4.ランチ親睦会
面白かった、続きが読みたいと思われた方は、いいね、評価、ブックマーク等もよろしくお願いします。モチベーションアップになっております。
@クラブハウス パーティルーム(チーム親睦ランチ会場)
『はぁー食った食った。会見もミーティングもいい雰囲気だったし、出だしは順調かねぇ』
選手としては世界と闘ってきた経験のあるレオンだが、正式なトップチーム監督は初ということで自分が考えている以上に緊張していたことを食事を終えて一息ついた今、実感していた。
『おい、レオ。こんなとこでまだ飯食っておったのか。一応、「親睦」ランチという名目にわざわざスタッフがしてくれとるんだから、さっさと選手やスタッフと会話してこい』
一息ついているところを、ハイツマン監督に尻を叩かれたレオンは食事がひと段落していそうな場所を探して歩き出した。
『おいおい、ファビアンとケンゴ! 若手はもっともっと食って食って身体を作るんだ。ほれほれ、ブランズを見てみろ。いや……あれは食い過ぎだな……あいつはどれだけデカくなるつもりだ!? 』
『かんとくぅぅ、その言い方はひどいですよぉ。僕は監督にジュニア時代から言われた通り、デカくて足元も上手いCBになるために頑張ってるんです!! モグモグ……』
『そ……そうか……。もう十分デカいとは思うがな……。まぁあれだ……あそこまでデカくなれとは言わないが、ファビアンとケンゴは身長の割(両者185㎝程ある)に線が細いからな。フィジカル面で負けないようにもう少し頑張ってくれ』
——————
とりあえずはチームの雰囲気は概ね良好。ベテラン・中堅も俺を歓迎してくれてる雰囲気だ。
この数年は前監督のハイツマン監督も俺も、若手の積極起用を是としたチーム運営をしてきた。そのせいでベテラン・中堅組は少し出場機会を減らしていて不満もあるかと思ったが……結果的にチームは昇格争いの常連で成績も良い為か、それほど反発はなさそうだ。
一応ここでクラブの立ち位置を説明しておくと、昨シーズンはEFLチャンピオンシップ(以降2部リーグと表記)にてリーグ順位を3位で終えた。
上位2チームは自動昇格となるのだがこの数年は毎度入れず、今年も昇格戦プレーオフにて敗れ、昇格ならずだった。この十数年2部リーグを彷徨い続けた古豪(かつては1部リーグに所属しチャンピオンズリーグも優勝2回の経験がある)ではあるが、チームとしては着実に力をつけてきている。
とはいえ、大事な場面で勝ちきれないところにチームの課題があると言える。まぁ「どんなに長くとも夜は必ず明ける」という言葉の通り、今はその復讐の機会を待つとしよう。
——————
さて、次はどのテーブルに行こうかなぁ。若手は絡んだから中堅組のとこに行くか。
チームの主力となる大事な部分だからな。それに昨年まで作戦スタッフとしてトップチームにちょくちょく顔を出していたとはいえ、中堅層は移籍による出入りが多くて俺と絡みが薄いからな………2部リーグや1部リーグを行ったり来たりするレベルのチームだと、有望なやつはすぐ引き抜かれちまう。
まぁノッティンFCは育成重視で、選手達のキャリアファーストだから良い移籍オファーは受けちまうってのがあるがな……
『さてさて、デザートの味はどうかな?諸君』
『エドワーズ監督!いやぁ、ノッティンFCのメシはいつだって美味くていいですねぇ。俺がいた古巣とは大違いだ』
そう満面の笑みで語るのは27歳イギリス人CMジョナサン・ネヴェス。
腕のタトゥーが印象的な彼は、昨シーズンからノッティンFCの中盤で攻守の要として大車輪の活躍をしている。
やや素行不良の面から1部下位チームのウルブスから放出されたものの、現在は若手の勢いが強いノッティンFCで兄貴役として落ち着いた。
たった1年でハイツマン監督の用いる戦術理解をできる賢さもあり、今のうちのチームでは市場価値が1番高い選手だ。
なお、これまでの素行不良のせいで移籍オファーは………
『たしかにここのご飯はいつだって美味い。それに希望すれば3食食べれる食堂と気分転換のできる娯楽室。そしてクールダウン用プールに最新式のサウナ。いくら歴史ある古豪のチームとはいえ、1部リーグのトップチームと比べても遜色はないのはいささかおかしいと思いますね』
そう指摘するのは同じく27歳イギリス人RBのアシュリー・コーリング。
