表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/30

26.サポーターの情熱

@シティ・グラウンド プレス(報道関係者)専用ルーム

勧修寺 浩一郎 (日〇テレビ アナウンサー:レオン従弟)


 僕はこの街に滞在する1週間でチーム練習の取材をはじめ、ノッティンガムの街中での取材をこなし、ようやく待ちに待った土曜日午後のマッチデー(リーグ第9戦)がやってきた。


 対戦カードは、現在EFLチャンピオンシップ(イングランド2部)首位のノッティンガムフォレスト対2位のバーンリーということで、昇格を目指すフォレストサポーターは意気軒高といった様子だ。


試合は前半を終え、フォレストのオーウェン(OMF)選手の得点で1-0とリードした状態でハーフタイムを迎えている。


『いやぁ~この設備で2部リーグ所属とは驚きですねぇ。日本とはスタジアムの雰囲気もかなり違う』


この2週間、僕と一緒に取材をしていた日本人クルーたちは日本とのスケールの違いに驚きっぱなしだ。幼いころから何度か遊びに来たことのある僕ですら感心するこのスタジアム、はじめてくる人の驚きはひとしおだろう。


『やっぱりクラブがあるってことが街の人たちの誇りでもある点が日本とは違うかもしれないね。それが1部、2部たとえ4部リーグだろうと自分たちの街のチームなんだって想いや歴史があるんだろうね』


 ここノッティンガムの人たちは試合があれば観戦にくるし、それは老若男女問わずここスタジアムで一体化しているように僕には映った。


 特に試合開始前にノッティンガムフォレストのアンセム「Mull of Kintyre(キンタイアの岬)」。邦題では、「夢の旅人」という、イギリスではビー〇ルズの曲をしのぐ売り上げを記録したポール〇ッカートニー&ウィン〇スの名曲を、スタジアム、観客一体となって歌う(さま)は感動ものだった。


 ちなみに日本ではほとんどヒットしなかった曲なので一度聞いてみることをおススメする。当時流行したビー〇ルズと比べてみるとわかるが、なかなかユニークな曲だ。


『それにイギリスではサッカー専用のスタジアムがホームスタジアムなのに対して、日本には専用スタジアムが少ないですよね? 』


『たしかに日本は他の競技のために400メートルトラックでサッカーコートを囲ってしまう構造のスタジアムが多いよね。その点、イングランドのスタジアムは専用コートだから近いところだと、選手やコート際まで観客と3メートルくらいしか離れていないところもある』


 選手と近いことは観客とチームの一体感や熱気の創出に役立つことは間違いないだろう。もちろん乱入などの問題点も同時に抱えることにはなる。過去には群衆雪崩などで死亡事故が発生した歴史もあって、スタジアムでの観戦方法は近年色々と改良されてきている。


『このプレス専用ルームも素晴らしいですね。各社ごとの個別ブースに加えて、常にWIFIが繋がって、巨大スクリーンで試合を観戦できてル環境。さらには他会場の試合状況も常にミニモニター表示されるなんて……』


『まぁここまで最先端のスタジアムは、プレミア上位のチームや、それこそロンドンのウェンブリースタジアムやエミレーツスタジアムだろうけどね。ここシティ・グラウンドはオーナーのノッティンフィールド家と共同オーナーのエドワーズ監督の下、プレミア昇格へ向けて、近年改修や施設新設事業が盛んなんだよ』


『なるほど……オイルマネーで中東オーナーなどが増えてきた近年で、地元オーナーで復活劇とは意外ですね。あーそれにしても、うちにもこんなにデカいモニターが欲しくなりますねぇ』


 スタッフがプレス各社の個別ブースに設置されたモニターをうっとりとした表情で見つめている。


『ちなみにここの施設のモニターやIT設備は日本の企業による提供品や協賛品がほとんどだよ。ほら! このモニターだって、今回のGOGOスポーツ(TV番組)のスポンサー企業の製品みたいだよ』


『うわッ! ほんとだ。イギリスで日本製品が使われているなんて、ちょっとうれしくなりますね』


『スポンサーとしては、観客だけでなく、現地メディアへの製品アピールにもなるからね。このプレスルームの映像もしっかり取材して日本に持ち帰ろう』


まぁ、こんなに日本企業の協賛・スポンサーが多いのは、サッカー選手であり投資家でもあった龍馬君が、日系IT企業へ多大な影響力があったからって理由もあるけどね……。


 そろそろハーフタイムも終わりそうだ。席を離れていた観客達が戻りつつある。


『後半はプレスルームから出てスタジアムの熱気を感じながらリポートしようか。この一体感を日本のファンや視聴者にも感じてほしいしね』


 僕はスタッフを連れて快適なプレスルームから出て、観客達の熱気あふれるスタジアム席へと移動した。


——————

@ノッティンガム市内 スポーツパブ

ジョルナン・ケラー 視点(ノッティンパブ 店主)


