6.フレンドリーマッチ キックオフ
@シティグラウンド (ノッティンガムフォレスト本拠地)
7月初旬
監督就任から数週間経ち、シーズン開幕がもう目前に迫ってきた。チームトレーニング等で状態は悪くないとは思うが、オフ期間で地元に帰った選手などもいるため月末の開幕までに整えていく必要はある。
さらには7月に入って移籍も活発になってきたため選手層の薄いうちは数人補強する予定だ。
昨シーズン活躍した選手も何人か出す可能性もあるが、先日チーム方針を立てた際の選手については今シーズンもウチで頑張ってもらうつもりだ。
そして今日はフレンドリーマッチという名の実戦調整が行われる。
2週間でホームアンドアウェー方式での2マッチだ。といってもホームスタジアムもアウェースタジアムもこのノッティンガムシティにある。
理由は対戦相手が同じくノッティンガムが本拠地のノッツカウンティFCだからだ。
この両チームはイングランドで最も古いプロクラブ達であり、ノッティンガム・フォレスト本拠地のシティグラウンドとノッツカウンティの本拠地メドウ・レーンはトレント川を挟んで数百メートルしか距離が離れていない。
このように共通点がある試合はダービーマッチと呼ばれ、白熱した試合となり、時にはファン同士の場内外での乱闘などが起きたりするのだが、この両チームの場合は少し違う。
同じEFLリーグに所属しているが、ノッティンガムフォレストは2部リーグを彷徨い続け、ノッツカウンティは3部、4部を彷徨い続けているせいで、「どちらのチームも頑張ってくれ! 」といったバチバチのライバルというより共に戦う同士のような雰囲気がノッティンガムの市民にあるため、他の地域のダービーマッチとは異なる面白さがある。
そして何より、この数年はノッティンガムシティを代表する企業、ノッティンエナジー社が街おこしを兼ねてこの2週間をたくさんの出店や音楽祭などの催し物を主催し、街全体の大きなお祭りにしている。
ただのフレンドリーマッチで終わらせないところがさすが経営者といったところだ。
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@シティ・グラウンド 選手控え室
『よーしみんな、今日は俺の監督初陣だ。だからってなにも特別なことはないが……やっぱり試合するからには勝ちてぇなぁ!
シーズンスタートはもう目前だ!まだ調整中だとか細けぇことはあるが、まずは今日勝ってこい。
それと、若手は前後半でメンバー変えるからあんまり体力とかは考えなくていいからな。
今日はスタジアムのほとんどがこの街の人たちだ。
しっかり振舞って愛される選手になれよッ!よし、行ってこい!』
『『勝つのは俺らだぁ!! 』』
さぁーて、これから選手達は入場のセレブレーションだ。
約3万人が収容できるこのスタジアムは本日満席。ノッティンガムシティ内のスポーツパブも今日はこの試合の中継で人がごった返しているだろう。
街のみんなが楽しみにしているこのフレンドリーマッチだが、試合であることは変わらない。
ケガには気をつけてほしいが、勝ちを目指してやってやる。
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@シティ・グラウンド 実況放送席
ギュンター・ハイツマン 前監督 視点
『さぁたった今、選手入場のアンセムが鳴り響きました。両チームの入場です。本日はノッティンガムフォレスト本拠地、シティ・グラウンドでノッツカウンティとのフレンドリーマッチをお送りします。実況は私、ディッキー・スタントン。解説はノッティンガムフォレスト前監督、ギュンター・ハイツマンさんです。ハイツマンさん、よろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
『ハイツマンさん、この満員のシティスタジアムは壮観ですねぇ』
『やはりクラブにとってホームのサポーターに受け入れてもらえることほど幸せなことはないですなぁ。そしてこの両チームはライバルというより同志ですからな。今日のサポーターはどちらのチームも応援しておることでしょう』
『昨シーズンまで監督を務めていたハイツマンさんですが、もうすぐ始まる今シーズン、ノッティンガムフォレストはどのように映っていますか? 』
『新監督の元、よくまとまっていると思いますよ。主力となる選手の士気が高く、若手に挑戦するチャンスを与える監督にチームが応えようとしている。強いて言うならば層の薄さが弱点ですな。まぁ、これは私の指揮している頃からの話ですが……』
『ありがとうございます……さて、フィールドでは、選手達の握手が終わり、それぞれがポジションに着き始めています。ホームチームのノッティンガムフォレストは攻撃的な4-3-3ですねぇ』
『攻撃に厚みを持たせられる分、ディフェンスラインと中盤の間にスペースができてしまった時の対応がカギになりそうですな』
『対するノッツカウンティは5-3-2の構え。守備を固めつつ、ウイングバックを高めに配して中盤で勝負するのか、はたまたカウンターを狙うのでしょうか。チームとして格上のフォレストFCをどのように抑えるのか、期待できそうです』
『ノッツカウンティには昨シーズンの4部リーグ得点王、ニコール・ランスタッフがいますからね。25歳と若く運動量豊富なこのFWに注目です』
『そうですねえ。さぁ、時間となりました。ホイッスルでキックオフです』