見た目も中身も優等生でIvyリーグを卒業したかのような(していない)彼は、ハイツマン監督の秘蔵っ子で4年前の監督就任時にわざわざドイツ1部リーグから移籍してきた。
ハイツマン監督を慕って移籍オファーを断り続けてきた彼が、今シーズン以降、どんなキャリア選択をするのかでチームに大きな影響が出るため、俺は少し悩んでいる。
『たしかにクラブ順位に対して豪華な施設だな。だがそれはオーナーが本気でクラブをプレミアに昇格させる。その後も維持できるチーム作りをしようとしてるからじゃないのか?それにこの数年は本業で利益が相当出てるみたいだからな』
といいつつ実はこれには俺が一枚絡んでいる。
簡単に説明すると『日本で生活した記憶を持つ』能力のおかげだ。
以前説明したこの中途半端な能力を使って『日本の記憶』の中で成功していた企業(一部の海外企業にも)に投資しまくった。
それこそ現役時代の年俸のほとんどを。
そのおかげで俺のもともと高かった年俸は数十倍に膨らんだ。これらを使って俺はノッティンFCオーナーのリアム・ノッティンフィールドからクラブの10%のオーナー権を買い取ったのだ。副次的に投資に感謝してくれた多くの企業がスポンサーとなって今のノッティンFCの収入源にもなってくれている。
そしてさらに石油やシェールガスといった天然資源を扱っている母さんにちょこっと入れ知恵をして資源確保を進めた結果、ノッティンエナジー社をEU有数の企業にもできた。
それらの功績を用意したことでリアムさんにクラブ経営により多くの資本投入してもらえるようになったのだ。
『ドイツから移籍して4年間で毎年改良されていく施設には驚きました。でもこの環境ならみんなよりレベルアップできるはずだ。今シーズンは必ずプレミアに昇格してみせますよ』
『それは頼もしいな。正直なところ、君たち主力がいないとこのチームはまだまだ不安定だからね。今シーズンもよろしく頼むよ』
——————
レオはその後もいろいろな席を周りつつ親睦を深めたところで、最後にこのチームのキャプテンのところにやってきた。
『やぁキャプテン。隣いいかい? 』
『あぁ監督。ちょうどさっきまでグラムと監督の選手時代の話をしていたんだ。グラムが完封されたってね。ククッ』
愉快そうに笑う細身の男はイタリア人GKジャンポスト・ロッジェ。40歳ながら我がチームの守護神だ。
2002年のワールド杯日本大会でイタリア代表デビュー以降、4大会連続で出場し長らくキャプテンマークをつけていた男である。長年イタリアの名門ユーベFC(1部)に所属していたが、37歳で海外挑戦を突如表明。
しかも移籍先が2部リーグのノッティンFCということでイタリアでは話題となったが、ロッジェの『旧友に呼ばれたので行くことにした。』という会見でレオン・龍馬・エドワーズと長年親交があることを知っているファンは納得したのだった。
『昨シーズンのうちのトップスコアラーが負けた話をするとはね。ハハッ』
『それだけ貴方が偉大な選手だったってことさ。ところで今年のチームの「数字」はどうなんだい? 』
『みんなしっかり成長してるよ。この「数字」はただのポテンシャルや能力じゃない。努力の証さ』
ジャンポスト・ロッジェは数少ないレオが自身の秘密を話した友人の1人だった。
『それで…僕の「数字」はどう? 』
『ジャン………わかるだろ?加齢と共に「数字」がどうなるか説明したはずだ……知りたいのかい? 』
『以前、貴方から僕の全盛期の頃の「数字」を聞いたことがあったね。その頃のパフォーマンスと今を比べたらだいたい想像がついてしまうよ。だから正確に知りたいんだ。僕の「数字」はいくつだい? 』
『あぁ……たしかにね。今の君は……「73」だ。正直悪くはない。そりゃ全盛期の「94」に比べたら下がってはいるが……キーパーは経験の蓄積がある。単純に身体能力では決められないだろう? 』
『僕も「20」ぐらいの差はあるとは思ってたからね。そこまでショックではない。でもそろそろ引退も近いかなぁ。 』
『ここ数年は惜しいが、今年こそはプレミアを狙えるチームなんだ。まだまだキャプテンとして手伝ってくれよ? 』
『あぁそうだな。行こうプレミアへ』
『あぁ、行こう』
登場人物が多くなってきて書いている自分もこんがらがってきました……
そろそろ人物設定の回を挟もうかと思います。