ!」
龍姫「お父様が起きちゃうわ。静かに……」
くしゃみしたそうな三男。
三男「ふぁっ……ふぁっ……」
八井「うわー!バカ!」
三男「ふぁっくしょん!」
盛大なくしゃみをする三男。
宇賀福神、うっすらと目を開けかけ
る。
ふんふんと鼻を動かし匂いを嗅ぐ宇賀福神。
宇賀福神「人間の匂いがするな」
固まる三男、八井、美芽子。
宇賀福神「人間の匂い……だが見知った懐かしい匂いだ」
大きな目を開く宇賀福神。
龍姫「お父様、あの、おはようございます」
宇賀福神、目を動かし龍姫を見る。
宇賀福神「龍姫か。何年ぶりかな」
宇賀福神、目をぎょろりと動かし三男、八井、美芽子を見る。
宇賀福神「むっ。この人間の子供達は……」
龍姫「私が入れました。道に迷ってたみたい
ですし。それに私にお菓子をくれました」
宇賀福神「ふむ」
コチコチに固まった三男、八井、美芽子。
宇賀福神「そこの子供は石田家の血の匂いが
するな。なるほど」
三男、八井に小声で囁く。
三男「な、な、な、何がなるほどなんだ」
八井「知るか!」
龍姫「お父様、石田家の方が迎えに来 てお
ります」
宇賀福神「ふむ。私は再び寝るからな。龍姫、
お前が送り届けてやれ」
三男「に……二度寝か」
龍姫、三男らに目を向ける。
龍姫「みんな、こちらに」
美芽子「あっ、うん」
○同・廊下
龍姫「お父様が許してくださって良かったわ
ね」
三男「うん」
龍姫「何か粗相をすれば、食べられちゃうと
ころだったわよ」
八井「た…食べ……」
美芽子「ひぇー」
三男「食べられなくて良かったよ」
三男、龍姫をじろじろ見て不思議そう
な顔をする。
三男「みんな鱗まみれだけど、君は人間みた
いだね」
龍姫「お母様が人間だから……」
八井「じゃあ、ハーフなわけだ」
龍姫「ハーフ?」
美芽子「血が混ざってるってこと」
龍姫、少し嬉しそうな顔。
龍姫「うん」
三男「何で嬉しそうなの?」
龍姫「友達みたいだなって思って。私、友達
っていないから……。衛士達や使用人達は
お互いが友達だけど、私は……」
三男「なんだよ。友達って言って庇ってくれ
たじゃん。俺もチョコあげたし。だから、
ってのもあれだけど、友達でいいじゃん、
俺ら」
龍姫「う……うん」
八井「友達な」
美芽子「うん、友達」
にっこり笑う美芽子に、嬉しそうな龍
姫。
だが、フッと寂しげな顔をする龍姫。
龍姫「でも、きっと忘れちゃうよ、私のこと」
三男「何で?」
龍姫「みんな、そうだから」
○同・客間
座敷の座布団に千衣子が座っており、三男らを見て立ち上がる。
千衣子「おお、三男。中々、家に帰ってこな
いから心配したんだよ」
千衣子は八井と美芽子にも目をやる。
千衣子「八井南くん、瀬能美芽子ちゃん。
あなた達の親御さん達も心配してたんだ
よ」
三男「婆ちゃん、どうしてここに」
千衣子「三男、あんた、入るなって言ってた
場所に入ったね」
三男「あ……うん」
千衣子「もしかしたらと思って、私もここに
来たんだよ。そしたら、案の定だ」
美芽子「帰れるの?」
千衣子「もちろんだよ。さあ、一緒に帰ろう
ね。これ以上、親御さん達に心配かけたら
いけないからね」
三男「ごめんなさい」
美芽子「ごめんなさい」
八井「ごめんなさい」
へたれこむ八井。
八井「ああ、帰れるんだ。良かった。でも歩
き疲れたから少し休んでもいいですか」
千衣子「ああ、そうだね。座って少し休みな」
座敷の座布団に座り出す八井と美芽子
と三男。龍姫も座り、灯篭を座敷に置く。
千衣子は龍姫を見てお辞儀。
千衣子「龍姫様が見つけてくださったんです
ね。ありがとうございます」
龍姫、小さく頷く。
龍姫「チョコレート、美味しかった」
美芽子「それで、あの、どうして三男くんの
お婆ちゃんは、その……。ここに来れたん
ですか」
千衣子「近道があるんだよ」
