29.若手達の日常
レオン選手編の方では背番号表記しているのに、監督編では背番号表記をあまりしてなかったことに気づいたので、本文で少しずつ表記し始めました。
【29話 登場人物】
・ケンゴ・タナカ/17歳
・ファビアン・シルバーノ/17歳
・リュード・ミケル/17歳
・マルセル・カスティーヨ/20歳
・ケイティ・ファルブラヴ/24歳
@ノッティンガム市内 某カフェ
ケイティ・ファルブラヴ (クイーンスポーツ紙 ノッティンガム担当記者)
季節は移り替わり、イギリスは11月を迎えた。ノッティンガムは平均気温が下がってきて、10度前後の肌寒い気候だ。
今日は午後からケンゴ選手とアフタヌーンティーの約束で予約したカフェに来ている。
シーズン序盤のインタビューの後、メールのやり取りと食事を何度か続けていて、お互い仕事の邪魔にならないようないい関係を築いている。
『ケンゴ君遅いわね。クラブで何かあったかしら……』
現在のノッティンガムフォレストのEFLチャンピオンシップ順位はというと、開幕から首位をキープし続けている。
戦績は11勝5分2負、38ポイントで2位サウサンプトンとは4ポイント差だ。
引き分け試合こそあるものの、得点力に優れたチームが劣勢に立たされる試合はほんのわずかだった。
チームの原動力は若手の活躍と要となる中堅・ベテラン選手の牽引力。
とりわけ目立つのは、かつての“悪童”、今は“鉄人”と呼ばれるネヴェス選手、闘志あふれるポストプレーの“猛牛”グラム選手、イタリア代表時代と変わらぬ信頼“最後の壁”ロッジェ選手。
ケンゴ選手も苦手だった足元の技術が向上し、最近はインに切り込むドリブルと右に巻いていく軌道の左脚のシュートを武器に立派なウィンガーとして成長している。
同じ右サイドで裏抜けとクロスを得意とするブレイディ選手とタイプの違うウィンガーとして、試合の流れを変えるアクセントになっているようだ。
『ごめんケイティさん。課題をやってたら支度が遅れちゃって……』
すまなそうな顔でケンゴ君が私の待つテーブルへやって来た。
予約時間を少し過ぎていたことから、ウェイターさんがすぐさまやって来てティーの準備をはじめる。後でお店には謝っておかないとね……
それにしても、週末の試合を観ていると想像もつかないけど、ケンゴ君はプロデビュー後もクラブ運営の私立学校にまだ通っているのよね。
練習なんかで相当疲れてるはずだし英語が母国語ではないのに、本当にすごいことだわ。
『ここ最近は調子がよさそうね。データ的にも途中出場にもかかわらず、得点やアシストの機会が増えてきてるわ。それに日本の代表監督からA代表のオファーも来たのでしょう? 』
ノッティンガムフォレストには、かつてU世代代表でネヴェス選手、コーリング選手が代表入りしていたけど、フル代表に呼ばれている選手はいないわね。
ロッジェ選手はイタリア代表だったけど、既に代表引退宣言をしているし……
『まだブレイディさんからスタメンを取れそうにもないけどね。代表オファーの方はうれしいけど、チームの昇格が大事だから今回はお断りしたよ。
2026ワールド杯はまだ先だし、僕が今後も結果を出せればまた呼んでくれると思う。たぶん……』
17歳でオファーがもらえるのは十分すごいと思うのだけれど、ケンゴ君はそこで満足することはないのね。
『まずは昇格ね。プレミアでプレーする選手って箔がつけば、代表内でも若いからって侮られることもなくなるんじゃない? それに選ばれたからにはスタメンでプレーしないとね』
『でも代表にはブンデスやラ・リーガでプレーする人たちもいるからなぁ。信頼してもらえるようになるには時間がかかると思うよ。だからまずはこのクラブで頑張りたいんだ』
『ケンゴ君は謙虚で素敵ね。その気持ちをいつまでも持ってプレーしてね』
私がそう言うと、ケンゴ君は照れたのかやや赤い顔で微笑みながらウェイターさんが用意してくれたお菓子をほおばった。
試合のキレのあるプレーとは裏腹でギャップを感じさせる青年に、私は少しずつ惹かれていっていることを実感していた。
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@ノッティンガムフォレスト クラブハウス食堂
リュード・ミケル 視点(17歳、能力「78」、背番号[21])
今日はオフを利用して、寮の若手(ケンゴ・ファビアン・マルセル君)が食堂に集まって朝から勉強をしていた。
