発明品2 城内一斉身体検査…その裏で行われていた比喩的な意味での身体検査
『???視点』
それは完璧だった。
某男爵家からの紹介状は本物だ。五年契約の給金の十年分の値段で娘の家から買い取ったのだ。
雑なやり方なら命と一緒に奪う事もできたし、そもそも偽造もできた。だが我らは違う。事件が大きくなると露見する確率もあがる。それなら金で静かにさせればよい。
その娘は我が国の某所で働いている。五年後には何食わぬ顔で家に戻り、都合三倍の金を手にする事になる。
こうして、その娘と背格好の近い私が、いくつかのプロフィール…子供の頃の思い出から、父母の癖や好物など…を覚え、無事に侍女として王城内に入り込む事に成功した。
なのに、入って三日目にして身体検査だと?!何があったのだ?
いや、焦ることはない。こんな下働きの顔など覚えている訳がない。そもそも詳しく確認される前に入れ替わっていたのだ。
「はいはい。ちゃんと外で見張ってるから安心して脱いで!それも取って。それも外す。」
みんな風呂場以外で大人数で服を脱ぐのになれていないせいか、モジモジしてなかなか脱がない。
しかし私はハニートラップの訓練も受けている。この程度の羞恥心など克服している!
「…いやそこまでは良いから」
…先に言え!これでは私一人が露出狂みたいではないか!
…って、前に出て取り仕切っている奇妙な恰好のチビ助は噂の厨二王女ではないか?!数々の有用な発明とそれに数倍する意味不明なトラブルで『王国の発展を三歩進めて三歩下がらせる』狂気の発明家。異世界から転移せし賢者を自称する、そのような時空の乱れはここ三十年観測されていないのに、本当にそうではないかと思わせてしまう天才少女。
今回の大規模調査にはどのような意味があるのか?まさか私一人をあぶり出すために…いやいや、今のところ思い当たる落ち度はない。ならば他国のバカが何かしでかしたか?とにかく落ち着け。
「このカードに名前と年齢と所属部署を書いて」
まずは小手調べか?フン、なめるな!経歴偽装など基本中の基本。
「天秤量りしかないじゃない、これは時間がかかるわね…今度までにバネ秤を開発しとかなきゃ」
なに?!また何か画期的発明品があるのか?どれくらい時間短縮できる発明品なのだ?この情報はぜひ本国に持って帰らなければ!
「いいいから。医者と言えばこの恰好なのよ」
それにあの衣装も。何か新しい魔法かシステムの一環なのか?
「キャッ!」
などと考え事をしていたら誰かとぶつかってしまった。
「ごめんなさい」
「いいのよ。あなた、この前入ったばかりの新人ね?私はアリス、あっちはベティーとキャサリンよ。なにか困ったことがあったら私たち先輩にいいなさいよ」
「あ、はい。その時は宜しくお願いします」
やっとこさ入った後輩を見つけて浮かれているのだろう。先輩風吹かせたいのであろう、このモブA・B・Cは中身はまだまだ子供だ。
しかし、顔は若く見られがちだが私の方がはるかに年は上なのだぞ。首から下のシルエットの成熟度で一目瞭然ではないか。
「あれ、あなた案外鍛えてるわね?これは色々な仕事を任せられそうね」
キャッキャウフフとはしゃいでるが、値踏みするようにジロジロ見てくる。力仕事を押し付ける気満々だな。
それにしても、普段の服を着ている状態か、あの異常に湯気が多い風呂場ならバレなかったがこんな所では私の体は少々目立ちすぎるようだ。
「それと、あなたとあなたとあなた。こっちに来て」
「はーい。今行きます。先輩方、失礼します。また後で」
私と数名、目立っているボディーラインの数名が厨二王女の前に呼び出された。
ねぇあなた達胸が大きいわよね。お母さんとか姉妹たちも大きいのかしら…ふーんそうなんだ?(遺伝的影響は大きい…っと)」
「でもあなたは、スリムな家系なはずよね?」
しまった!優秀さと背格好で選ばれて送り込まれたが、ハニートラップとしての優秀さが裏目に出るとは!
「栄養状態が良くなったからでしょうか?」
これは惚け続けるしかない!
「三日かそこらで?トトギス先生、また何かのポーションでも混ぜたのかしら?」
焦って妙な事を口走ってしまったが、何とか誤魔化せたようだ……日常的に何か薬まぜて実験してる奴がいるのか、この城は!?目の前の厨二王女の他にも!!
「それにしても、あの男爵。もっと領民を大切にするように言っとかなきゃ」
「いえいえ!それには及びません!!男爵様には大変良くしていただいてました。連絡する必要はありません」
あぶないあぶない!入れ替わりがバレる。
「そーいえば、腕とか脚とか見ると鍛えてるみたいね。…(やはり運動かしら)
どんな運動しているの?」
「あれ?この腕の筋肉の付き方、騎士に似ているわ…手のマメも」
うるさい!モブの女騎士の癖に余計な事に気づくな!言うな!
「畑仕事ですよ。クワで毎日耕してました」
「男爵家の侍女と並行してそんな事もしてたのね?苦労したのね(グスン)」
「あなた事務仕事も出来るからって推薦状に…」
「はい!それも勉強しました!」
「努力家な上に優秀なのね。流石は王城に推薦されるだけの事はあるわ」
「物理的に時間がないような…」
「解ったわ、もういいわ検査が終わったら仕事に戻って…(あの子の実家に大目に送ってあげましょう)」
なんとか切り抜けられた。しかし少々目立ち過ぎたか。これは目立たず隠れて情報を集めるより、目立って上に行って集めるに方針転換するか。
「π乙χд五か年計画よ!」
π乙χд?去ろうとする背中で聞き慣れない言葉が聞こえる。後の会話はよく聞き取れなかったが、これだけはハッキリと聞こえた。
異世界語か?この異世界言語が作戦のコード名なのか?しかも五か年にわたる長期計画とは!
潜入三日で既に重要な報告を入れなければならないとは。初めは舐めていたが重要な任務に身が引き締まる思いだ。