八井「近道?」
三男「どういうこと?」
千衣子、溜め息を吐く。
女使用人Aがお茶を出し、千衣子は茶
を飲みながら話す。
千衣子「ほら、あんた達も冷えてるんだから
お茶を飲みな」
三男「うん」
お茶を飲む三男、八井、美芽子。
千衣子「これは本当は秘密の話なんだけどね、
でも本当の話だよ」
千衣子、湯飲みを見つめる。
千衣子「実は代々石田家は、この琵琶
湖の湖底宮殿に仕える管理者なんだ。私はそれだが、息子夫婦は……三男の両親はそれを知らない」
八井「湖底宮殿……」
○琵琶湖
千衣子の声「琵琶湖の湖底には、古代から続
く遺跡が存在する」
○湖底・謎の遺跡
○湖底・宮殿
千衣子の声「遺跡の奥底には宮殿があり、龍
神が住み、そして、遺跡は宮廷の巫女であ
る血筋が仕えていた」
蠢く龍神。
○琵琶湖・湖畔
湖畔に佇む巫女。
千衣子の声「戦国時代にもその巫女はいた」」
○大阪城
豊臣軍に大群で押し掛ける徳川軍。
千衣子の声「豊臣家が滅亡の危機に瀕したと
きにね」
○叢
赤ん坊を抱く初芽(35)。
千衣子の声「初芽というくノ一の娘が、石田
三成との子供を産み育て、生き延びた。や
がて、初芽は真田幸村から豊臣秀頼の娘を
密かに預けられた。初芽は二人の子供を連
れ、夫の三成が生まれ育った土地、長浜に
訪れた」
○琵琶湖・湖畔
二人の少年を連れて佇む初芽。
千衣子の声「そして、琵琶湖にて湖底の巫女
に導かれ、湖底の城に豊臣秀頼の娘を隠し
たんだよ」
○湖底宮殿
龍神に寄りそう姫。
千衣子の声「豊臣家の姫は龍神の妻となり、
湖底の城にて暮らした」
○長浜市、琵琶湖湖畔
千衣子の声「そして、石田三成と初芽の末裔
が代々、長浜町に住み、琵琶湖の湖底遺跡
を管理していた」
○湖底宮殿・客間
千衣子の話に聞き入る、三男、八井、
美芽子。傍にいる龍姫。
千衣子「その末裔が私なんだよ。龍姫は龍神
と豊臣家の血を引く娘なんだ」
龍姫を見つめる三男。
三男「す……すげえ。やっ、やったあ……」
喜ぶ三男。
三男「やっぱり、あったんだ。琵琶湖の底に
は謎の宮殿があったんだ、あったん……」
○石田家・三男の部屋
三男「だー!」
ガバッと起き上がる寝癖の付いた三
男。
両腕を上げて口を開けたまま、固まる。
いつもの見慣れた部屋。
キョロキョロ、部屋を見回す三男
三男「あれ?……湖底宮殿は?龍姫は?」
チュンチュン、スズメの鳴き声。
○同・居間
階段を駆け下りる三男。
勢い良くドアを開ける三男。
お勝手で富子が朝食の用意をし、リビングのテーブルで重雄が新聞を広げ、祖母がお茶を飲んでいる。
富子「あら、おはよう。三男。何、昨日の汚
れた服のままじゃない。着替えてきなさ
い」
三男「湖底宮殿は!?」
富子「何、言ってんの」
重雄「三男、昨日、夜八時頃帰ってきてみん
なびっくりしたんだぞ。全く、ヤンチャな
奴だな。八井くんや瀬能さんを巻き込ん
で。本当に皆、心配したんだからな」
三男、自分の服を見つめる。泥で汚れている。
三男「え、どういうこと……」
千衣子がお茶を飲すする。
三男「湖底宮殿……」
三男、千衣子を見つめる。
三男「なあ、お婆ちゃん、湖底宮殿が本当は
あるんだよな!な!」
千衣子「三男。昨日、中々帰ってこないから皆で心配してたら、夜八時頃、泥んこで帰ってきたんだよ。そのまま寝ちゃったんだよ。三男、覚えてないのかい」
三男「えっ。そう……なんだ」
三男、千衣子を見つめる。
三男「婆ちゃん、湖底宮殿……」
千衣子「あたしはそれ以上のことは知らない
よ」
お茶を飲む千衣子。
三男「そんな……えっ」
○長浜市内
ランドセルを背負い、小学校への通学
路を歩く三男。
○小学校・外観
○小学校・教室
三男、八井と美芽子に話し掛ける。
八井「あ、三男。はよ」
美芽子「おはよう」