勉強といってもサッカーではなく、クラブが運営する私立学校の課題や、ファビアン・シルバーノやマルセル・カスティーヨ君といった海外選手の英語の勉強だ。
僕は昨年学校を卒業した(ケンゴとファビアンは同い年だが海外留学なので卒業がズレた)のでみんなの教師役として、家も近いことから休日招集された。
今日は主にマルセル君の英会話の相手として、勉強という名のお喋りに興じていたわけだが……
『あーケンゴのヤツ、午後は例の記者さんとデートかぁ。うらやましいなぁ』
課題を一足先に終わらせて街へ向かったケンゴを羨んでいるのは、日焼けでやや浅黒い肌のイケメンポルトガル人のファビアンだ。
入団当初は、背は高いが線が細い印象だったが、最近はフィジカル面での成長著しく、細マッチョかつしなやかな身体に成長してきている。
『ケンゴ君は最近活躍してますしね。柔和なフェイスであのキレのあるプレーに惚れてしまうのはわかります。ケンゴ君も気になる彼女に良い所は見せたいでしょうし、やっぱり愛の力は偉大です』
最近のケンゴの活躍に感心しているのは、もう一人のイケメン、マルセル・カスティーヨ君。
さらさらの金髪とその王子様のような見た目で移籍後、一躍女性サポーターの人気ナンバーワンに躍り出た彼には、母国スペインに幼馴染の彼女が既にいるらしい。
身持ちが堅く付け入るスキのない彼を彼氏にした異国の幼馴染の存在に、女性ファンからは怨嗟の声が上がっているとクラブスタッフが話しているのを聞いたことがある……
『リュードは俺と一緒で独身仲間だな! マルセル君……君はいいヤツだが、幼馴染の彼女持ちという我々、彼女のいない独身組の敵だ! 悪魔だ! 』
『ファビアン……。我々って言ったって、トップチームだと彼女のいない独身のほうが少ないよ……』
拗ねた顔で課題に取り組むファビアンだが、うちのチームで彼女がいないのは若手だと僕、ファビアン・シルバーノ、コール・ウェンディの3人くらい。
他はみんな既婚者かお相手がいるようだ……
『まあまあ、そんなこと言わないで。サッカーに打ち込めるチャンスだと思って頑張ろうよ、ファビアン君。それに、遠距離恋愛も結構大変なんだよ~。ファビアン君はイギリス人彼女を探すのかい? 』
『ウ~……わかったよ~。ストライカーとして大成して、公私で必ず幸せになってやる! 』
マルセル君の柔和な笑顔に諭されて、ファビアンの機嫌も多少はよくなったようだ。
『さあさあ、ファビアンは早く課題を終わらせて! マルセル君は今日の復習やって、2人とも終わったら、街に行って“ノッティンパブ”にでも行こうか。たまには食堂じゃなく、外でフィッシュアンドチップスでも食べよう』
『おー! いいねぇ。あそこのフィッシュアンドチップスは美味いんだよねぇ。ポルトガルからここに移籍してきて、監督に初めて連れてきてもらった店があそこなんだ』
『私も監督とスタッフさんに連れて行ってもらったことがあります。レオン監督のオススメのお店らしいですね』
ファビアンもマルセル君も既に行ったことがあったか。レオン監督が選手時代から贔屓にしているスポーツパブといえば、ノッティンガム城近郊にある古いパブ“ノッティンパブ”だ。
新加入選手やスカウトでやってきた選手達が、レオン監督に連れられて一度は行ったことがあるお店。
特にイギリスに初めてやってきた海外選手たちは、名物のフィッシュアンドチップスをここで堪能するのが恒例行事だ。
『あのほのかに味付けされた特大の白身魚にほくほくのチップスが最高だよね。ここより美味しいフィッシュアンドチップスを僕は遠征先で食べたことはないよ』
『俺もマルセル君もほかのお店とそんなに食べ比べたことはないけど……ずっとイギリスに住んでるリュードが言うなら間違いないね』
『よし! それなら早く課題を終わらせよう。私の英語の復習はすぐ終わるから、ファビアンの課題次第だね! 』
勉強がそれほど得意ではないファビアンの課題は、マルセル君の復習課題の倍は時間がかかりそうだ。
『げッ……頑張って早く終わらせるから2人とも待っててね……』
見捨てられた子犬のような瞳でマルセル君と僕を見ながら勉強するファビアンを尻目に、僕はマルセル君の英語の復習課題の丸付けを進めたのだった。
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