3.就任会見
一部、加筆修正しました。
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@ノッティンガムフォレストFC クラブハウス
『……というわけで今日から私がトップチームの監督に就任いたします。
前監督のハイツマンさんには特別顧問としてクラブフロント陣に加入していただき今後もアドバイスをいただければ幸いです。記者の皆さんも今後お手柔らかにお願いしますね。ハハッ』
パシャッパシャッ………
『では、続いて記者質問の時間に移ります。質問のある方は挙手で………』
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田中 健悟 視点
監督就任記者会見はまだまだ終わらなさそうだなぁ〜っとボーッと選手席で眺めている俺は17歳でノッティンFC唯一の日本人選手だ。
15歳でイギリスに移住してユースチームに入団した。ポジションはRWで昨シーズンの途中、エドワーズ監督のユースチームから引き抜かれてハインツマン監督のトップチームに集合したばかりの若造だ。
なぜ日本人の俺がこんなイングランドの古豪と呼ばれるチームにいるのかというと、4年前の俺が13歳の頃にエドワーズさんに出会ったことがきっかけだ。
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@日本 東京某サッカーコート
田中 健悟の4年前(2019年夏頃)
『そこの君、さっきの試合いい動きをしていたね。それに最後の左足のシュートは強烈だった。試合でもよく左脚でパス出ししてたけど利き足は左かい? 』
試合に負けて帰りの支度をしている僕に、黒髪で優しい笑顔の外国と日本のハーフのような男性が話しかけてきた。
『ありがとうございます。まぁ試合には負けちゃいましたけどね。あと、たしかに僕は左利きだけど、なんでそんなこと気にするんですか?
それに、失礼ですけど貴方は誰? ここは関係者しか入っちゃダメなはずですけど……』
そう言うとその人は、少し苦笑いしていて、
『あーそっか、君らの世代じゃ気づかない子もいるかぁ。ハハッ。俺が最後にイングランド代表だったのは2010年だから、君が生まれた頃かな………』
僕が首を傾げていると、
『利き足を聞いたのはすこし気になる点があったからさ。君の左脚は強烈だけど、そればかりに頼って右脚をすこし疎かにしているね。
僕が相手DFだったら、君の左脚をとことん封じようとするなぁ』
たしかに僕は右脚でプレーをほとんどしない。この男の人は、この利き足の偏りは強みでもあり、弱点にもなるんだと気づかせてくれた。
ハッとした顔の僕に、ハーフの男性は満足そうな笑顔を向けると、胸ポケットから関係者札を取り出してきた。
『一応関係者だから安心してくれていいよ。ちょっと君のチームの監督さんか、君の親御さんに会いたいんだけど連れてきてもらえるかな。この大会の関係者さんが呼んでるってね』
わかったと返事をして僕は監督と観戦に来ていたお父さんを連れてきた。
すると連れてきた2人はその外国人を見た瞬間、
『ファンですッ! サイン貰えますかッ? 』
『ワールド杯日本大会の時、会場で観てましたッ!! 』
といった具合でそれはもう大興奮。
後でお父さんに教えてもらったが、その外国人は、僕が小学生くらいの時に引退してしまったが、日本人のハーフでイングランド代表のキャプテンも務めたことがあるレオン・龍馬・エドワーズだっと知った。
『すみませんね。突然お子さんに声をかけてしまいまして』
『いえいえッ!!!こちらこそ、うちの子がエドワーズさんに失礼をしてしまったようで……』
いや、そんなに失礼なことしてないと思うけどなぁ。最初は不審者だと思ったけど……
『いやぁ、まったく構いませんよ!本当にこの子とお話ししたかったのは私の方ですからね』
『そうですか……それで言ったいどのようなお話ですか……? 』
『あぁ、実は私、今いろいろな国でサッカー指導しながら有望なユースを探していまして……
今日はこの大会のアンバサダーで来ていたんですが、そんな時に彼に惹かれるものを見つけましてね。
数年以内にイギリスで監督をやる予定なので、その時チームに来てくれないかと思ったんですが』
僕のお父さんと監督の顔を伺うような顔でそう話したエドワーズさんにお父さんは、
『それは、本気で仰っているのでしょうか……? 数年というと健悟が高校生くらいには……ということですか? 』
『そうですね。15.16歳までにはイギリスにお呼びできると思います。
ただ、私はまだ監督に確定しているわけではないので、確約はできないです。
そして、おそらく参加してもらうのはトップチームではなく、まずはユースチームに……ということになると思います』
『そうですか。今ここで決められることではないので、家族と相談したいのですが……? 』
『えぇ!! もちろん! それに1番重要なことは本人の意志だ。名刺をお渡ししておきます。一度ご連絡いただければ今後の詳しいお話はそちらでしますので。今日は時間がないのでこれで! 』
僕はなにがなんだかわからないまま話が進んでいってしまっている。よくわからないが、この人は僕がイギリスでプレーできるって言ったか?
