発明品2 城内一斉身体検査
「なんでお風呂と水着と下着だけは『げんだいにっぽん』と変わらないのかしら?」
「またですか?今度は下着ですか?」
「だってこの時代ブラはないはず…なのにコルセットはみんなしてるわ?なぜ?アンバランスだわ」
ここは王城の一角、かなり広めの会議室を借り切って、姫様の発案による(この)世界初の従業員一斉身体測定&健康診断が行われていた。
と言うのも、先日のお風呂回の後でまだまだ観察が足りないと無茶を言う姫様が、
「男湯がダメなら平民街の銭湯に…」
「「「「それだけはおやめ下さい!!!」」」」
と、必死の攻防戦の末…
「そうね。もっとしっかり観察して、数値化して統計を取らないと、だわ。できたら聞き取り調査もしたいわね」
姫様の方から出された妥協案がこれであった。
「はいはい。ちゃんと外で見張ってるから安心して脱いで!それも取って。それも外す。…いやそこまでは良いから。脱いだ服はこっちの籠の中にね。
じゃーまず手順を説明するわよ。カードは全員持った?このカードに名前と所属部署を書いて。そしたらあちらの巻き尺を張り付けてある棒の所に立って、身長を測る道具よ。カードを計測係に渡して数値を書き込んでもらうのよ。次は体重よ…しまった!天秤量りしかないじゃない、これは時間がかかるわね…今度までにバネ秤を開発しとかなきゃ…とにかくこっちで体重を。そしてB・W・H、肩幅、腕と股下も全部測って。新しい服を作るくらい詳細にね。数値はそれぞれ書き入れてね。計測が終わったらこっちのお医者さんの所に来て。悪い所や痛い所があったら相談してね。お医者さんも細かくカードに書き入れてね」
姫様の今日の恰好は普段着の上にいつもの魔法の白衣、眼帯だけは今日のための特性鏡の眼帯で首には何やら紐を垂らしていた。
健康診断のため急に王城に呼び出された医者の女性…ジョイ先生…はなぜか姫様と同じ格好させられている。もちろん白衣は普通の白衣であるが、いつもと全然違う格好に戸惑い、恥ずかしそうにしている。
「いいいから。医者と言えばこの恰好なのよ」
「それと、あなたとあなたとあなた。こっちに来て。
ねぇあなた達胸が大きいわよね。お母さんとか姉妹たちも大きいのかしら…ふーんそうなんだ?
(遺伝的影響は大きい…っと)でもあなたは…(やはり運動かしら)」
なにか気になる人がいると、個別に呼び出して聞き取り調査をしている
「…で結局、この前から姫様は何を調べているんですか?」
「π乙χд五か年計画よ!」
姫様はここぞとばかりにドヤ顔で胸をはる。
「π乙χд?……異世界語ですか?何を言っているの全く解りませんが」
「言葉の意味は分かりませんが、とにかく品のない事を言っているような気がします」
「五か年計画って、名前からして失敗しそうですが」
マーガレット他、ボディーガードの三人の女騎士…イリス、ロージー、ハナ。通称モブ・イ・ロ・ハ…
も一斉に感想を述べあう。
「第二次成長期までに“いでん”の影響か“せいかつしゅうかん”なのか、効果的な運動はあるのかを調べて実行するのよ。そしたら成人するころにはボン、キュッ、ボンでキュッ、キュッのスラーよ」
「今のは異世界語じゃなくてアホアホ語ですね」
「“ふくりこうせい”にもなって、WINーWINだわ」
「ところで姫様。今日の眼帯は何ですか?鏡の眼帯なんて珍しい」
「ただの額帯鏡よ。鏡で光を反射して真ん中の穴から覗いたら喉の奥とか見やすいでしょ?」
「「「「「 !?………… 」」」」」
「首にかけている紐は?」
「聴診器よ。紐じゃなくて管になってるの。こっちの端っこを耳に入れて、反対の端っこのラッパのミニチュアみたいなのを相手の胸に当てると…ほら、心音とか呼吸音が聞こえやすいでしょ?」
「「「「「 !!!……………… 」」」」」
「どうしたの?」
「何ですかこれ!凄い大発明じゃないですか!先に言ってくださいよ!!」
医者のジョイ先生が目を剥いて叫ぶ。凄い勢いで迫ってくる!
「え?無いの?この世界にまだなかったの?見つからなかったから手作りしたけど。てっきり誰かは持ってるだろうと…」
「この前の令嬢着装の何万分の一のコスパでしょうか?姫様の発明って、安くて地味な方が人の役に立ちますよね」
ディアーヌ・ルナスティグマイヤー・ギーマ=アーケイディア王女、通称姫様の顔はこの上もなく複雑な表情を浮かべていた。
額帯鏡と聴診器、ともに19世紀の発明品らしいです。
お読みいただきありがとうございました。
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「おお、そらワシや」でした