 前半素早いパス回しからのオーウェン(OMF)による弾丸ボレーシュートが決まって勢いづいたフォレストは、後半も勢いそのままに、グラム(ST)と今日は左サイドで出場のシルバーノ(LW)がそれぞれ得点し、3-0で快勝。2位との勝ち点差を3広げることに成功した。


 そしてうちの店は、試合後に家に帰る前に一杯ひっかけて帰る客で今日は大盛況。


『『♪Mull of Kintyre(キンタイアの岬)♪』』


 ホームの試合前に歌われるノッティンガムフォレストのアンセムを、店内に流れるBGMに合わせて客が大合唱している。途中から流れるバグパイプ、この独特な雰囲気がグッとくるものがあるな……


『今日も監督の育てた子たちが大活躍だなぁ親父さん』


 以前うちのパブでノリッジ・シティ戦の敗戦を一緒に観戦した常連さんが今日もここで応援しに来ていた。


『若い世代が活躍するのは嬉しいねぇ。レオン監督の選手時代を思い出すよ……』


 あの頃はチームがプレミアから降格してみんなが悲しむ街で、レオン選手のワールド杯やその後の活躍にみんなが自分の子のことのように興奮していたなぁ。


『すみません。日本のTVなのですが、試合後の街の様子としてパブ内を取材させてもらえないでしょうか……』


 常連さんと昔話をしていると、店の入り口から東洋の顔つきの男が流暢なブリティッシュイングリッシュで尋ねてきた。


『あー客に確認するから、ちょい待ちな……。おーい!!日本のTVクルーが取材したいそうなんだが映してもいいかッ? 』


『『いいぞー』』『『よろこんで〜! 』』


『じゃあ、そういうこった。邪魔にならない程度に頼むよ』


『ありがとうございます。』


 先ほど取材許可を取りに来たのはリポーターだったようで、カメラを引き連れ店内の盛り上がりの様子をレポートしていた。


 しばらくすると取材が終わったのか機材をまとめ始めたようだ。


『取材させていただきありがとうございました。我々はこれで……』


『ちょい待ちな。わざわざ日本から取材に来たんだろ? ビールの一杯くらい飲んで行きな。他のスタッフにもウチから一杯出してやるから』


『えぇ……ではいただきます。お代は支払いますからね』


『親父さんの店も日本から取材が来るくらい有名になったんですかね。ハハハッ』


 うちの常連さんが揶揄してくるが、酔っ払いは無視する。


『監督に以前ここのお店を紹介されましてね……昔からある伝統的なスポーツパブだと』


『あーなるほど、若い頃の監督は結婚するまでちょくちょく来てたからなぁ。移籍でチームや国が変わっても実家に帰って来ると寄ってくれたよ』


 懐かしいなぁ。レオン監督は当時、お客たちから労われたり、愛のある叱責を受けたりしながらここに顔出していた。まぁ、お客さんからの奢りがほとんどだったけどな……


 カウンターで東洋のリポーターとうちの常連で話をしていると、奥のテーブルの方で盛大な歓声が上がった。


『ウォー!! まじかよ。スゲェな』『たしかに少し似ているなッ! 』


 何やら東洋のリポーターについて来ていたカメラスタッフを中心に、うちのお客達がこちらを観ながらワイワイ話している。


『マスター! そこのお方(東洋のリポーター)は監督の従弟さんだそうですよッ! 』


 不思議そうに向こうを見ていた俺達にお客が教えてくれた。


『あーまったく……』


 話題に上がったリポーターは頭を抱えて向こうの席の同僚を恨めしそうに見ている。


『なんだい。先に言ってくれたら大歓迎したのに』


『あまり仕事先で家族のことを利用したくないんですよ……』


 どうやらこの人は家族想いなリポーターらしい。レオン監督も人格者として尊敬される選手・監督だったが、家族は似るものなのだろうか。


『ここはノッティンガムだぞ。監督、選手は俺達の家族も同然。つまりお前さんも家族みたいなもんだ。遠慮なんかしなくていいんだぞ』


『親父さんの言う通りだ。ここでは隠すようなことじゃない。レオン監督やノッティンガムを応援する仲間じゃないか』


 常連客や他の客も温かい目で東洋のリポーターを歓迎している。


『お前さん名前は? 』


『コウイチロウと言います』


『日本人の名前は発音が難しいな。コウイチロウ。やっぱり今日はウチからの奢りだ。もっとたくさん呑んでいきな。お前さんの従兄(レオン)もそうしてたようにな。ハハハッ』


 ノッティンガムが勝って気持ちがいい今日の夜は、意外なお客を迎えてうちのパブは夜遅くまで盛り上がったのだった。





今後ともよろしくお願い致します。

よろしければブックマーク・いいね・評価もよろしくお願い致します。


別シリーズ『数字の見えるフットボーラー  〜世界一の選手を目指して〜』もよろしければ1度ご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