厨二王女対策会議2
「んじゃ、説明しますよ」
宮廷魔術師にして錬金術師、王国最高の魔法の権威、トトギス・ホルメス先生がヘラヘラ笑いながら講義を始める。
「いやー大変でしたよ。何しろ魔術師50人集めての大実験でしたからね。一番大変だったのは50人集める事でしたよ。何しろ私友達いないもんで」
((((( だろうなぁ )))))
はからずも、この場に居合わせた人の心の声はハモっていた。
「サンソンくんしか友達いないんですよ。あれは…」
「いいから実験の話を!」
王様は、すぐ脱線しそうになる話を強めに矯正させる。
ちなみに、『サンソンくん』とは先ほどトトギスを担いで連れて行った筋肉質の大男の死刑執行人のことであった。
行き過ぎた『命は平等』主義者のトトギスは、『罪の前には、罰は平等』と老若男女問わず一切の躊躇も逡巡もなく処刑剣を振り下ろす処刑人サンソンの姿に感銘をうけていた。自分の首に振り下ろされる時でさえ。
処刑人サンソンの方は、躊躇なく剣を振るうのが仕事とはいえ、人の命を奪う事にストレスを感じていた。そんな時、首を切っても切っても又やってくるトトギスは唯一ストレスなく仕事ができる相手として好ましく思っていた。
今では『お~いサンソンくーん』『なんだい、トトギス君』とファーストネームで呼び合う仲だ。
閑話休題
「あーはい。とにかく、一度に何人くらいの魔力を注ぎ込んだら水晶が爆発するかやってみました。
その過程で姫様と二人で魔力増幅器とか魔力混交器とか魔力効果器とか発明しましたよエコーとかディレイとかディストーションとか色々、あれは面白い発明でした……
あーいやいや。実験でしたね。結論から言うと、平均的な魔術師16~18人分の魔力を一度に一瞬で注ぎ込めれば爆発します。それが最低ラインですね。八回やって八回頭が吹っ飛びましたっけ。えぇ、スペアボディーが尽きたんで実験方法を変えました。
だからおかしいんですよ。姫様の頭が吹っ飛ばずに右手と顔の右半分がザクザックの血まみれになった程度で済んだのは。あの距離でとっさに防御魔法なんてありえないし、もともと何らかの魔法で守られていたか、何らかの神の加護があったか。こっちの調査は全然ですね」
「発言をよろしいでしょうか?」
長く白いヒゲと聖職者の法衣が印象的な老人が手をあげ、発言の許可を求める。
大陸の3分の2で信仰されている大宗教の、この国でのCEOエクサビエン大司教である。
「どうぞ大司教猊下」
「ありがとうございます。ここに我らが六大聖典の一つ『転生の書』があります。読んでいきますよ。
第十二章、第八節から。
“トラックに轢かれて死にがち”
“白い空間で神様に会いがち”
“そこでチートな能力もらいがち”
途中飛ばします。
“赤ん坊のころから大人みたいにしゃべりがち”
“でなきゃ、衝撃を受けて前世を思い出しがち”
“あるいは、森にポツンと一人で放り出されがち”
姫様は前二つともに該当しますな。ただ、それは両立はしえないはずなのですが」
「たしかに、赤ん坊の頃から天才の片鱗は見せていた。が、水晶爆発事件で人格が変わったと言うなら、そうも言える。生死の境を彷徨うほどの衝撃か?」
「いえ、普通に『頭を打った』『病気で高熱が続いた』あるいは、『パーティーで婚約破棄された』程度の衝撃で充分なようです」
「案外軽いな。最初のトラックに轢かれて云々で、てっきりもっと重大な事が起こるかと思った。
しかも、三つ目は精神的衝撃じゃないか?そっちでもいいのか?
どうですかお母さま?どう思います?」
「そうですね。ひいき目に見てもあの娘は天才でしたね。
でもやっぱり、爆発事件からでしょうか?三か月の昏睡状態から目を覚まして第一声が『世界が見えた』でしたからね。
いまだに言ってますね。『眼帯の奥でこの世界でないどこかの遺物が見える』ってね。
もう、かすり傷一つ、シミ一つないくらいに完治しているのにね。
後で乳母と初等家庭教師のマーガレットを呼び出して聞いてみましょう」
「水晶爆発事件で人格が変わったのなら、もっとマトモな方に変わって欲しかった」
王様のボヤキに、思わず全員が「うんうん」と頷いていた。
★
「ところでその聖典、微妙に情報が古くないですかな?」
「聖典はそう簡単にアップデートするものではございません。それができたら原理主義者も宗教戦争も存在しえません」
「あははぁ。なかなか風刺()がきいてますね(ヘラヘラ)」
読んでくれてありがとうございました。
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「おお、そらワシや」でした