『ありがとうございます。必ずご連絡致します。ほら!健悟もちゃんと挨拶しなさい』
『えぇ!? ちょっとよくわからないけど……よろしくお願いします』
『突然すまなかったね、健悟くん。君にはサッカーの才能がある。でもその才能の「数字」は決まったものじゃない。
今後の努力で増えたり減ったりもするんだ。私は次に君に会う機会を楽しみにしているよ? 』
チラチラと僕の頭の上の方をときどき見ながらエドワーズさんは僕にそう言ったのだった。
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@クラブハウス (現在2023年)
田中 健悟 視点
『それでは監督就任記者会見は以上となります。ご参加いただきありがとうございました。記者の皆様は左手からご退場ください。選手の皆さんはこのまま監督ミーティングを行いますのでしばらくお待ちください』
『ようやく終わりかぁ』
荷物をまとめ始めた記者陣を見ながら僕は固まった身体をほぐすように伸びをした。
『この後は監督ミーティングって言ってたけど、いまさら俺らになんの挨拶するんだ? みんなエドワーズ監督のこと知ってるっていうのに』
僕の横でダルそう喋るのは同じく17歳の若手のポルトガル人STファビアン・シルバーノ。
2年前にウチのユースに合流し、その後1年でトップチームに昇格。昨シーズンはノッティンFCエースのグラムさんと交互に起用されるなど注目の若手だ。
彼もエドワーズ監督のスカウトだが当時はすでにポルトFCのユースチームに所属していたらしく、そこから引き抜いたそうだ。
『まぁ新体制が始まるんだ。スタートくらい格式ばってやってもいいじゃない? それに僕ら若手はエドワーズ監督のこと詳しいけど先輩たちはそこまで知らないでしょ? 』
『なに言ってんだケンゴ。先輩達が知らないわけないだろ?ここはジャパンじゃなくて、イングランドだぞ? 』
そう言って僕とファビー(ファビアンの愛称)の間からニョキっと顔を出してくるのは、18歳ですでに身長198㎝もある長身イギリス人CBのブランズ・ホワイト。
彼はジュニア時代からノッティンFCでプレイする選手で昨シーズンに僕と一緒にトップチームに昇格したばかりだ。
『エドワーズ監督はたしかに今は優しくて優秀な若手監督のうちの1人だが、彼は僕らが生まれた頃にはこの国を代表する選手の1人だったんだぞ?
しかもほんの10年前まで現役選手だったんだ。ウチのグラムさんが若手の頃に対戦したことがあるらしいが、引退直前のエドワーズさんとのマッチアップで完封されたらしいからな』
『グラムさんを完封ってすごいな。監督は選手時代はCBだったんだっけ? 』
『いや、晩年はCDMやってたみたいだが、代表キャプテン時代はCMだったはずだ。そんな彼をイギリスで知らないサッカー選手はいないさ』
たしかによく考えたらその通りだ。日本のサッカーファンでも知ってるくらいの名選手を知らないはずがないな……
『おい、坊主ども。そろそろ監督ミーティング始まるぞ。それと、監督の現役時代に完封されてんのは俺だけじゃねえからなぁ』
『すみません。グラムさん』
グラムさん、完封されたの気にしてるのかな?
『気にすんな。本当のことだからな。まぁ、今シーズンからその監督の選手技術も取り入れて俺らはもっと強くなる! だが、今さら監督挨拶が必要かはファビアンと同じく疑問だがな。ガハハッ』
豪快に笑うグラムさんの声にチームのみんなが釣られて笑っていた。
『なーに笑ってんだお前ら。監督ミーティング始めるぞ? 』
僕らは事情のわかってないエドワーズ監督の顔とチームのみんなの笑顔を見て、今シーズンのスタートが楽しみになるのだった。