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19.這えば立て、立てば歩めの親心

@ノッティンガムシティ郊外 エドワーズ実家

ジャック・エドワーズ 視点(父親・ユース監督)


『ほらあなたッ!! 試合始まっちゃうわよ!! 』


『わーかってるよッ!いま帰ったばっかりなんだから…飲みの物準備してるから待ってくれ』


 週末のユースチームの午後練習を終えて帰ったばかりの俺は、紅茶を準備しようとキッチンでお湯を沸かしているとテレビの前の妻の景子に息子のレオンの試合が始まってしまうと急かされていた。


『もうレオは昔みたいに選手じゃないんだぞ? 監督なんて試合中にしょっちゅうTVに映らないんだから……』


 俺は紅茶のカップを二つ持ってリビングの景子の下へ向かった。


 今日の試合はEFLカップ(カラバオカップ)の1回戦の対ポーツマス。通常のリーグ戦とは別のカップ戦と言われるもので、イングランドにはEFLカップ(イングランド・フットボール・リーグ主催)とFAカップ(イングランドサッカー協会主催)の2つがある。


 歴史も優勝賞金も参加クラブ数(イングランド5部以下も参加できる)も多いのがFAカップで、EFLカップは通常のリーグ戦やヨーロッパリーグなどの国際大会と並行して行われるため、大手クラブにとっては旨味のない大会だ。


 しかし、中堅チームや、下部リーグからすると貴重なトロフィーを手にすることのできる機会ということで、必要な大会なのだ。


『そんなこといいのよ。レオンはどんなに成長したってわたし達の子どもなんだから…ほら! 一瞬いま映ったわよ! あの子の活躍はいつでも嬉しいわ! 』


『まぁそうだな……プレミアへこのチームを連れて行くってレオの目標は俺だっていつでも応援してるぞ』


『今日はリーグ戦じゃないから観戦も少し気楽ね。スタジアムのお客さんも少ないみたいだし』


『まぁ相手が3部リーグのポーツマスだからなぁ。うちも若手主体の構成でいくんじゃねぇか? 負けはしないと思うしな』


『勝ち進めばプレミアチームとも当たるのよね? リーグ戦とは違う楽しみがあるわね』


『中堅以下のチームにとっちゃ貴重なカップを手にすることのできる機会だからな』


『うちに飾ってあるトロフィーがまた増えるかしらね』


『就任一年目でそりゃどうだろうな……でもいずれそうなるかもな……』


 そう言ってウチの一角にあるトロフィーやメダルの飾ってある棚を俺たち夫婦は眺めた。レオンが小さい頃からサッカーで貰ってきたメダルやトロフィー、カップがたくさん置いてある棚なのだ。


『この量、よく集めたわよね……ヨチヨチ歩きであなたとクラブハウスまで遊びに行ってた子がユースに入ってそのまま選手になっちゃうなんて、あの頃は思わなかったわ……』


『レオは小さい頃から選手のプレーをよく見てる子だったよ……きっとそれでサッカーを覚えて、入団しても早々と活躍できたんだな……』


——————

@ノッティンガム・フォレストFC 練習用コート

ジャック・エドワーズ 視点(40年前・スカウトマン時代)


『レオ!! まーたパパの職場見学にきたのか!景子はどこだ?1人でここまできたのか!? 』


『パーパ! 違うよ!! 選手達を見に来たの!! どれくらい成長してるか確認にね! ママは仕事!! また油田を見つけられそうだって! 』


『5歳の子どもが選手の成長を確認って……あー! それより! 1人で来るなんて危ないだろ! それにママも仕事って言ったって、お前がこの前「ここにありそうな気がする!」ってママに伝えてたヤツだろ!? 』


『大丈夫だよ! わざわざ走ってこれる距離をバスに乗ってきたから! ママの件は……よくわかんないなぁ? 』


『まぁわかった……ハァ〜これじゃママはまた出世しちゃうなぁ……俺の方が給料低いし、ウチの大黒柱はママだよ……』


『おぉう! ジャック! 来ておったのか! む!? この子は息子さんかな? 』


『えぇ!? ノッティンフィールドさん!? ご無沙汰しております。こいつは俺の息子のレオンです。今日はクラブハウスに御用ですか? 』


『今日は息子の案内も兼ねてな。昨年大学卒業だったからな。今年からはウチの会社で働かせているんだ。チーム運営にも関わらせるつもりだ。


 ……おいこっち来いリアム!!こちらはジャック・エドワーズだ。ウチのユースに所属していたが、大学に進学するタイミングでやめて、卒業後はウチでスカウトマン兼戦術スタッフとして働いとる』