八井「昨日、本当散々だったよなー」
三男「あの、湖底宮殿に行ったよな。俺ら」
美芽子「えっ」
八井「はあ?湖底宮殿?何言ってんだよ。昨
日は天空城探して、結局、洞窟ん中、行き止まりで途中で帰ってきたんじゃん。泥だらけで」
美芽子「うん」
三男「えっ」
八井と美芽子を驚き顔で見つめる三
男。
三男「何言ってんだよ、湖底宮殿に行ったじ
ゃん。琵琶湖の底にある遺跡が本当は宮殿
でって。龍姫に会ってさ、な、美芽子」
美芽子、首を振る。
美芽子「知らない」
八井「龍姫って誰だよ」
三男「そんな……だって俺ら……」
○回想・湖底神殿
嬉しそうに笑う龍姫。
龍姫「友達」
○元の学校・教室
三男「……友達だって言ったじゃん」
○豊国神社・裏
洞窟の前に立つ、三男、八井、美芽子。
美芽子「ねぇ、もうやめようよー」
八井「何も無かったじゃねぇか」
三男「あったんだよ!」
八井「俺らは行かないからなー」
三男、走って洞窟の中に行く。
○回想・湖底宮殿
龍姫「きっと忘れちゃうよ」
○洞窟内
三男「俺は忘れないからな……!」
○長浜市・全景(夕)
夕暮れに佇む町並み。
並ぶ電信柱、留まっていた電線から飛び立つトンボ達。
○豊国神社
つまらなそうに座る八井と美芽子。
草むらから虫の声。
三男が洞窟から出てくる。
八井「どうだ。湖底宮殿はあったか」
三男「あったんだよ!」
美芽子「迷わなくて良かったね」
三男「行き止まりだった」
洞窟に振り返る三男。
三男「絶対にあったよ」
何がなんだかわからず、途方に暮れる三男。
八井「湖底宮殿なんかないよ」
三男「あった!」
美芽子「ふ、二人共、やめなよ……」
○石田家・倉庫(夜)
ガタガタ、倉庫を漁り、懐中電灯を手にし、家を抜け出す三男。
○豊国神社(夜)
裏へ回る三男。
○同・裏(夜)
三男、懐中電灯を照らしながら洞窟の中へ。
○洞窟内
懐中電灯を手に、ひたすら歩き続ける三男。
だが、行き止まり。
途中に道はないか探すが、道はない。
三男「そんな……他に道がないなんて」
○豊国神社・裏(夜)
しょぼくれて洞窟から出てくる三男。
○豊国神社・前(夜)
疲れ果て、階段にしゃがみ込み、琵琶湖を見つめる。
静かに波が寄せる琵琶湖、湖畔。
やがて、灯籠に火を入れて千衣子がやって来る。
千衣子「三男、あんたもう寝る時間だろう。家を抜け出して何やってるんだい」
三男「婆ちゃんこそ」
千衣子「あんたが懐中電灯持って出ていった
から、私も灯篭を出して、火を入れて追い
かけてきたんだよ」
千衣子、三男の隣に座る。
千衣子「よっこいしょ」
千衣子と三男、琵琶湖を見つめる。
夜の琵琶湖は月や星が湖面に映り輝いている。
千衣子「あのね。これは秘密なんだよ」
三男「秘密?」
千衣子「本当に秘密なんだよ」
千衣子、遠くを見つめる。
千衣子「私らは石田三成と初芽という巫女の子孫。二人は豊臣家の姫を連れてきて、琵琶湖の湖底にある龍の神殿に避難させた。豊臣家の姫は龍神の妻になった。そして、今も湖底で生きている。ひっそりとね」
三男「婆ちゃん……」
琵琶湖に目を向ける三男。
琵琶湖の水面に龍姫がふっと現れて消える。
湖面に写る星空、その向こうに湖底神殿が見える。
○小学校・朝
八井と美芽子に声を掛ける三男。
三男「湖底宮殿はあるよ」
自信を持って言う三男。
肩を竦める八井と美芽子。
八井「お前がそこまでそう言うなら、まあ」
美芽子「あるのかも知れないね」
目をぱちくりする三男。
三男「何だよ、お前ら。あんだけ否定してたくせに」
ぽりぽり、頬を掻く八井。
八井「いや、実はさ……」
目を合わせる八井と美芽子。
美芽子「あのね。昨日の夜、夢を見たの。湖底宮殿の夢」
八井「俺も瀬能も見たんで、こりゃ不思議だなって話してたんだよ」
少しだけ笑顔になる三男。
三男「夢じゃねえよ」
(終わり)