21.ベテランの苦悩
編集していたら間違えてこの時間に投稿してしまいました…
明日の分だったので、明日は更新おやすみです…
@ノッティンガムフォレスト クラブハウス監督室
マルケス・カンナバーロ 視点
『水曜のノリッジシティ戦の負けで今シーズン初黒星かと思えば、昨日のリーグ第7戦対ハルシティ戦はまたも複数得点で快勝。
またここから勝てばいいんだと思えるチーム作りが俺は出来ている。
……と思っていいかな? 』
『若手が活躍し、中堅ベテランがその調子の波を補い整えてやる。今のチームは2部では十分戦っていけるでしょうね。バックラインの中堅がコーリングしかいないところは懸念点ですが』
『そこは冬の移籍市場か来シーズンで…と考えているよ。
……カンナバーロの今日の話次第では一部予定も変わりそうだが……』
今日は監督に、俺自身のキャリアについて相談するため、トレーニング後に時間を作ってもらっていた。
イタリアのナポリFCから移籍し、4シーズンをここフォレストで戦った自分のプレーのキレが落ちてきていることを実感し始めたことが原因だった。
『ロッソ・ネロの10番として活躍した監督がプレミアリーグに戻ったのは30歳頃でしたね。
当時の俺は19歳でナポリのトップチームで出場機会がポツポツ増えてきたころだった。南イタリア出身の俺ですら当時の北イタリアの雄を牽引した監督がイングランドに帰ってしまうのはショックでした。
そして、30歳になる俺にフォレストへの移籍話が来た時に頭に浮かんだのはあなたでした。これも何かの縁だと思って移籍を引き受けた。
そしてチームはここまで強くなった。だが、俺もそろそろ体力の限界が近いようです。』
イタリア各地にファンを持つロッソ・ネロの司令塔がイングランドに帰ってしまう。
これは当時、相当ニュースになった。チームとの関係が悪化しただの、契約交渉がうまくいかないだのたくさんのゴシップ記事が流れたのを今でも覚えている。
結果当時のエドワーズ監督が、『トッププロの全盛期は長くない。老いた姿でイングランドに戻ることはできない。』という会見発言で納得した。
俺の場合は全盛期をイタリアで過ごせたから、最後は自分の好きな選手がいたチームに行こうと思ったのだ。
『うーん…そうか。正直うちのディフェンス陣は経験が足りてない。セリエAで研ぎ澄まされたカンナバーロの経験は正直、得難いものだと思っている。
実はCDMウィングスさんからも今シーズンでの引退を打診されててね。彼の決意は固く、後任としてリュード・ミケル、レンタル移籍だがブラシッチも確保したことでそれは受け入れることにしたよ』
『CBでは後任ブランズ・ホワイト……少々、経験・実力不足ですかね……』
『まあ正直なところ彼はまだ成長途中といったところだね。今シーズン順調に昇格が果たせたところで各ポジションの補強はする予定だ。
だからカンナバーロにはサブに回ってもらうことにはなる可能性もありうるが、ディフェンスリーダー、精神的な支柱として来シーズン末まで残ってくれないか。』
『わかりました。ただ、やるからにはプレミア昇格後もスタメン取れるようやってやりますよ。監督だって36歳の引退までその座は明け渡してないでしょう?フフフッ』
『そう言われると、たーしかにな……まだまだカンナバーロのイタリア仕込みのディフェンス、頼りにしてますよ。』
『ci penso io(任せてください)。まずは昇格に向けて頑張りましょう。お時間取っていただいてありがとうございました』
『grazie di cuore(感謝します)一緒に頑張りましょう。頼りにしています』
『ガチャッ…(ドアの閉まる音)』
監督にそうはいったもののプレミアで来シーズン戦う場合、自分がスタメンで出続けることは難しいだろうと思う。
フィジカルコンタクトの多いイングランドサッカーは体力消耗が激しい。フォレストでディフェンスラインを統率できるのは自分か、GKロッジェさんだという自負はあるが、いつまでチームの成長に自分がついていけるのか……
嬉しいような悲しいような複雑な気持ちが胸を渦巻いているのだった。
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レオン・龍馬・エドワーズ
『引退かぁ……』
自分が引退を意識しだしたのは、カンナバーロと同じく34歳くらいだったかもしれない……
ボックストゥボックスでの攻守に渡る働きがトレードマークだった俺は33歳頃から一試合での走行距離や運動量が落ち始めていた。
自分の持ち味を引退までどう活かすか。それをひたすら考えたシーズンだったなぁ。
『コンコンッ(ドアノックの音)』
『どうぞ!開いてますよ』
『あーレオ、すまねえな』
『親父? まだクラブハウスに残ってたのか。どうしたの?? 』
『いやぁ、カンナバーロがなかなか渋い顔で監督室から出てきたのが見えたんでな。どうしたもんかと思って……』
『あーいや、ね。彼のキャリアについて相談されてね』
『なるほどなぁ。現役引退……とかについてか? 』
『まぁ…簡単にいえば、そういうこと。口外はまだダメだよ? 』
『わぁかってるよぉ。それくらいの配慮はできるわ!ハハハッ』
『僕も引退について考え始めたのは彼くらいの年齢だったからねぇ。でもまだやれると思って当時はプレーしていたけど』
『そうだなぁ。お前の場合は主戦場をCMやOCMからCDMに変えたよな。運動量的な問題からか? 』
『それもあるけど自分の持ち味を活かすにはどうしたらいいかと思ってね。俺の持ち味は多様な攻めのパフォーマンス力だったから、それを逆手に取ろうと思って』
『攻めが持ち味で守備的なポジションを?? 』
『自分が攻める側ならどんなことをされたら嫌か、どんな守りをされたら辛いかを考えたのさ。俺の長所を活かした考え方をすれば、俺が攻めあぐねるディフェンダーになれると思ってね』
『なるほどなぁ。それで晩年までが名選手と言われる息子ができたわけだ……』
『要は発想さ。人は自分の悪いところばかりみてしまうけど長所を活かせばカンナバーロだってまだまだ活躍できるさ。彼の頑張り次第だけどね』
『なるほど。じゃあお前はカンナバーロの引退を受け入れたってわけじゃないんだな? 』
『ま、簡単にいえばそういうこと。少なくとも来シーズン末までは現役でいてもらうつまりさ。守備の要としてね』
『それを聞いて安心したよ。カンナバーロがあんな顔してた理由もわかった。ヤツもお前みたいに切り替えて考えられるといいんだがな』
『それは彼次第だね…良い方向に進むことを祈ってるよ』
『俺が気になった件はそれだけだ。邪魔してすまんな。先に俺は帰るよ』
『ありがとう親父。心配してくれて。俺はもう少し残るよ! おやすみなさい』
『あぁ、おやすみ』
『ガチャッ…(ドアの閉まる音)』
レオンは自分の選手引退の頃を思い出しながら、ウィングスやカンナバーロにどんなアドバイスができるか、ジャックが帰った後もしばらく考えていた。