『初めまして! リアム・ノッティンフィールドです』


『たしかジャックは28歳だったな。リアムと歳が近いからな。仲良くしてやってくれ。


 ……それと奥さんのケイコくん、また油田を見つけたようだな。こりゃ特別報奨金をまた出してやらんとな!! 奥さんには頭が上がらんな! ハッハッハッ!! 』


『ありがとうございます……妻も喜ぶと思います。ハハハッ』


『やあ、レオンくん僕はリアム!レオンくんはサッカーが好きなのかな? よ〜く選手のことを観てるみたいだね』


『こんにちは! サッカー好きだよ! それに選手の成長を観るのも好き! あの11番の子と5番の子はすぐにトップチームに上げるべきだと思う! 才能があるよ!! 』


『ハハハッ、すいやせんね御曹司。この子はよく俺にも選手評価を伝えてくるもんで。親バカかと思うかもしれないですが、この子の評価は正しい気がしますね』


『そうか……ジャックさんもそう言うなら、監督に今度聞いてみよう。坊や……いや、レオ坊。君は自分でサッカーをしようとは思わないかい?周りの才能がわかるなら自分の才能だってわかるだろう?ウチにはジュニアのサッカー教室があるよ』


『自分の才能はわからない…でも挑戦はしてみたい! サッカーは才能だけじゃないんだ! 努力している人の「数字」は成長するんだ』


『ハハハッ。その歳で努力の大切さを知ってるのは立派だね。ぜひうちに入団してくれたまえ。


 ……お父さん、レオ坊のこと、いいよね? 』


『遠方からわざわざ来るわけじゃないんだ。地元の子どもがジュニア教室に通うことは構わないよ。


 ジャックの息子さんならなおさら歓迎するさ。それに、我がノッティンガムフォレストは努力と才能ある選手を歓迎するチームであることも経営の指針の一つだ』


『そうでしたね。しっかり指針を持って経営すること。未来の経営者として覚えておきます』


『よろしい。ノッティンフィールドはここノッティンガムの由緒正しい貴族の末裔だ。皆の智徳の模範となるようにな。


 ……ではジャック、レオン君我々はもう行くよ』


『ジャックさん、フロント陣営会議の際にまた会いましょう。レオ坊、ジュニア教室の方は僕が手配しておくから。来週にでも参加しにきてね。じゃあお二方とも、失礼します』


『『よろしくお願いします!! 』』


『……ふぅ、オーナーであるノッティンエナジー社の社長と御曹司がセットで来てたとはびっくりしたぜ。それにしてもレオン。ジュニア教室に通えるか? 週末は練習で友達と遊ぶ時間も減るぞ? 』


『大丈夫だよパパ。僕もう1人でここまで来れるんだから! 自分の才能がどこまでかわかんないけど、僕やってみる!! 』


『そうか…なら頑張れ! お前もみんなに負けないくらい、それ以上の才能があると俺は思うぞ! 』


 子どもの成長は早い。だが、どんなに大きくなろうがレオンが目指すことの応援だけはしてやろうと俺は思ったのだった。


——————

@ノッティンガムシティ郊外 エドワーズ実家

ジャック・エドワーズ 視点(現在)


『おい景子! いまレオンがTVに映ったぞ! 交代選手の後ろの方!! 』


『フフフッ。あなたもちょっとレオンが映っただけではしゃぐじゃない』


『んんん……』


『恥ずかしがらなくてもいいのよ。フフッ。一緒にあの子とチームを応援しましょ! ほら! 交代選手がさっそく点を決めそうよ! そこよ〜フォレスト〜!!! 』


 たとえ立場や年齢が変わっても子の活躍や成長は嬉しいものだ。今は、プレミア昇格というレオンの目標を景子と一緒に応援しよう。





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