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1.プロローグ

@ノッティンガムシティ 某レストラン


『ジャックの後ろをくっついてサッカーコートを歩るき周ってた坊やが監督になるなんてなぁ』


 酔っ払って赤ら顔ではあるが、品の良いブラウン色のスーツを着たイギリス紳士、ノッティンガムフォレストFCオーナーであるリアム・ノッティンフィールドは、そう感慨深く呟いた。


『レオは小さい時から俺の仕事に興味深々だったからなぁ。コーチングする俺の横で「あいつは才能がある」とか「彼はすぐトップチームに上がるべきだ!」とか生意気なことばっか言ってたぜ。ガハハハッ』


 1.5リッターは入るであろう大きなビールジョッキを右手に掲げているやや白髪の大男、ジャック・エドワーズが左手でフィッシュ&チップスを掴もうとしながら答えた。


『幼いレオ坊が当時のノッティンの所属選手達の練習を見て、貴方にその才能の有無を伝えてたと聞いた時は驚きましたよ。しかも、その見立てが正しかったことの方が多いんじゃないですか? 』


『たしかに……レオが練習を観に来て俺に名前を聞いてきた選手はいい素質を持った奴がほとんどだった。レオが「強くなる、育てるべきだ」と断言した奴らの中にはその後プレミアを代表する選手になったやつもいる』


『その選手を見抜く才能を待っている。そしてッ! 何よりも、選手としてこのイングランドのユニフォームを着て戦った経験のあるレオが監督になってこのチームに帰ってくるんですよ?

 この23-24シーズンからチームがどう変化して、成長していくのか期待しているんです。古豪と呼ばれるこのチームは十数年間ずっとEFLチャンピオンシップ(2部リーグ)に甘んじている……またプレミアへ……いつか……チャンピオンズリーグも……』


 親父のジャック・エドワーズとノッティンFCオーナーのリアム・ノッティンフィールドが俺の昔話とチームの行末を楽しそうに話しているのを背に、レオン・エドワーズは近くのボーイからウイスキーのグラスをもらって、そっとレストランのテラスに抜け出したのだった。


——————


『はぁ〜、火照った顔には心地よい風だ……』


 レオン・エドワーズこと、俺はレストランのテラスから夜に煌めくノッティンガム城の灯りとその周りにあるダークグリーンの森を眺め、これまでの人生を回想していた。


 俺はイギリスのノッティンガムシャーの中心街ノッティンガムシティに1978年に生まれた。2023年の今年で45歳になるおじさんだ。結婚して子どもも2人いる。


 俺の父親はノッティンガムフォレストFCでコーチングや戦術スタッフとして働くジャック・エドワーズ。俺が幼い頃からずっとスタッフとして働いている。


 母親は日本人で、このノッティンガムに本社を持つノッティンエナジー社で部長として働いている景子・エドワーズ。


 結婚する前は日本のエネルギー企業で働いていたらしいが、イギリス出張でノッティンエナジー社にきた際、街のパブで飲んでる母さんをたまたま同じパブに来ていた親父が一目惚れして交際することになったらしい。


 携帯なんてない当時の遠距離恋愛だから色々大変だったらしいが、なんやかんやあって無事結婚。


 母さんは仕事の繋がりのあったノッティンエナジー社に転職してイングランドに住むことになった。


(ちなみにノッティンエナジー社は石炭、石油、シェールガスなどを扱うイギリスを代表するエナジー企業だ。そしてそのトップがノッティンFCオーナーであるリアム・ノッティンフィールド氏。彼はノッティンガムシティを領地に持っていた由緒正しい貴族の末裔らしい。)


 つまり……俺は日本人とイギリス人のハーフだ。


 俺のフルネームはレオン・龍馬・エドワーズ。ミドルネームの龍馬は日本の幕末の偉人が由来となっているらしい。


 まぁイギリスではミドルネームも含めて呼ばれることは少ないから、友人達からはレオンやレオと呼ばれている。国籍はイギリス。


 ルーツは日本にもあるが、やはり幼少期のほとんどを過ごしている国だしサッカーを続けることを考えて国籍選択ではイギリスを選ぶことにした。


 ただ、日本には祖父母の家やオフシーズンに過ごす別荘があるから、今でもたまに日本で過ごしている。ちなみに親父も俺も日本語はペラペラだ。

 

 イングランドじゃサッカーのおかげでちょっとは有名人の俺も、日本ではただの外国人かハーフの人かな?としか思われない。

 

 一部のサッカー好きの人間には写真やサインを求められることはあるが、渋谷の交差点に行ったってほとんど気づかれないくらいだ。


 まぁ、選手時代にワールド杯に出場した年のオフシーズンは日本の空港に着いた瞬間、気づかれて揉みくちゃにされたが……(当時、日本とイギリスのハーフの俺は今大会の注目選手としていろいろテレビなどで特集されていたらしい………)

 

 しかし、ブームが過ぎると日本人のほとんどは俺に気づかない。これは日本の国民性なのか……気づかれないことに少し悲しい気持ちもあるが、オフシーズンを心穏やかに過ごしたい俺にとって日本は良い環境なのだ。


——————


『あら、こんなとこに居たのね。エマと一緒に席に戻ったらお父さん達しかいないから』


『ごめん母さん。ちょっと涼みたくなってね。それに親父とオーナーが俺の昔話をし始めたから…ソワソワしちゃってね』


『昔話? 貴方の小さい頃だったらたしかに不思議な子だったわねぇ……』


『ねぇお母様、どんな風に不思議だったんですか? レオはあまり私に教えて下さらないんですッ! 』


 キラキラした目で母さんを見るのは俺の妻のエマ。俺が28歳の時に結婚した。金髪で可愛らしい俺より四つ年下のイギリス人の女性だ。周りのイギリス人女性と比べると少し背が低く、外見もやや幼く見えるが、今では13歳と8歳の子供をもつ立派な母親だ。


『そうねぇ……簡単に言えばこの子は人の才能、それもサッカーの才能を見抜く目を持っていたのよ。こんなちっちゃくてよちよち歩きしている頃からね。それに私が教えてもいないのに小さい頃から日本のことをよく知っていたわ。自分が住んでるこのイギリスのことよりね。フフッ』


『 ??? 』


 母さんの話をよくわかっていない顔で首を傾げるエマ。


『まぁ私の感覚的には……ってことだからねぇ。わからなくても仕方ないわよ。でも、私の日本人の血がこの子になにか影響があったのかもとか思ってたりするわ。良い意味でねッ』


『なるほどぉ……』


『エマちゃん。早めにお父さん達のところに戻りましょう。あの呑兵衛たちからお酒を取り上げさせないと。明日も仕事があるのを考えてないんだから、まったくもうッ! 』


『そうですねぇ。レオもそのウイスキーで最後だからねッ? 』


『あぁー……わかったよ笑。明日もあるし、これ飲み切ったら戻るから母さんと先に行っててくれ』


『はーーーいッ♪ 』


——————


 母さんが言ったように俺は幼い頃から不思議な子だった。それはみんなに伝えていない秘密が2つあったからだ。


 1つ目は、『人のサッカーの才能らしきものを見抜く力』だ。これを俺は「数字の能力」と呼んでいるが……具体的には、サッカー選手の頭上にそいつのサッカーの能力又はポテンシャルだと[思われる]「数字」が見えるという事だ。


 この、[思われる]という曖昧な言い方になってしまうのは、正直俺もこの「数字」が何を示しているのか断定できないから……


 これまでその「数字」を観察してきた経験から、この「数字」はサッカー選手がサッカーをしている時だけ頭上に見えて、そいつの今の能力、そして未来のポテンシャルを示しているんじゃないか……という推測でしかないからだ。


 まぁ簡単に言えば、ゲームでよくみる強さの指標を示している「数字」みたいなもんだと思ってくれればいい。


 この「数字の能力」があったから、幼い頃から親父の横でサッカーを観る、そして自分がプレーするきっかけになったんだ。


 だがしかし……この「数字の能力」で自分の能力を見ることはできなかった………


 でも、そのおかげで自分のポテンシャルに慢心したり、逆に限界を知って心が折れたりすることなく、努力してプロサッカー選手として大成することもできたんだ。

 

 まぁ、自分のプレーと周りの「数字」の見えるプレーヤーを比べることで、だいたい自分がこの辺りの「数字」を持ってるんだと予想することはできたが……


 2つ目は、『日本で生活した記憶を持つ』こと。正確には、1978年から23年頃までの別の世界線、いわゆるパラレルワールドの日本で生活した人物の記憶があることだ。


 なぜパラレルワールドなのかというと、その世界線ではロ○アが近隣のウ○ラ○ナに侵攻していたり、世界的なトップサッカー選手であるクリス○○ーノ・ロナ○○がサウジアラビアのチームに移籍など、俺の世界では起きていない事象が起きている記憶だからだ。


 それに俺の世界ではクリス○○ーノ・ロナ○○という名前のサッカー選手はいない。


 逆にこの世界で活躍した選手の名前も『日本で生活した記憶』には存在しないしな。だからこの記憶なのか俺の妄想なのかはわからないが、この『日本で生活した記憶』はあくまで参考程度に活用している。


 一部同じ歴史だったり同一名の人物がいたりするが、所々に相違がある記憶なので信用しきることはできないのだ。



 そんな俺は、父親の仕事の関係で幼い頃にサッカーに触れて能力に気づき、そして自分もサッカーをしながら育った。


 16歳で当時プレミア(1部リーグ)とEFLチャンピオンシップを行ったり来たりするノッティンガムフォレストのプロチームと正式契約を結んで、1年プレーした後、イングランドアンダー世代代表として選ばれた。

 

 その後は、プレミアの他チームの移籍オファーを受けたりイタリアやスペインリーグで活躍した後、最後はマンチェスター・Uというプレミアに属するチームで36歳引退。


 今は顔にハリがなくなってきたおじさんになっちまったが、これでもチャンピオンズリーグ優勝経験やイングランド代表としてワールド杯に出場した経験もある。


 引退後は、有識者として少し活動したり、日本を含む世界各地のサッカーチームでユースの指導をしたりスカウト的なことをして、この数年はユースやサブチーム監督として経験を積んできた。


 まぁ、俺の現役時代や引退後の話はまた今度にしよう。


 そしていよいよ、明日からはこの古巣のノッティンガムフォレストFCの監督なんだ。



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